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52/105

52,策略。


 差し押さえ物件は、競売にかけられる。

 そこで新しい貸主が決まるわけだ。

 この場合、賃借人であるアリシアは、こんどは新しい貸主に家賃を支払えばよい。

 だからアリシアがこの店舗から追い出される心配はない。

 が、問題は『新しい貸主』。


「錬成店に興味のある者がなることでしょう。おそらく〈銀行〉は、その者と裏取引しているため、この貸店舗の物件を差し押さえることにしたのでしょうね」

「いまだに錬成スキルの秘密が錬成店にあると思いこんでいるんだから、バカだなぁ~。まぁ『錬成店内で行方不明者が続出』している状況じゃ、疑いたくもなるだろうけども」


 と、シーラは地下室への扉を見やる。

 営業中は地下室に降りるだけだが、夜間は王都ダンジョンの最下層へのワープ扉となる。

 バカだろうか、とアリシアは一考する。確かに懲りないとは思う。

 だが狙いは悪くない。というのも、実際、錬成スキルには秘密がある。

 ダンジョンから採取する素材( 鍛冶素材ではない、一般的には使われない素材)が必要、ということ。

 正直なところ、いまだに明らかになっていない、というのは驚きだった。

 一応は、それらの錬成素材を大量採取しているシーラとは面識のないことになっているし、素材の事実を知っているのもアリシアとシーラ以外では、チェットのみ。

 チェットは余計なことを暴露しようとすれば即死する効果が付与されている(これが必要のないことを、アリシアは願っている)。

 ただ、そろそろ誰かが感づくような気もしているが、いまのところその気配はない。

 とにかく錬成素材の秘密は、かつては錬成店の地下室にあった。

 だがいまは、そこにあった素材保管庫は、シーラの隠れ家へと移動している。

 だから狙いは悪くないが、錬成店を探っている以上は、一生、答えにはたどり着けない。


「しかしねぇ、アリシア。これまで貸主は中立だったけど、競売以降は敵側に渡るかもしれないわけだよね。あまり気持ちのいいものではないけど、どう思う?」

「何か提案がおありですか?」

「二つ。一つ目の案は、競売に参加して──それは自由でしょ?──われわれがこの物件を購入する。もうひとつの案は、単純に引っ越す」

「三つ目は、静観する、でしょう。ただし〈銀行〉と裏取引した者を知るチャンスではあるので、この物件が競売にかけられるときは、シーラさんに潜入していただいて、どこが競り落とすか確認してください。表向きの貸主ではなく、その裏にいるのがどこなのかを」

「君がそういう策でいくなら、文句はないよ」


 この話は、いったんここで終わった。

 表向き、アリシアたちは差し押さえの件は知らないのだから。

 そうでなくとも、アリシアには予約帳にうまった錬成相談があり、シーラには素材集めがある。チェットは、自分の情報網もバカにならないものだなぁ、と一人感心していた。


 翌々日。

 どこかで見たことのある男と、アリシアは錬成相談していた。


 その男は、気恥ずかしそうに頭をかいている。

「いやぁ、申し訳ありません。すぐに感謝しにこなきゃいけなかったのに、つい遅くなってしまって」


「はぁ。そうですね」


 予約帳に記入された名前を見やる。ロンとある。ロン、ロン、ロン。まったく誰だか思い出せない。錬成したことがあるのかと思い、ロンの装備品(〈ファイター〉用のグローブ)を見るが、付与効果はない。


「誰でしたか?」

「……え? あの、僕ですよ。ロンです。Sランク〈グラディエーター〉と決闘するため、効果を付与してもらった」

「そうですか。しかし今は効果が付与されていないので、回数制限のあるものだったのですね」

「えーと。もしかして、まだ思い出してもらってない、とか?」

「申し訳ございません、ロンさん。私は、自分がさほど頭がよいとは思っていません。そして私は、つねに錬成スキルのため多数の思考を動かしていなければならないので、脳の容量をあけておくためにも、どうでもよいことは忘れてしまうのです。すみません」

「…………恋人を寝取られて、Sランクに決闘を挑んだEランクの冒険者ですよっ!」

「そこまで説明されたら、思い出しますよ。ロンさん。決闘も見届けました。見事なものでしたね」

「決闘を見届けてくれていたのに、僕の存在を忘れていたなんて」

「いえ決闘のことは覚えていましたよ。とても興味深い戦いで、効果付与についても勉強させていただきました。

 ですが、誰と誰が戦ったか、というのは、どうでもいいことでして──ところで、彼女さんは取り戻せましたか?」


 するとロンは悲しそうに言う。

「僕が決闘で負かした〈グラディエーター〉とは、彼女は別れたんです。だけど、こんどは僕の親友と付き合いはじめまして」


「なるほど。それで、今回もその彼女さんのことで?」

「あ、いえ、今回は違うんです。というか、僕はただお礼を言うために予約したんですよ。だけど、このタイミングで錬成相談できたんで、ひとつ依頼しようかな」

「ご自由に」


 ロンは会話のトーンを変えて言ってきた。

「最近、冒険者たちを襲っている、謎の人体発火現象のことはご存じですか?」

「いえ、知りません。しかし興味深いですね。ネトラレよりは、興味深いです」

「………」

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