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51,転。


 アリシアは小首をかしげる。

「革命ですか? よく分かりませんが?」


「つまりさ、君のやったことは、革命となりえるんじゃないの?」

 シーラはペガサスの馬首をかたむけさせて、王都への帰還ルートに入る。

「これまではまだ装備品への効果付与にすぎなかったけども、ついに人体に付与してしまったわけだよね。それも、新しいジョブを創造するに至るような。これはもう冒険者の土台を揺るがすものかもしれない」

「それで、何を懸念されているのですか?」

「君さ、こんどはガチで命を狙われかねないよ」

「私はただ、借金を完済できれば良いのですよ。そのためには手段は選びません」

「たかだか3億の借金を返すために……君が頼んでくれれば、私は5日で3億ドラクマを獲得してくるよ。こちらも手段は選ばずに。ただし、君とは違って、私は冒険者業界をひっくり返すようなことはしないけどね」

「シーラさん。これは私のゲームですので。私が店を経営して、3億の借金を完済するという」


「ところでさ。その借金、どうして君はしたの?」

「はい? ああ、いいえ違います。これは私が借りたものではありませんよ」


 それからアリシアは、かつての友人であるマリアの連帯保証人の署名を『騙されて』したのだ、と話した。

 それを聞いてシーラは、不可解に思う。このアリシアが、そんな初歩的な騙しのテクニックで騙されるものだろうか。見抜かないものだろうかと。


 シーラは、ふいにゾッとした。ある疑惑を覚えたためだ。

 アリシアは、分かっていて騙されたのだとしたら。しかもそれは何もマリアという友人を同情してとか、そういう次元の話ではない。

 多額の借金を背負うことで、新しいゲームを始めることができる、借金返済ゲームを、しかもその大義名分のもと、錬成スキルで革命を起こせるからと。

 すべてが企みの中にあったのだとしたら? 


 いやそれはおかしい。

 アリシアの話では、借金返済のことを考え始めてから、はじめて自分の錬成スキルの希少性に気付いた、というのだから。

 それに錬成スキルが革命を起こしたかったら、何も借金返済などという大義名分はなくとも、普通に錬成店を開けばいいのだから。


「アリシア。君は、得体がしれないなぁ。得体がしれないよ」

「そうですか」

「たぶん、世界を滅ぼすような人って、君のような人物なんだろうなぁ~」

 と、シーラが感慨深そうに言うので、さすがにアリシアも訂正を入れておいた。

「いえ、私はただの錬成店の店長に過ぎませんので」


 後日。エブリがやってきた。

 アリシアは昼食休憩中だったが、せっかくなので会うことにする。


「先日はありがとうございました」と頭をさげるエブリ。

「ええ。料金の支払いも滞りなく行われましたので」

「あなたのおかげで、私は自分を否定せずに、自分の道を見つけることができました。あなたは私にとっては、ただ錬成してくれただけではなく、私の人生に指針を与えてくださった。私の人生の師のようなものです」

「……ええ、そうですか。感謝していただいて、私も嬉しいです」


『人生の師』とは、ぞっとする単語ではある。

 アリシアをぞっとさせた人間は、いまのところこのエブリだけだ。


〈テンプルナイト〉のエブリが立ち去り、食後のコーヒーを飲んでいると、こんどはチェットが慌てて飛び込んできた。

「聞きましたか、店長! 僕の情報網が」


「情報網があるのですか、チェットくん?」

「ええ、実は僕なんぞにもあるんです。親戚が、〈銀行〉で働いていまして」


 アリシアにしては、これは凡ミスといえる。

 雇った者の縁故は確認しておくべきだった。まさかチェットの親戚が〈銀行〉で働いているとは。


 とはいえチェットには、錬成スキルに関する秘密を漏らそうとすれば死ぬように、デバフ効果をかけてある。

 よっていまチェットが生きているということは、余計な情報を漏らしていない、ということだ。

 それにアリシアは、チェットのことをそれなりに信用していた。70パーセントほどは。

 これはかなりの高いパーセンテージ。

 ちなみにアリシアは、誰かを100パーセント信用するということは、ありえない。母でさえも、92パーセントどまりだった(ちなみにいま生存中の者の中では、シーラが82パーセントほど)。


「親戚のかたが、どうされたのですか、チェット君?」

「〈銀行〉が、この錬成店を差し押さえようとしていんですよ!」

「差し押さえる? なぜ?」


 確かにアリシアは多額の借金をしているが、この店舗は、何もアリシアの持ち物件ではない。ただ賃貸しているだけ。


「よく分からないんですけど。とにかく、この店舗は差し押さえるそうです。所有者に債務とかあるんじゃないですかね」


 シーラが顔を見せる。

「これは、〈銀行〉からの嫌がらせかな?」

「この物件が差し押さえられることが、私の耳に届くはずではなかったのですよ。〈銀行〉としては。そこはチェット君の親戚のかたに感謝ですね」

「ふーん。つまり〈銀行〉はこの店舗物件を差し押さえて、何がしたいのかな?」

「競売にかけ、所有者を変更させたいのでしょう」


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