50,ジョブ革命。
もとのプランでは、治癒晶にプラスして、間取石で組成変更の効果を付与するつもりだった。
だがエブリに『ナイトのジョブ適性』を維持したまま、新たに回復適性を加える以上、間取石の使いかたも変わってくる。
組成変更ではなく、『ナイトのジョブ適性』組成は維持したまま、その隣に新たな組成をねじ込む。
ねじ込む……不安要素があるとしたら、まさにここ。
これが力技であることは否定できず、そこにエブリの人体異常のリスクがある。
クリーチャー化の。
まったくもって、これは新たな試み。
ジョブ適性を効果付与で改変し、それによって新たなジョブを創りだそうという──創造することは、知的好奇心をうずかせる。
「では、試しましょう」
脳内で、素材保管庫に接続。
治癒晶と間取石を無ガ石でかけあわせ、調整。
エブリという女騎士に、効果を付与する。
否、叩き込む。
エブリはしばし呆然としていた。
とたんエブリの全身を覆っていた〈ブラックナイト〉の漆黒装甲が輝き、処女雪のような純白の鎧と変わる。
これが〈テンプルナイト〉へのジョブチェンジの成功を意味しているらしい。
アリシアは顔をしかめる。
「この現象は、意味がわかりませんね。ジョブが変わって、なぜ装甲の色が変わるのか」
エブリは頭をおさえた。
「まって。新しい魔法が、脳内に注ぎ込まれてきます。回復の、力が──」
「そちらのダリルさんと、あちらの黒焦げさんを回復されてみては?」
ダリルは矢傷だが、もう一人は全身を火達磨にされていた。いまは倒れて、黒焦げになっているが。焼けた肉の、良い匂いがする。
エブリはまず、その黒焦げのもとに向かった。
「ユカー! まって、いま助けるから!!」
エブリが、黒焦げのユカーに向かって、白魔法領域の回復魔法を使う。
しかしユカーは助からなかったようだ。というより、すでに死んでいた。
死んでいた者は助けられない。アンデッドにしてもいいのならば、やりようはあるが。
エブリは落胆している暇もなく、ダリルのもとに向かう。
「まって、ダリル。いま助けるから。えーと、この矢をどうすれば」
アリシアはダリルに刺さったままの矢を引き抜いた。
「ぐぁぁぁ!!」
とダリルが悲鳴をあげる。
「どうぞエブリさん」
「……あ、ありがとう」
「早く回復魔法を使ったほうがよろしいですね。矢が刺さっていたことが止血の役割をしていたのに、引き抜いたものだから出血が激しいです」
「……あの、引き抜いたのは、アリシアさんでは……回復魔法ね、〈ヒール〉!!」
エブリがかざした両手から、白く温かい光が放射される。治癒の魔法領域。
つまり魔法とは、再構築された領域の広がりに過ぎない。この場合は、『傷を癒す』という再構築領域が広がっていくわけだ。
アリシアは理論について思いをはせつつ、ダリルの矢傷が癒えていくのを見届けた。
「回復は成功ですね、エブリ」
「ええ、本当に……」
ダリルがハッとして叫ぶ。
「エブリ、後ろだ!」
ゴブリンたちの第二波がやってくる。アリシアはエブリのロングソードを見やり、『通常攻撃力の増加』と『攻撃時、敵をスタン状態にする』の特殊効果を、こっそりと付与した。
これは、人体実験の被験者になってくれたエブリへの、お礼だ。
アリシアはシーラに抱えられて、ペガサスに乗った。
ペガサスが飛び立つ。シーラは手綱を引っ張って、上空で旋回した。
「ゴブリンたちを指揮しているのは、ホブゴブリン。あれは手ごわいよー」
「シーラさんならば楽勝では?」
「そうかもね。だけど、そこまで助けてあげる義理もない」
「ええ。それにもう手助けは不要でしょう。エブリさんが片付けてくださるはずです。〈テンプルナイト〉が」
「……〈テンプルナイト〉ねぇ。〈ホワイトナイト〉とかでもよかったのに。というより、新たなジョブの命名はアリシアがしたことになるの?」
「どうでしょう。脳内に浮かんだのが〈テンプルナイト〉という名称だったので。案外、私はただずっと埋もれていたジョブを、この世に顕わにしただけなのかもしれません」
「まぁ。創造というものは、案外そういうものかも。おっと、エブリとホブゴブリンがぶつかるね」
しかし勝負はあっさりとついた。
エブリが《覇斬》という戦技を使う。あいにく戦技のため『通常攻撃力の増加』にはカウントされないが、もう一方の『攻撃時、敵をスタン状態にする』は発動。
ホブゴブリンは盾を使わず、自分の右腕で、《覇斬》をガード。
よほど防御力に自信があったのだろうが、これが仇となる。スタン状態になったため動きが封じられ、エブリの二撃目を防げなかったのだ。
刎ねられた首が宙を舞う。
シーラが感心した様子で言う。
「鎧の色が変わっただけかと思ったけど。ナイト職と回復職の両立ができたようだね」
「〈テンプルナイト〉ですので」
「ふーん。つまり、それはあれだよね。ジョブの革命的な?」
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