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49,〈テンプルナイト〉。

 

 エブリが話すところでは、ノアという弟は、回復系統ジョブの素質に恵まれているそうだ。今年、エブリと同じパーティに入ったという。


「可愛い弟なんです。ちょっと中性的というか、ほら、『男の娘』的な? きっとゴブリンたちは、弟を女子と間違えてさらったんですっっ!」


 アリシアにとっては、まったく興味のない話だった。


 アリシアの価値観では、『興味のない話』を『興味のあるフリして聞く』ことこそ、失礼。そこで言った。

「大いに興味はありません」


 しかしエブリは、大事な弟のピンチということで、アリシアの冷ややかな返答も頭に入らなかった様子。

「まだジョブチェンジするわけにはいきません! 弟をこの手で助け出すまでは!」


 そうしてエブリは、ダリルという仲間とともに、弟を助けに駆けだしていった。

 アリシアは予約帳を取り出し、次の予約を確認する。ところが次の錬成相談の時間には、まだ1時間ほどあった。

 今回の空白はかなり長めにとっていたのだ。

 とくにエブリという人体に特殊効果を付与するにいたっては、何が起こるか分からなかったため。


 唐突にやることがなくなってしまった。

 素材管理にでも時間を使おうか。

 しばらくして、アリシアはふと思う。

 エブリは『回復系統ジョブに転職したい』と、依頼してきた。

 だからアリシアは治癒晶などの素材をもちいて、その願いをかなえようとした。だがエブリは、弟を救うため、いまはアタッカーとしての力が必要。

 よって〈ブラックナイト〉からジョブチェンジはできない、と言う。

 そう、武力が必要だから。回復ではなく。


 しかし──可能だったとしたら、どうだろう。

 武力を維持したまま、つまり〈ブラックナイト〉でありながらも、回復も行えるとするならば。

 それは新たなジョブとなるのでは? 

 ただでさえ数の多い冒険者のジョブに、また新しいジョブを加えるのは心苦しいが。

 知的好奇心。


 アリシアはシーラを呼んで、チェットに店番を頼み、店の裏手から出る。


「どこいくの?」とシーラ。

「エブリさんたちを追います。エブリさんに、新たなジョブを提供できるかもしれません。その可能性は、私の好奇心をうずかせます」

「エブリはツイているね。君がそこまで大盤振る舞いするのは、珍しい」

「はい。ですが失敗すれば、クリーチャー化しますが」

「うーん。エブリは不運だ。君に目をつけられて」


 ペガサスに乗り、空から追いかける。もちろんアリシアにはペガサスの操縦はできないので、手綱を握るのはシーラ。

 そうして王都の外に広がる樹海まで向かう。

 樹海は開拓不可の地域であり、王国とこの大地を統べる精霊との契約がかかわっているとか。近くには王都ダンジョンもあり、そこから逃げ出した魔物が多く生息している地域でもある。

 とくにゴブリンの数はもともと多く、この樹海で石を投げればゴブリンに当たる、と言われるほどに。


「あ、いたいた」


 シーラが下方を指さすと、すでにエブリは戦闘中だった。そばではダリルという仲間が、倒れている。複数の矢を受けたようで、重傷。

 一方のエブリも、複数のゴブリンを相手にしており、苦戦中。どうやら罠にはまったようだ。つまりゴブリンたちはエブリの弟をさらい、さらにその仲間が追跡してくると読み、追跡ルートで事前に待ち伏せをしていた。

 火罠もあったようだ。ダリルとは違う仲間が、生きたまま火達磨にされて、駆けまわっている。


 ペガサスに乗って上空から眺めていると、それでもなんだか平和な空気がしてくる。そよ風も気持ちいい。


「助太刀するの?」

「いえ、冒険者に助太刀していたらきりがありません。それに私はただ、エブリに特殊効果を付与しにきただけですので。とはいえ、説明義務はありますね」

「つまり?」

「ゴブリン払いを」

「あい」


 ペガサスに乗ったまま急降下。

 シーラは飛び降り、ゴブリンたちを血祭にあげていく。

 アリシアはペガサスから飛び降りて、華麗に着地。しかし足をくじいた。


 エブリが驚いた顔でかけてくる。

「どうしたんですか、アリシアさん。こんなところまで??」


 アリシアはくじいた足をさすってから、言った。

「あなたに、特殊効果を付与しにきました」

「回復系統ジョブに転職するつもりはありませんよ。いまはまだ」

「武力を維持したまま、回復系統も使えるようにしてさしけあげます」

「え?」

「つまり、ナイト職のまま回復魔法も使えるように。そうですね。そのジョブは〈テンプルナイト〉ととでも名付けましょうか」

「あの、アリシアさん。よく分からないんですけど。つまり、新しいジョブを創造しようとしているんですか? それって、前代未聞ですよ??」

「何事にも、はじまりはあるものですよ」

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