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46/105

46,有能。

 


 シーラが傭兵になったのは、常に後腐れのない仕事だろうから。

 冒険者のようにつるむこともなく。


 ただ最近、どうも『後始末』が増えた印象。

 今回も『大浴場で謎の死体が発見された』というニュースを聞いて、どうにもアリシアがかかわっているような気がしてならない。

 くだんの大浴場に行き、聞き込みからして、やはりアリシアの仕業( しかし捜査に入っている王都警察には気づきようもない)と確信。


 死体は輸送されたので、収容先に忍び込んで確認。

 よく分からないが、内臓が穴というから穴から飛び出したらしい。死体の所持品を見ると、暗器があった。

 雇われ殺し屋が、思いがけず標的に返り討ちにあったか。

 しかしこれから先も暗殺者が投入されれば、戦闘向きではないアリシアがいつまでもつかは分からない。


 そもそも『暗殺者を送る』というのは、新しいスタイルだ。これまでは錬成店の侵入や、せいぜいが拉致をにおわせる程度だったのに。

 そもそもアリシアに危害をくわえるという点では同じでも、暗殺と拉致では本質が異なってくる。後者は錬成スキルを利用したいという思惑の組織によるものだが、『消す』となれば、それは錬成スキルをこの世から消滅したい思惑となる。


 とするとこれまでの組織──冒険者ギルドなどなど──とは異なるプレイヤーが参入してきたということだ。

 錬成店の共同経営者として、これはゆゆしき事態。

 傭兵として、ひと働きするとき。


 返り討ちにあった暗殺者の頭部は無事だったので、もっていく。

 つまり、生首を切断して、袋につめる。

 別に好き好んで死体損壊しているわけではない。だが、『この暗殺者を知っている?』と尋ねるには、こうするしかない。


 シーラは死体収容所を気づかれずに出て、闇市などが開かれる王都の闇黒地帯に向かう。闇黒地帯といっても、見た目は王都のほかの市街地と同じだが。

 もちろん、あからさまに犯罪者たちの巣窟みたいにしては、王都警察による掃討作戦の標的にされるのだから、偽装は完璧でないと。


 シーラ自身は、自分は犯罪者とは違うと確信してはいた。だが傭兵としては、ときにこの手の者たちとの接触も必要となってくる。

 裏社会の連中との接触が。


 情報屋は何人もいるが、その一人目で当たりを引いた。

 生首を出して──嫌な顔をされたが──尋ねる。

「誰か知っている?」

「あー、エルロイのところに、こんな奴がいた気がするな」


 暗殺者はフリーランスか、それともどこかの大物に飼われているか。

 エルロイは、その大物の一人で、シーラも昔、何度か仕事をしたことがある。傭兵の前は暗殺者をしていたのは、アリシアには内緒の話だ。


 エルロイを見つけるのは簡単だが、錬成店の予約帳なみに待たされる。そこで正面からではなく、忍び込みでエルロイの邸宅に入り込む。

 寝室で三人の美女を相手取っていたところをお邪魔する。


 エルロイは3メートル近くの巨躯で、遠い昔は冒険者だったという。ジョブは知らないが、おそらく〈バーサーカー〉あたりだろう。巨斧を振り回しているのが似合う。

 間違ってもヒーラーでなかったことだけは確か。


 エルロイは夜の営みを続行しながら言ってきた。

「シーラ。お前もまざるか?」


「遠慮しとく。あんたのところの若いのが、私の知人を襲ったんだよ。あー、大丈夫。知人は返り討ちにしたから。で、問題は──知人を暗殺するよう、あんたに依頼者したのは、どこのだれ?」


 生首をテーブルにおくと、女たちは悲鳴をあげた。エルロイは生首をちらりと見てから、溜息をついた。

「将来有望だったのに、こんなところで返り討ちにあって死ぬとはな。お前さんの知人とやらは、思いがけず戦闘能力もあるようだ」


 知人がアリシアであり、シーラとどのような関係かは、エルロイのことだからすでに知っていることだろう。


「戦闘能力がある、というのとは違うなぁ。で、誰?」

「お前は運がいいぞ。継続依頼が入る前だから、顧客の名を教えても、わしの心は痛まぬ」

「心があるとは意外だなぁ」


 エルロイに暗殺を依頼する場合、まず全額が前払い。成功するかどうか関係なく。

 さらに『エルロイの暗殺者一人を雇う』という形式をとる。つまりその暗殺者が失敗した場合、継続して次の暗殺者を雇うか(この場合さらに暗殺依頼料を支払わねばばならない)確認がいく。

 その確認の前にシーラがやってきたので、いまはその依頼者は元依頼者。

 よってエルロイは、『心を痛まず』名を教えることができる、と。


 シーラは頭をかきながら、繰り返して聞いた。

「で、誰?」


「お前の相棒を殺そうとしたのは、どこかの組織とかではないぞ。一人の冒険者だ。名は、ガボットといったかな」


「ガボット…………………あーーー、はいはい」


 それが、かつてオークションでアリシアに恥をかかされ、ついでにレジェンド級の剣を台無しにされた冒険者の名と気づくまでに、数秒ほどかかった。


「すると、動機はオークションのときの逆恨みかぁ。助かったよ」


「うむ」

 エルロイが視線を戻したときには、シーラの姿は消えていた。


(あやつは、やはり有能だな。傭兵の枠にはおさまらぬとは思っていたが、おかしな職についたものだ。錬成店の共同経営者とは…………錬成スキルとはの)


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