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45/105

45,浴場にて。

 

 その夜。

 アリシアは公衆浴場にいた。


 王都の上下水道の発展は著しく、自宅でもシャワーを浴びれるが、たまには王都自慢の大浴場で、広々とした気持ちで身体を洗い、湯につかりたくなる。

 それに身体を機械的に洗っているときは、頭もよく回転する。


 アリシアが考えているのは、ジョブにおける役割、回復担当。ヒーラー。そして白魔法。

 この回復魔法というのは、魔法系統の中でも特徴的のようだ。

 属性効果とも違う。たとえば火炎属性と、赤魔法の《ファイヤボール》にさほど違いはない。

 そして回復魔法は光属性なのだが、同時に光属性付与とはまた、回復魔法とは異なるわけだ。

 この回復魔法を使えるようになる肉体へと、エブリの肉体を改変なければならない。どのような素材をもちいるべきか。

 どこまでの人体負荷をかけることが、倫理的に許されるか。


 背後に気配を感じて振り返ると、豊満な胸をした女性が立っていた。

 知り合いではないが、なせが目があう。

 その女の左手には、小さな短剣が、手首に隠れるようにして持たれている。


 アリシアは面白いものだと思う。この女は暗殺者のようだが、なぜ狙うのが、大浴場なのだろう。

 自宅でもいいのに。

 とはいえ湯気が満ちた大浴場では、意外と他人には見られていないものかもしれない。

 そもそもみな裸なので、あまりじろじろ見るのも失礼だから、自然と視線を他人から逸らしているものだ。


 ここでアリシアが頸動脈を切られて倒れても、すぐには気づかれなさそう。


 裸で死ぬというのも、あとあとの遺体処理がラクそうではある。


 しかしまだ借金を完済していない以上、ここで死ぬことはゲームオーバー。

 途中脱落は避けたいところ。


 ところで暗殺者の女は、少し驚いている様子。

 気配を殺していたのにアリシアに気付かれたからか。

 本来なら、アリシアの背後から頸動脈あたりを切り裂いて、そのまま立ち去る予定だったのだろう。


 シャンプーが、目にしみる。


「これも神の采配でしょう。エブリさんの前に、あなたで試してさしあげましょうか。人体に対する効果付与が成功するのかどうかを」


 女暗殺者が気を取り直した様子で、短剣を振るってくる。


「死ねっ」


(死ねと言われても困れますね。『死ね』と命じたら標的が本当に死ぬデバフ攻撃でもないのなら、わざわざ『死ね』という必要がありますか?)


 そんなアリシアは右手にもってい固形石鹸で、女暗殺者の刃を受け止めた。

 女暗殺者が、こんどは明確に驚愕する。まさかアリシアに防御されるとは、思っていなかったようだ。


 アリシアは申し訳なさそうに言う。

「ええ。私、反射神経はよいものでして」


 脳内で、素材保管庫にアクセス。

 あまたある素材──シーラがせっせと多種多様な素材を補充してくれるため。それらの素材の中から、いま目の前の女暗殺者に付与するべき効果を熟慮する。

 熟慮とはいっても、それは一瞬で行われたが。

 アリシアの脳内では、それは何百時間もかけて考えたようなもの。

 実際は、1秒に満たないが。


 膨茸という素材を錬成する。

 この錬成による効果は、たとえばシーラの袋などにも付与している。

 シーラがいつも、大量の素材を袋に入れて持ち運べるのも、この特殊効果のおかげ。

『収納効果が10倍になる』の効果のおかげ。


 しかし、これを人体に使うとどうなるのだろう?

 人体の『収納効果が10倍になる』ということは──たくさん食べられるようになるとか? 


 実際は、人体の場合、別の効果となった。

 収納が10倍になるわけではなく、すでに()()()()()()()()1()0()()になる。

 つまり内臓が。


 10倍化した内臓を穴という穴から噴き出して、女暗殺者は息絶えた。


 アリシアは髪の毛のシャンプーの泡を洗い落として、今回は湯につかるのは諦めて、脱衣所に向かった。

 これは良い勉強になった。

 武器に付与するときと、人体に付与するときでは、効果の内容が少しばかり変わるようだ。

 そこを注意してあげないと、せっかく人体への効果付与が成功しても、それがエブリの望む結果にはならないかもしれない。

 錬成スキルの奥は、いまだ深い。


 ところで──大浴場のほうでは、複数の悲鳴が聞こえてきた。先ほどの女暗殺者の死体が、よやく見つかったのだろう。


(18秒ですか。思ったより、早かったですね)


 その帰り道。すでに女暗殺者のことは頭から消え、思考はエブリへの効果付与についてのみ使われていた。

『装備者のダメージを時間で回復する』という効果が、けっこう人気だが。

 このときに使う素材、治癒晶が、やはり鍵となるだろう。


(ふむ、どのようなレシピにするべきか、こういうことを考えるのは、嫌いではないですね)

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