43,ジョブ適性。
ある日。
たいていの依頼者は凡庸な依頼をもってくるが、時にはログロ侯爵のようにユニークなこともある。
いま目の前にいる錬成相談の依頼者も、なかなかユニーク。
それは女騎士だった。紛れもない。
漆黒の鎧を身にまとい、ロングソードを装備している。
ジョブは〈ブラックナイト〉というらしい。
冒険者界隈にいまだ疎いアリシアからすると、戦闘特性の意味をなすジョブというものは──数が無駄に多すぎるのでは?
「あたし、転職したいんです」
と、その女騎士エブリーは言った。
「毎日、求人広告に目を通すとよいですよ。では次のかた」
錬成相談ではなくただの人生相談だったらしい。だがそういうわけでもないようで。
「え、違います。冒険者の職を辞したいとかではなくて、ジョブチェンジのことです。〈ブラックナイト〉にはもうウンザリなんです」
「ジョブチェンジの相談でしたら、冒険者ギルドにするべきでは?」
エブリーは拗ねた様子で言う。
「もうしました。したんです」
「されたのですね」
「ですが、ダメだというんです。いえジョブチェンジは構わないと。ただ、あたしが転職できる一覧を渡されて、どれもナイトなんですよ。〈ドラゴンナイト〉とか〈ダークナイト〉とか」
ジョブが多すぎる……………。
「ナイトが嫌なのですか?」
「嫌なんです!」
「なるほど。ジョブチェンジというのにも、適性があるのでしょうね。誰もが、好きなジョブになれるわけではない。冒険者ギルド側は、そのような適性を見極めたうえで、エブリーさんのジョブチェンジ候補を提示したのでしょう。それが不満ということですね?」
「まったくそうなんです!」
「では、あなたは何になりたいのですか?」
「回復術士。つまりヒーラーです」
「では、白魔法の適性がおありなのですね?」
エブリーは、ぶんぶんと首を横に振った。
「いえいえ、まったくないんです。ですから、困っているんです」
「理解しました。あなたは白魔法の適性がないゆえにヒーラーにジョブチェンジすることはできない。が、あなはヒーラーまたはそれに類する回復担当にジョブチェンジすることを望んでいる、と」
「そうです、そうです。どうにかしてください」
「なるほど」
ここのところ『錬成スキルならば何でもできる』と思い込んでいる冒険者が多すぎる。とはいえ、そのおかげで繁盛していることは事実なので、かまわないが。
「回復魔法を使えるような特殊効果を、あなたのロングソードに付与しましょう」
「あ。それだと、表面的ですよね」
エブリーの返答は、一瞬、意味がよくわからなかった。
「あぁ、なるほど。あなたは、回復魔法を使いたいわけではないと。本質的に、回復担当のジョブに転職したい。そのために、自身の適性そのものを改変したいというわけですね?」
エブリーはこくこくとうなずく。
「そうです。そうです。できますか?」
アリシアは小首をかしげ、エブリーを見つめた。
この純真ともいえる、女騎士を。
冒険者のジョブ適性を改変する。
それは可能か?
できなくはない。理論上は。
人体への特殊効果付与。
人体改造といってもよい。一度は考えたことがあるが、二つの理由でやめた。
まず人体への危険が危ない。さらに錬成店としての旨みも少ない。武器の効果付与に比べて、人体への付与というのは──。
「最悪、死にますが。かまいせんね?」
これが知的好奇心というものか。
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