4,素材問題。
アリシアは火焔晶がなくなったことから、火焔属性の効果付与に使用されたと判断。
つまりは、錬成のための素材として。
錬成スキルには素材が必要とは知らなかった。これまでとくに錬成スキルを使用することもなかったので、そのような制約があるとは思いもよらず。
(ふむ。素材…………どのようなものが考えられますか? トーマスはこの火焔晶を、ある冒険者から譲ってもらった、と話していました。そしてその冒険者は、ダンジョンのひとつから採取してきたと。当然でしょう。魔法水晶はダンジョンにしか生成されませんので)
素材が必要として、どう集めるべきか?
アリシアが考えるに、やり方は二つ考えられる。
こちらが事前に素材を用意しておく。
または客の冒険者に素材を持ってこさせる。
メリットとデメリットは表裏一体。
冒険者に素材を獲得させる場合、自分で集める手間が省ける。そのかわり錬成の値段設定は、安くする必要があるだろう。
冒険者側に『必要な素材を採取させてくる』という労働を課すのだから。
ここでアリシアは再考。
はたしてそうだろうか。錬成スキルが使えるのは自分だけ(かもしれない)のだから、どのような条件でも、錬成してもらいたい者は受け入れるのでは?
だがこれまで、彼らは錬成要素なくして冒険者活動してきたわけだ。
そういった者たちに、最初からあまり強気に出るのは、よくないかもしれない。
効果付与の有難みが知れ渡る前に、ヘイトを溜めてしまうのは。
それに、そもそもどの効果にはどの素材が必要か、など分かるのだろうか?
少なくとも、錬成スキルと縁のない者たちには分からないだろう。
というより───
(私も、分かりませんよ?)
推測はできる。
火焔晶なのだから、火焔属性の効果付与があるだろう、とは。
では他の魔法水晶には、別の効果付与がある、ということだろうか。
魔法水晶以外も素材として活用できそうだが。
さらに疑問なのは、効果付与時の強さ。
たとえば火炎属性を付与したとき、これを火力レベルとしたが、ダンの剣に付与したのは、火力レベル1だった。
仮に火力レベルを2以上にしようとしていても、不可能だったかもしれない。
というのも火焔晶は一個しか所持していなかったため。
所持といえば、手元になくとも『所有』していれば、素材が離れたところにあっても錬成スキルで使えるらしい。
そこは便利だが。
翌日。
だいたいの構想が固まってきたところ。
アリシアが朝食を済ませて家を出ようとすると、先日の〈銀行〉の取り立て人が来ていた。
「あら。返済期限はまだ先かと思っていましたが」とアリシア。
「いやいや、そうはいかねぇな。まずは今月中に、あんたの債務額の1パーセントを返済してもらおう。それができなきゃ、あんたは奴隷として売られることになるぜ。3億の1パーセント、つまり300万ドラクマだ」
「…………」
取立人がニヤニヤと笑う。
「なんだ、ビビッて固まっちまったか?」
「いえ、考察していました。なぜ〈銀行〉は、マリアさんに3億ドラクマという多額の融資をしたのでしょう? いえ、はじめはもう少し借金額は少なくはあったのでしょう。利息が膨れ上がった分もありますので」
複利のせいで借金は膨れ上がる。
複利とは、『借りた元本+利息』の額に対して、つねに利息がかかるという仕組み。
取立人は顔をしかめる。
「だからなんだっていうんだ?」
「いえ。マリアさんに、そこまでの信用があるとは思えませんでした。30万とかせいぜい300万とかの借金なら分かります。ですが額が多きすぎますね。マリアさんが何に使ったのかは知りませんし、興味もありません。おおかた新事業でも始めたのでしょうが。ですが〈銀行〉はなぜ融資したのか」
「なら教えてやるよ。マリアという女の実家は、伯爵さまだったのさ。伯爵といっても、すっかり没落して貧乏だったがな。だが爵位だけはあった。
で、この国では爵位の数は限られているし、庶民から這い上がった金持ちの中には、そういう爵位が欲しい輩もいるわけだ。とはいえ爵位の売買は法律で禁じられている、が」
「理解しました。マリアさんは自身が継ぐことになる爵位を担保にしたのですね。〈銀行〉の狙いは、その担保となった伯爵の爵位を差し押さえること。差し押さえならば売買にはなりませんし、その上で、〈銀行〉の大手顧客などに与えることができる。もちろん見返りはもらうが、それは売買とはならないと」
「そして〈銀行〉は、あんたを奴隷として売り払い、ちょっとは小金も稼げる、というわけだ。実は、もうあんたの買い手が決まっているんだぜ。普段は美女ばかり性奴隷にしている旦那だが、たまにはあんたみたいな十人並みも変化があっていいってよ」
「そうですか。しかし〈銀行〉の手口は気にいりませんが、それも社会にとっては必要悪なのかもしれません。いずれにせよ、私は借金を返済できるよう最善をつくします」
こんなときもアリシアが淡々としているので、取立人はつまらなそうに唾を吐いた。
「今月中に、300万ドラクマだ。まぁあと8日しかねぇがな。へっ」
「承知しました」
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