35,試行錯誤。
アリシアが新規客の錬成相談を終えて一息ついていると、浮かない顔のシーラが戻ってきた。
「訳がわからない。一応聞くけど、『対象に探知タグを付ける』効果に不具合はないよね?」
「私の効果に不具合が発生しえるか、ということですか? 敵からデバフ攻撃の類を受ければ、効果が消されることはありますが」
シーラはどさりと椅子に腰かけ、さすがに疲労の色を隠せない様子。
「となると、何かまだおかしい」
「といいますと?」
シーラの説明では、再度〈滅却せし獣〉の待ち構える最下層に到着。
「いちおう言っておくけど、ここまで行くのがまた大変だからね」
今回はまずはじめに選んだ一頭目の巨蛇に、はじめは適当な属性攻撃を加える。あとは順繰りに属性攻撃を加えていき、『あたり』が出るまで続ける。
『あたり』の弱点属性にぶつかったら、『対象に探知タグを付ける』効果の応用で、その弱点属性をタグ付けする。
「はじめの一頭目の弱点属性は雷属性だったから、『雷属性』のタグ付けをしたわけだよ。ところが次に攻撃したとき、なんと弱点属性が変わっていた。もしかしてタグ付けがおかしいのかと思ったけども」
「その『雷属性』の巨蛇の頭にたいして、連続して攻撃したわけではないようですね」
「え? そうだね。確かに連続攻撃はできなかった。ほかの巨蛇が攻撃してくるものだから。とにかくあいつら、じっとしていないんだよ」
「別の巨蛇に攻撃すると、弱点属性が変わるのではないですか? つまり八頭内で、弱点属性がルーレットのように回転すると」
「つまり弱点属性が分かったら、その巨蛇の頭をひたすら連続攻撃しないといけないというわけ?」
「そうですね。対策をたてましょう。攻撃した敵の弱点属性を固定できる特殊効果を付与できるようにすればよいかと」
「またピンポイントすぎる効果」
「いえ、デバフ系の効果の応用で、そう難しくはありません。それより問題は、シーラさん一人に対して、実際のところ敵が八体いるということですね」
「まぁ本体はひとつなんだけどね。本体攻撃をするのが手っ取り早い気もするけど、八頭の巨蛇が邪魔してくるから、本体攻撃は現実的じゃない。つまりさその分、敵に肉薄しなければいけないから、八頭の巨蛇に取り囲まれるリスクも高まるわけだね」
「ええ。本体攻撃はリスクが高いですね。そこで重力石にいくつかの素材をかけあわせて、『攻撃した敵に重力状態を付与する』という効果を付与してみました」
「あー、もう私の短剣に付与したの? 仕事が早い。ところで『重力状態』というと?」
「ようは身体が重くなります。一撃目では2倍。二撃目では4倍」
「倍々だね。確かに巨蛇も重くなれば動きが鈍るし、最終的には動きを封じることができるかもしれない。まぁ毒霧とかは吐いてくるだろうけども、それでも戦いやすくなる」
「毒霧? なぜそれを早く言ってくれないのです? 毒は薬にもなる。『猛毒状態』にする特殊効果があるならば、『解毒』する特殊効果もあります。『装備者の毒状態を解毒する(常時モード)』を付与すれば、毒に悩まされることはなくなります」
「さすがチートなスキル」
ほかにもいくつか新たな効果を付与したところで、アリシアはシーラを送り出す。
シーラは錬成店を出ると、すっかり日が暮れてしまったことに気付いた。
このまま王都ダンジョンに行くとなると、それこそ徹夜になりそうだ。
傭兵として、三日は寝ずに仕事する自信はあるが。
(なんだか、ブラック店舗だなぁ。人使いが荒い……共同経営者なのに)
とはいえ、この愚痴も本気ではない。錬成店の売り上げの半分を受け取っているシーラは、すでにかなりの資産を得ていた。
簡単にいえば大儲け中。それに見合った仕事はする。
王都ダンジョンに向かい、最下層を目指してコツコツと進む。ついでの素材集めは忘れずに。
やがて〈滅却せし獣〉のもとにたどり着く。
今回は、弱点属性の固定と『重力状態付与』の効果が効いて、だいぶ戦いやすくなった。
雷属性、火炎属性、闇属性──と弱点属性を暴いたところで四体目の巨蛇頭。
これには、どの弱点属性もヒットしない。
つまり炎・雷・氷・土・闇・光・夢のどれでもないわけだ。新たな弱点属性を見つけ出す必要がある──『外に出る』でいったんダンジョン外に戻って。
と、そこまで考えてから、シーラは思いついた。
ダメ元ではあるが。
『装備者の毒状態を解毒する(常時モード)』を付与されたとき、『攻撃した敵を毒状態にする』効果も付与されていた。
今回、相手がラスボス級の魔物では、この手の毒は効かないと思っていたが。
実際、別の巨蛇頭には効かなかったが。
試しに毒状態で攻撃してみると、四体目の巨蛇頭に大ダメージを与える。
つまり最後の弱点属性とは、毒。
「ふーーーーーーん。じゃ、今回のバトルで、殺そっか」
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