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34/105

34,八つ頭。

 


 シーラはさくさくと王都ダンジョンを攻略していき、ラスボスたる〈滅却せし獣〉のもとに向かった。


 その道中では、素材集めも忘れない。


 アリシアに話していないこともある。この錬成素材集め、つまり鍛冶素材ではない、冒険者側としては『なんの価値もない素材』だが──シーラがこれを大量に集めていることを、偶然にも知った冒険者が何人かいた。

 つまり『外国の細工師に売っている』というカーバーストーリーを疑うほどに採取しているところを、という意味だが。


 その者たちはいま、殉職している。

 ダンジョン攻略は危険と隣り合わせだ。

 意外な手ごわい魔物と遭遇することもあれば、知らなくていいことを知って、腕利きの傭兵に消されることもある。

 

 かくして。

 シーラは、王都ダンジョンの最深部で、待ち構えていた〈滅却せし獣〉と対峙する。

 先客の冒険者パーティが全滅したところだ。

 この魔獣、まず大きい。要塞のような大きさ。蛇のような頭が8つもあり、それぞれが独自に動く。8本の巨蛇を、要塞サイズの本体に接続して作った、という感じなのだ。

 八首八尾の巨龍。

 それが〈滅却せし獣〉の全容。

 

 あと人間の血に飢えている。まえまえからシーラは、魔物というのは、人間を襲うことしか頭にないのだろうか、と疑問に思ったことがある。

 魔物には営みというものが感じられない。ゴブリンは人間の女を犯すらしいが、たぶんそれは営みとは違うだろう。

 だがこの手のことは、考えるだけ無駄なのだろう。


「じゃ、はじめてみよっか」


 試しに、八頭の巨蛇のひとつに、夢属性とという弱点属性の効果を付与された短剣で斬りつけてみる。

 効果あり。

 弱点属性として、ブレイク状態に至るためのゲージがたまる。


(おや。ちゃんと弱点属性だね。これなら、いけるかも?)


 毒炎を吐いてきたので、ここは防御ではなく回避。

『装備者が攻撃を受けたとき体感時間が10倍になる』の効果のおかげで、回避はそれほど難しくない。だが一体と戦っているというより、八体の巨蛇を相手にしているようなものなので、そこは厄介だが──先ほどとは別の巨蛇に一撃を与えたが、今回は手ごたえがない。


(ははあ。そういうこと?)


 確認のため、さらに別の二頭の巨蛇にも斬撃を当てたが、夢属性による弱点属性の効果はなかった。


「了解、了解。じゃ、帰る。またね」


〈外に出る〉の効果で、王都ダンジョンの外まで空間転移。

 ペガサス(まだ〈ペガサスナイト〉は取り戻せていない)に乗って、王都に戻る。

 それからアリシアの待つ錬成店に、裏口から入った。


「〈滅却せし獣〉の形態は、八体の巨蛇がつながっている。で、ここからが問題であり、〈虎の牙〉が敗れた理由だぁね。

 弱点属性は、八頭の巨蛇それぞれが異なるようだ。八頭のうち一頭は、弱点属性が夢属性だった。ところが、別の斬撃当てた三頭の巨蛇は違ったわけ。とすれば、残りの四頭も違うとみて間違いないよね」


「属性は、炎・雷・氷・土・闇・光。そして夢。これで全部で7つですね。仮に八頭それぞれが異なる属性の弱点を持っていたとして──最後の八つ目はなんでしょうか」

「ふつーに風じゃないの?」

「いえ、風は特別枠であり属性付与とはまた異なる要素があります。おそらく別の何かでしょう」


「ふーん。では、分からないね。いまのところ──〈虎の牙〉の不運は、『知り合いの冒険者が〈みやぶる〉スキルで見た巨蛇』と、『私が冒険者ギルドから頂戴した鍛冶素材の巨蛇』が同じ巨蛇だったことだね。八頭もあるうちの、同じ頭だったのだから、不運としかいいようがない」


「ええ。異なる巨蛇でしたら、弱点属性も異なるので、これはおかしいぞ、となっていたでしょう。そうすれば〈虎の牙〉が、〈滅却せし獣〉に挑むことはなかった──

 八頭のうちどれがどの弱点属性なのか、確認する必要がありますね。その上で、ラストの巨蛇の弱点属性を見極めるため、それの一部を採取していただきます」

「骨だなぁ」

「骨を採取されるのですか?」

「そういう意味ではなくて。骨が折れるの骨」


 アリシアはまず、シーラの短剣に残りの判明している属性効果を付与した。

 すなわち、『火炎属性』『雷属性』『氷属性』『土属性』『闇属性』『光属性』。


「無双短剣のできあがりだね」とシーラ。

「いえ、そう簡単ではありません。属性攻撃というものは、同時には使えません。切り替える必要があります。

 つまり短剣が火炎属性を発揮しているとき、残りの属性効果は使えません。切り替え自体は、装備者であるシーラさんが好きにできますが」

「つまり弱点属性が火炎属性の巨蛇を切るとき、私はこの短剣を火炎属性状態にする必要がある、というわけか。間違えてそのまま、氷属性が弱点の巨蛇を斬っても意味がないと」

「はい。そのときは氷属性に切り替える必要があります」


「問題があるよ。私は蛇の専門家じゃないので、八蛇の見分けがつかない。どの巨蛇がどの弱点か、激しい戦いの中で覚えているのは困難だよ」

「はい。そこで探地花素材による『対象に探知タグを付ける』を付与しておきました。少しばかり改良して。これでたとえば『雷属性が弱点の巨蛇』には『雷属性』というタグをつけることができます」


「ふーん。じゃ、やってみよっか」


 というわけで今回も散歩に行く気軽さで、シーラは出発した。


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