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33,ビジネス思考。


「討伐に、いくの? 君と私で?」


「いえ、わたしは行きませんよ。危ないですし」


 シーラは頬をかきながら、天をあおいだ。

「ここで一般的な人間を相手にしている場合、君が『ポーラたちのかたき討ち』のために、〈滅却せし獣〉の討伐に乗り出そうとしている、と思うところ。だけど私は、君という人間をよく知っているので、どうもそうではない、ような気がする」

「いえ、たしかにポーラさんたちの死については、一定の動揺はしました。やはり彼女たちは、友人ではなくとも知人ではありましたし、あまりに早すぎる死でもあった。私も、弱点属性を付与することで、確実とはいかずとも、高い確率で〈滅却せし獣〉に勝利できると思っていましたから」


「だけども?」

「少なくとも魔物にたいしてかたき討ち、という概念はありませんね。これが人間に対してならば、義務としての復讐はあるかもしれませんが」


 アリシアの論理では、復讐はある程度は義務といえる。

 なぜなら復讐対象が、同じような悪事を繰り返したとき、復讐していればそれは止められた、と解釈できるからだ。

 だが魔物の場合、その論理もあてはまらない。


「私は、ビジネス的なことを考えてみたのです。このままだと、有力な冒険者たちの多くが殺されると」

「つまり優良顧客たちが?」

「ええ」

「どうして、そう思ったのかな? 〈虎の牙〉たちが全滅したから?」

「ええ。ただし前提条件として、弱点属性を付与したのに、ということがあります。ブレイク状態にもっていたけはずなのに、彼らが全滅したのは、なぜなのか。私はひとつ仮説をたてたのですが、この仮説が真実だとしたら、今後も冒険者たちの殉職率は高まるでしょう」


「ダンジョンのラスボス格に挑むのは、上級冒険者たちにかぎるよね。つまり優良顧客がばたばた死んでいく」

「シーラさん。私は、お金がない下級冒険者たちのことも、優良だと思っていますよ。錬成店のお客様は、みな素晴らしいかたがたです。『神様』などとは口が裂けてもいいませんが」

「だけど、大金を落としてくれる冒険者たちの死はまずいわけでしょ。それで、私にラスボスを殺してこいと。一人で?」

「ライラがいませんからね。ですが一度だけで、というわけではありません。こちらをお持ちください」


 アリシアがシーラに差し出したのは、筒状の物品だった。


「これは?」

「元はよく分かりません。我が家の荷物整理中に出てきた、謎の筒状の物品です。一度はゴミ箱に捨てましたが、まぁこれでいいかな、と」

「……何がいいの?」

「ダンジョンからその外へと、一瞬で空間転移できるアイテムにするのに、ですよ。こちらの筒状、便宜上〈外に出る〉と名付けましたが」

「……ネーミングセンス」

「〈外に出る〉には、とても希少な素材である転移晶を錬成に使用しています」


「転移晶。たった一個だけ採取できた素材のことだね。名称からして、ワープができるかも、とは思っていたけど」

「〈外に出る〉には、その他にも、希少価値の高い素材を7個ほど使用しているので、この付与効果『装備者をダンジョンの外に出す』には、値のつけられない価値があります。しかし価値が高すぎて、これは逆に売り物にならない。ですので、共同経営者であるシーラさんに進呈いたします」

「ふーん。ありがと」


 シーラは〈外に出る〉を装備してから、溜息をついた。

「〈滅却せし獣〉とエンカウントしたら、できるだけ情報を取得して、殺される前に〈外に出る〉で外にでる。

 そして君のところに戻り、新たに得た情報から〈滅却せし獣〉に有効な効果を付与してもらい、また行く。

 で、さらに〈滅却せし獣〉と渡り合えば、もっと情報を得られるはずだから、それで〈外に出る〉で君のところに戻って──これを繰り返せばいいわけだ」


「簡単ですね」

「簡単かは知らないけど、まぁやってやれないことはないかも。初期効果付与は?」

「さっそく」


 ライラのクレイモアに付与した効果が、まず参考になった。

 時水晶による『装備者が攻撃を受けたとき体感時間が10倍になる』や強靭草による『装備者のSTR300パーセント上がる』と硬蔓『装備者のDEFを200パーセント上がる』。

 シーラの武器は短剣だったので、防御用として左手にはめる小盾を用意し、これには輝防石で『小盾で防御に使用したとき、敵の攻撃を無効化する』付与。

 ただしこれは厳密には、『敵の物理攻撃』なので、〈滅却せし獣〉もまた特殊効果付与の攻撃を使ってきた場合、防御できる保証はない。

 ほかにもシーラの身軽さの強みをさらに高めるための回避率アップの付与など、複数の効果を与えた。


 最後に『夢属性』の属性付与。


「弱点属性であることは確かなのです」

「それでも〈虎の牙〉は全滅したわけだから、何か裏があるんだろうね──じゃ、行ってくるー」


 散歩の気軽さで、シーラは出発した。

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