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32,全滅。



 無ガ石というかけあわせ用の素材を使いつつ、複数の素材をかけあわせる。


 ただし実際に錬成するのではなく、まずはすべてを脳内で行う。


 どの素材が何と絡むと、どのような意外な効果に至るのか。

 火焔晶は単体では火炎属性付与だけだが、たとえばまるきり反対の氷属性をもたらす氷雪晶とかけあわせると、『火炎属性攻撃または氷属性攻撃が無属性となる』という、変わった効果となる。

 一見、使いどころがなさそうだが、たとえば火炎属性効果がもともと付与されている武器を使っていて、かつ火炎属性攻撃に耐性のある敵と戦う場合は、いったん無属性にしたほうが効果的となることもある。


 とにかく付与効果は、無限に近い有限。

 すべてをリストにすることは到底できないだろう。

 その中には、『夢属性を付与する』という効果も埋もれている。


 アリシアは椅子に腰かけリラックスして、脳内でこの『夢属性付与』の効果をもとめて探索した。これは楽しいひとときだったが、あることを閃いたとたん、すぐに答えにたどり着いた。

 夢属性がどのような属性が分からないが、これまで睡眠と関係があると思っていた。

 だから『敵に睡眠をもたらす』デバフ攻撃を可能とする夢藻草などの素材をチェックしていた。


 が、夢というのは、白昼夢のようなものかもしれない。

 つまりどちらかといえば幻惑系。

 幻惑系の素材をリストにあげて、そこからいくつかかけあわせていくと、やがて『夢属性を付与する』という効果が表れた。

 レシピは錯石、無ガ石、言霊晶。

 錯石と無ガ石は通常素材だが、言霊晶はレア度が高い。アルティメットレアといったところ。

 よって値段は高くなるし、何より大量に付与できない。〈虎の牙〉メンバーでも、全員には付与できないだろう。


 チェットを使いに出して、〈虎の牙〉を呼んでもらう。


 交渉の代表であるポーラが口を開いた。

「『夢属性の付与』効果をつけてもらえるのね?」

「ええ、ひとつにつき310万ドラクマ。4つの武具にまで付与できます」

「高いわね。250万ドラクマにしてちょうだい」

「値段交渉は受け入れていませんが──いいでしょう」


 普段ならば値切られるのは好きではないアリシアだが、今回ばかりは受け入れることにした。なんだかんだで、ポーラのことを気にいっているのかもしれない。

 ポーラは満面の笑みとなる。


「交渉成立ねっ!」


 それからアリシアは、ポーラやダンなどの武器に、『夢属性付与』の効果をつけた。


「これで〈滅却せし獣〉をブレイク状態にして、討伐できるわ。ありがとう、アリシア」

「いえ、これも仕事ですので」


 ポーラたちを見送ってから、アリシアは吐息をついた。

「そういえば、ライラはどこにいるのでしょうね」


 ポーラたちが去ったので店の表に出てきたシーラが、小首をかしげる。

「なんでも、別の城郭都市に拠点を移したらしいよ。君が冒険者ギルドとトラブルとみて、先んじて距離を取ることにしたらしい。あの小娘、なかなか頭がいいね」

「期待できる人材ですね」


 数日後。

 予約帳のチェックをしていると、ケールがやって来るのが見えた。本日の予約帳にケールの名はない。先日のアンデッド禍のときもそうだが、ケールはあまり良いニュースをもってくるイメージがない。

 今回も例外ではないようで、ケールは青ざめた顔をしていた。

 何か、良くない知らせを持ってきたようだ。


「ケールさん、こんにちは」

「アリシアさん……残念なことを伝えにきました」

「何事ですか?」

「〈虎の牙〉が──〈滅却せし獣〉に戦いを挑み──全滅しました」

「──そうでしたか」


 アリシアは表情をいっさい変えなかったので、ケールにしてみると、『だからどうした』と言われたような気がしただろう。

 しかしアリシアは、机を右手の人差し指で、こんこんと叩いている。それを、亡くなったアリシアの母が見たら、こう言っただろう。

「娘が、珍しく動揺しているようね」と。


 ケールが去ってから、アリシアは頬杖をついて虚空を見つめる。

 ポーラたちが死んだ。

 弱点属性の『夢属性』効果付与で、ブレイク状態にして撃破するはずだったのに。何かがあって、うまくいかなかったのだろう。

 それで全滅。


 シーラが店の表にやって来る。ケールの知らせは、裏にいたシーラの耳にも届いていたようだ。


「もしかして、ポーラたちの死に、君は責任を感じている?」


 アリシアは心から疑問に思った。

「なぜ、私が?」


 シーラは苦笑した。

「うーん。そうだよね。ただ、ほら、君が『夢属性』を付与したことで、ポーラたちは意気揚々と〈滅却せし獣〉に戦いを挑んだわけだからね。そいつの弱点属性を付与できていなかったら、〈虎の牙〉のレベルじゃ、〈滅却せし獣〉に戦いを挑んだりはしなかったはずだし」

「『夢属性』が弱点属性だったのは、確実でした。ゆえに、私は自分の仕事を果たしていますよ」

「そう、それは間違いない」

「ところでシーラさん」

「なに?」

「〈滅却せし獣〉を討伐しにいきましょうか」


 アリシアの口調は、散歩に誘うような軽さがあった。

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