31,弱点属性。
属性状態というのは、炎・氷・雷・土・闇・光。この6つだと思っていたが、ほかにも夢属性というものがあるらしい。
ポーラからの情報が確かならば。
ポーラが仕入れたのは、別パーティに属する冒険者が『みやぶる』スキルを使って見出した、ということ。さて、どこまで当てになるのか。
まずポーラは嘘をついてはいない。嘘をついても得にならないので。
しかしポーラに夢属性ということを知らせた冒険者は、どうか。なぜ別パーティの者が情報を流すのか。ポーラは、「あたしの元カレなのよ」と言っていたが。
アリシアは、恋人をもったことがないので実際のところは分からないが──
元カレの言うことは一般的に、どこまで信用できるのか? 仮にその元カレとやらが本当のことを言っていたとしても──それが真実とは限らない。
つまり元カレとやらの『みやぶる』スキルは、間違わないのか?
アリシアは基本的に、他人のスキルには懐疑的だ。
一番よいのは、その〈滅却せし獣〉というラスボスに、錬成スキルをかけることだが。そうすれば、その〈滅却せし獣〉を『分析』したことになり、弱点属性も分かるだろう。
(ですが、別に本体である必要はありませんね。素材で充分です。素材で…………)
シーラを呼んで切り出した。
「ラスボスとやらをご存じですか?」
「〈滅却せし獣〉とかいう大層な魔物だよね。ようは魔物だよ。ただでかくて、城塞なみの耐久力というだけの話。冒険者たちは効果的なダメージを与えられず、スタミナが切れたところを叩きつけられて殺されているらしいよ」
「ブレイク状態にすればよいと聞きました」
「弱点属性が必要だね」
「夢属性、という聞いたことのない属性攻撃が弱点となるようです。しかし信憑性はどれほどのものか、私には分かりかねます。しかし確かめる方法ならば、あります」
シーラならば、アリシアが何を求めているのか、すでに分かったことだろう。だが即答はしない。おそらく気乗りしないのだろう。だが溜息をついて。
「〈滅却せし獣〉の一部を持ってこいと」
「はい」
「うーん。危険だなぁ。命がけ。その価値、ある? 依頼者は『夢属性が弱点属性』と信じ、そのうえで夢属性付与を依頼してきたわけでしょ。ならそれに応えてあげればいい。『夢属性が弱点属性』というのがガセネタだったとしても、それは依頼者の責任であり、君の責任ではない──という考えは、すでに至っているよね。君ならば」
「ええ。ですが、私も個人的に気になります。夢属性なるものが存在するのか、そのラスボスとやらの弱点となりえるのか」
シーラは腕組みした。
「まぁ、君がそこまで言うのなら。〈滅却せし獣〉とやらの素材、つまり身体の一部を持ってこよう」
「それは鍛冶素材になるでしょうから、錬成素材としては使えません。錬成スキルをかければ分析し、〈滅却せし獣〉の弱点などを知る手がかりにはなりますが。そのあとは鍛冶素材は冒険者ギルドにお売りください。全額、シーラさんのものにしていただいて結構ですよ」
シーラは何かに気付いた様子で、アリシアの話も半分も聞いていなかった。
「ふーん。そうか、その手があったかも」
「はい?」
3時間後。シーラが小箱を小脇にかかえて戻ってきた。
「命はかけないに限るよね」
「そちらは?」
「〈滅却せし獣〉さんの素材。牙の一部らしいよ」
アリシアはくすりと笑って、
「ですが、シーラさんが採取してきたわけではないようでね?」
「すでに冒険者パーティのいくらかは、〈滅却せし獣〉と対峙しているわけだからね。倒せずとも、鍛冶素材の欠片くらいは採取して逃げている。それを冒険者ギルドに売っていると思ったんだよね。その通りだった」
「ですがギルドが貸してくださったわけではないのでしょうね」
「盗まれたくなかったら、あんな簡単なところにしまっておくべじゃないね」
百何十年ぶりに再出現したラスボスというものの素材なのだから、厳重に保管していたことだろう。シーラにとっては『簡単なところ』だったようだが。
「ですが盗み出したものでは、売ることはできませんね」
「世の中には盗品専門の市というものがあるんだよ、アリシア」
「それもそうですね。需要があるところに供給があるのですから」
こうして〈滅却せし獣〉なる魔物の鍛冶素材を入手したので、錬成スキルを使って分析してみる。
「確かに弱点は、夢属性というもののようですね……面白味がない」
シーラがあくびしながら言った。
「そんな意味不明な属性付与の効果、錬成できるの?」
「ええ。複雑なかけあわせが必要ですが」
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