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3,スキル考察。

 

 他人が持っていないものを売るのが、お金を得る鉄則。

 これまでアリシアは、錬成スキルの特異性に気付いてはいなかった。冒険者の誰かが聞いたら驚きそうだが。


 アリシア自身は冒険者とも縁がなく、またロングソードに火炎属性だとか、盾に『防御力が増加する』効果だとかの付与をする必要性もなかった。

 日常生活には、基本的に不要。


 そのため少なくとも、冒険者になる者は誰しもが錬成スキルを持っているのだろう、と思い込んでいてもおかしくはない。

 だが先日に出会った冒険者たちの反応からして、錬成スキルは稀少のようだ。


 もしかすると遺伝限定のユニークスキルで、母亡きいま、世界で使えるのはアリシアだけかもしれない。


 かといってアリシア自身が冒険者となるのは現実的ではない。

 錬成スキルがあっても戦闘力は皆無であり、何より冒険者というのは危険がつきもの。大怪我でもして働けなくなっては、借金返済の道がついえる。


 アリシアのプランとしては、錬成スキルで武器や防具などに特殊効果を付与する店。

 簡単にいえば錬成店の経営。

 

 が、問題は複数ある。まず相場が分からない、ということ。

 先日は初回無料という気持ちで、火炎属性の効果付与から料金は取らなかったが。


 そもそも──『冒険者が持ち込んできた武器などに指示された効果を付与する』と『事前に特殊効果を付与した武具を売る』では、どちらが利益になるのだろう。

 考えるべきことは多い。

 だが何より、初期信用を得る必要がある。

 ある程度、錬成を行っていけば口コミが効果を発揮するだろう。だがその口コミが発生するためにも、はじめに一定の客が来てくれないと困る。

 その場合の『初期信用』とは、簡単にいえば『店を構える』。

 ちゃんとした店舗があることで、まともな商売をしている、と伝えることができる。


 そこの問題は、王都の賃料の高さ。

 開店資金としては、店舗を借りることができればそれで済むのだが。多額の借金がある身では、新たな融資などは受けられないでしょう。


 カフェで一考していると、先日の冒険者の一人ポーラが歩いてくるのが見えた。

「あ、錬成さん」

「こんにちは。今日はお一人ですか? それと私はアリシアと申します」

「ねぇアリシアさん。錬成スキルのお店をやると言っていたと思うんだけど、まだ始めてないの?」

「ええ。いくつか考えねばならないことがありまして。そうですね、これもめぐり合わせでしょうか。ポーラさん、あなたをアドバイザーとして意見を聞きたいのですが」

「アドバイザー?」

「はい。特殊効果の付与にあたって相場を設定しなければなりません。しかし、私はその手のことは知識がないものでして。たとえば、火炎属性の付与の料金は、どれくらいが適正か、など」

「ふーん。火炎属性の効果は、炎弱点の敵に有効なのね。だけど、火炎魔法を使える人がパーティにいれば、それで済む話でもある。あたしは氷属性専門だから、火炎属性付与は嬉しいけども」

「なるほど。でしたら、ダンさんは火炎属性を取得したことで、炎属性の敵をばたばたと倒されたのですか?」

「ええ。さっそく近場のダンジョンで、もう4体も倒したわ。これもアリシアさんのおかげね」

「……………」

「どうかしたの?」

「いえ、料金設定について、ひとつ思いついたことがあります」


 料金を設定する要因は、その付与する効果の内容。

 さらにその上に、もうひとつ要素を付け加えることができる。

 それは回数制限。

 たとえば五回まで購入すれば、その効果を五回使用した時点で、効果を消えるように設定できる。

 一方、無制限を購入すれば、その武器が壊れるまではその付与された効果も力を発揮する。

 もちろん無制限は、五回よりも多くの購入額を支払わねばならないが。


「構想は固まってきましたが、店舗が見つかっていないのが痛いですね」

「賃貸料もバカにならないものね」

「それもそうですが、そもそも王都にいま空きテナントがあるのでしょうか」

「パン屋さん」

「はい?」

「あたしの行きつけだったパン屋さん、そこのご主人が盗賊に殺されてしまって、店を閉めることになったのよ。いまは、まだ貸店舗になっているはずよ」


 アリシアは、ポーラからそのパン屋のあった場所を聞いた。王都の商業区でも、だいぶ賑やかな一角であり、申し分ない。


「あとは賃貸料があれば良いのですが」

「さっそく錬成スキルで稼げはいいんじゃない? なんなら、あたしがお客を見つけてあげよっか」

「いえ、お気持ちだけはありがたく受け取ります」


 店の宣伝をするのはいいが、こちらから客を取りにいこうとすると、錬成スキルを安くみられる可能性がある。

 先日のダンのときは、あれは事故のようなものだったし、結果として錬成スキルの貴重性を知ることができたので良かったが。


 それにアリシアにはいま、ある懸念があった。

 そんなことがあるのだろうか。


 ポーラと別れ、自宅に戻る。

 ポーラと再会したことで、先日のある不思議な現象を思い出していた。


 アリシアの自宅には、火焔晶という魔法水晶のひとつがあった。

 トーマスからのプレゼントで、捨てるのもしのびないので保管していたものだ。


 これが、消えていた。

 昨夜、部屋の片づけのときに気付き、そのときは別の場所にしまったのかな、と思ったが。


「火炎属性の効果を付与したことで、火焔晶が消費された、ということでは? すると錬成には素材が必要なのですね。さて、これは熟考を必要としそうです」

お読みいだたき、ありがとうございました。ブックマーク登録、評価などお願いいたします。

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