29,排除。
アリシアが『アンデッド禍』の先について考えていたころ。
ライラは王都墓地に赴き、時水晶という素材錬成による『装備者が攻撃を受けたとき体感時間が10倍になる』を活用しながら、アンデッドを屠っていた。
アンデッド対策セットのおかげで空気感染の問題はなく、かつアンデッドを一撃で撃破できるので、あとは流れ作業となる。
しばしアンデッドを何十体か片付けてから、一考する。
(冒険者ギルド内が、どうも嫌な感じなのよね。去年、ギルドマスターが変わってから、自由さが失われつつある。錬成店のお姉さんも、それの巻き添えをくわなきゃいいけれど──そして、あたしも)
ライラは、自身の装備武器クレイモアに、より多くの錬成効果がかかっていることを知っている。
このことは、周囲の冒険者たちも気づきはじめていた。この件で冒険者ギルドに問い詰められたり、クレイモアを奪われるようなことになっては、目もあてられない。
(しばらく、王都を離れていましょう。冒険者ギルドの本部があるのは、王都だものね)
こうしてライラは王都墓地から去り、ほとぼりがさめるまで、別の城郭都市を拠点として活動することにした。
一方、アンデッド禍は冒険者たちの活躍によって、早々に解決される。
今回は原因となった、古代の環境生物の巣くう古い土壌も浄化された。これもアリシアが、アンデッドに錬成スキルをかけ、その性質を見抜いたおかげである。
そして何よりも、『アンデッド対策』セットといえる、アンデッドの空気感染を防いだ効果と、アンデッドを効率的に倒した効果。
この二点の情報は、冒険者ギルドのギルマスであるオロンのもとにも届いていた。
アンデッド禍は、500年前に起きたときは、まったく対処できなかった。
実は500年前のほうが、全体的に冒険者のレベルは高い。現在のSランクで、当時ならばせいぜいAランク。やはり戦争がないことが、冒険者の劣化に結びついている──
と、第52代ギルマスであるオロンは考えている。
とにもかくにも、そんな『レベルの高かった冒険者たち』でさえ解決できなかったアンデッド禍を、今回はあっさりと解決してしまった。
それは、一人の女のおかげだという。
その女は冒険者でさえなく、ある錬成店なる店を経営している。錬成スキルという、聞いたことのないスキルを使うそうだ。
その錬成スキルを使うと、武器などに特殊効果を好きに付与できるという。つまり武器店で買った、ただの剣でさえも、このアリシアという女の手にかかれば、レジェンド級のレア武器に早変わりする、というわけだ。
「是非ともほしいものだ」
オロンはさっそく、配下の者に指示を出すことにする。
アリシアなる女を捕獲することを。
その後は外部の者には知られていない、オロンが用意した極秘施設に連行させるつもりだ。
この極秘施設で、手段を選ばず、錬成スキルの情報を引き出す。
そして錬成スキルを、冒険者ギルドのため、無償で提供するようにさせる。
そのためには、どのような手でも使うつもりだ。
相手はまだ若い女ということで、たとえば性的な弱みを握るなど。やりようはいくらでもある。
冒険者ギルドの利益となるのならば、オロンは手段を選ばない。
だがもう一人、自分の利益のためならば手段を選ばない者がいた。
オロンの執務室に、秘書が入ってくる。
「なんだ、ステラか。いまは忙しい、話ならばあとにしてくれ」
このステラという秘書は、いくらか頭痛の種だ。
オロンは妻帯者だが、このステラと不倫関係にあった。オロンの価値観だと、成功した男にはその権利がある。
だがステラが妊娠したのは手違いだった。すぐにオロンのコネで堕胎させたが──いまだにそのことで、いろいろと言ってくる。
そろそろ消したほうがいいかもしれない。
秘書など、いくらでも変わりはきくものだ。だから──
オロンがぎょっとしたのは、ステラがばたりと倒れたからだ。
腹部に刺し傷がある。
「一体、何が──」
影が動いた──そう認識したときには、オロンの胸部に、ナイフの刃が突き刺さっていた。
ナイフを持った女は、意外そうに言った。
「冒険者ギルドのトップだというのに、歯ごたえがないんだねぇ」
「なん、だ、お前は──だ、れだ」
「傭兵」
シーラは、オロンの胸部からナイフを引き抜いた。
倒れたときにはオロンは息絶えていた。
シーラは、秘書の右手に、オロン殺害の凶器であるナイフを握らせる。
さらにオロンの右手の付近には、秘書を刺し殺した短剣を置いた。
シーラはざっと現場を見回す。
オロンは秘書と火遊びをした。秘書を妊娠させたが、勝手な都合でおろさせた。怨んだ秘書は、すきをついてオロンを刺す。オロンもとっさに秘書を刺し返すが、二人とも息絶える。
「悲劇だね~」
シーラは満足して、窓から外に出た。共同経営者として、アリシアを守るのは当然のことである。ただこのことは、アリシアに話す必要はない。
(まぁ事件の概要を聞いたら、アリシアのことだ、すぐに真実を読み解くだろうけどね)
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