28,先の事。
武器屋で新しい武器を買ってきたケールたちに、アリシアは『アンデッド対策』3点セットの効果を付与した。
もちろん料金530万ドラクマを受け取ってから。
ケールたちを見送ってから、アリシアは先のことを考える。
先のこと、先のこと──。
「シーラさん、いますね」
「あいよ」
これまで隠れていたシーラが、ケールたちが消えたことで顔を出す。
「素材保管庫を移動します。それと、私はしばらく留守にすることになるかもしれません。ですが素材集めは滞りなく行ってください」
「留守にする? 一体どこにいくの?」
「そうですね。冒険者ギルド本部でしょうか」
「何が嬉しくて、そんなところに?」
「別に行きたくて行くわけではありませんよ」
シーラは少し不思議そうな顔をしてから、察しがついたようでうなずいた。
「あぁ、なるほど。そういうこと、か」
素材保管庫の輸送自体は、それほど大変ではなかった。素材保管庫には現在、『収納10倍』効果の膨茸素材が10個使われている。この場合、効果はプラス10ではなく、10倍となるため、通常要領の100倍を保管できる。
さらにこの100倍にあわせた分の重力石素材の錬成で軽くしてある。
保管庫を荷車に乗せてから、シーラは指示をあおいだ。
「アリシア。君の懸念どおりになった場合、救出したほうがいい?」
「いえ、それだとどう考えても、冒険者ギルドとの決定的な対立は避けられなくなります。ですので、静観をお願いします。ただ」
「ただ?」
「〈銀行〉が動いた場合は、最適な対処のほう頼めますか?」
「共同経営者として責務を果たすよ」
シーラを送り出し、保管庫がだいぶ離れてから、試しにひとつ錬成してみた。スキルは実行できる。素材と離れていても錬成スキルを使えるのは分かっているが、その距離は無制限なのだろうか。アリシアが所有していることになっていれば、惑星の反対側にあっても、その素材を使って錬成ができるのか。
アリシアが思考実験していると、ライラがやってきた。
「『アンデッド対策』セットとやらを買いにきたわよ。まだ在庫はある?」
「ありますよ、ライラさん」
ライラには先日、錬成店の宣伝のため、ソロで黒弩龍を狩ってもらった。そのさいには、チートクラスの特殊効果を複数付与した。
が、あまりに強くしすぎてもよくないので、『活動時間を10分に限定する』という効果も隠して付与しておいたのだ。
だがその効果は、すでに存在していない。
ライラは、最も単純な方法で、アリシアが設けた制限を帳消しにしていた。
先日、錬成店に来て『敏捷性を一定増加する』という効果を購入。それの上書き先として、『活動時間を10分に限定する』を選んだのだ。
アリシアは一考したが、その要請を受け入れて、上書きしたのだった。
このことについてアリシアは、シーラにこう説明した。
「当人が解決策を見出したのですから、私はよしとしました」
不要な効果があれば上書きして消せばいい。当たり前といえば当たり前だが、そんなことも思いつかない冒険者も多数いるわけだ。
そこいくとライラは、すぐにその解決策に至った。錬成スキルの効果付与という概念に適応力がある。
「ライラ。現れるのが遅かったですね。いまやあなたは、Cランク冒険者と聞きましたが」
「別に、わざと遅れたわけじゃないのよ。ただ、様子見ってあるじゃない?」
「なるほど」
ライラのクレイモアには、黒弩龍討伐のときのために、多数の効果が付与してある。
「どの効果に上書きしますか?」
「いいえ、上書きは不要よ。ひとつの武具に付与できるのは3個まで、がルールでしょ。それならあたしは、こっちの肩甲の防具に、『アンデッド対策』セットを付与してもらうわ」
「ライラさん、錬成スキルの扱いかたを心得ていますね。530万ドラクマです」
飛ぶ鳥落とす勢いのライラは、高難易度クエストもこなしている。つまり多額の報酬を得ているので、530万ドラクマも支払える。
このライラの活躍のため、『一度に付与できる効果は3つまで』という錬成スキルの説明が疑われているのは事実。
だがアリシアは、とくに気にはしていなかった。そのルールをアリシアが設けた以上、アリシアが必要としない限りは、ルールが変更することはないのだから。
「ところでアリシアさん。何かまずいことがあったら、言ってね。アタシ、アリシアさんには恩義を感じているんだから。助けが必要なら駆けつけるわよ」
「ありがとうございます、ライラさん」
ライラを見送る。
ライラが先ほどのように懸念を口にしたということは、すでに冒険者ギルド内で、何か感じ取れるものがあるのだろう。
そのトドメとなるのが、今回のアンデッド禍だろう。
アンデッド禍を解決した要因が、錬成スキルと広まれば。冒険者ギルドもさすがにアリシアを放っておいてはくれなくなるだろう。
「解決するべき障害は嫌いではありませんがね」
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