表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/105

24,アンデッド。


 先日の決闘──Eランクのロン対Sランクのケール──の番狂わせな結果。

 ロンの見事な勝利に、錬成店の効果付与の支援があったと分かり、より錬成スキルの評価は上がった。


 予約表は数日後まで埋め尽くされている。借金返済計画も順調に進んでいる──が、いくつかアリシアには考えるべきこともあった。


〈銀行〉からの取立人が、ここのところ現れない。300万ドラクマを返却した日から一度も。あのとき顔面を大怪我していたようだが、それで休んでいるなら、代わりの者が現れるだろう。

 ただそのおかげで、〈銀行〉の企みもだいたい推測できる。

 対処策はいくつでも取ることができる。


 また冒険者ギルドの動きも、考慮しておいたほうがよい。

 錬成スキルが冒険者たちのあいだに話題になることによって、いつまでも冒険者ギルドは静観してはいないだろう。

 錬成スキルが唯一無二ならば、それをギルド側で管理したいとは思わないのか。

 これについても、いくつか対策は練ってある。


 アリシアの目的はシンプルであり、借金を完済すること。物事はシンプルであるべきで、それが優美となる。だからアリシアは、多額の負債を背負うのも、悪くはないなと思いはじめていた。それゆえに人生がシンプルになるので。


 ある日。

 チェットが困った様子で、アリシアに声をかけてきた。このときアリシアは、地下室でシーラと素材集めのプランについて話し合っていたのだが。

 この地下室はチェットでも立ち入りを禁じていたので、まずその点を注意する。


「す、すみません。ただ、その僕では対処できないことがありまして」

「分かりました。次回からは、地下室の扉をノックしてくださいね。では行きましょう」


 あまり地下室の件で注意しすぎると、チェットの性格では、次に『対処できないこと』があったとき、アリシアに叱られたくないからと自分だけで判断しかねない。その判断は、チェットの性格から、まず間違えることになる。


(ふむ。雇用主というのは、ひとつ面倒ですね)


 チェットの話では、今朝から何十人もの冒険者たちが押しかけてきているという。


 シーラが言った。

「いつものことじゃないか。錬成店はいまや、王都一の人気店。冒険者たちの憧れの店」


 実際、王都より離れた城郭都市を拠点にしている冒険者も、錬成店のために遠来からやってきている。


「いえ、それがどうも今日は、緊迫感が違うようでして。実際に、お会いしてください、店長」

「はい」


 というわけで、緊迫感の違うという冒険者たちと会うことにする。シーラは彼らに姿を見られるとまずいので、地下室に残った。


(おや、これは興味深いですね)


 というのも、錬成店に押しかけてきていた冒険者は、アリシアが見たところどれも上位ランク。ケールの姿もある(ちなみにケールはロンに負けてプライドこそ傷ついたが、負傷自体は肋骨が折れただけで、すぐに仲間の回復魔法で治癒された)。


「皆さん。錬成店のシステムはご存じのはずです。まず予約帳に記入してください。予約のときがきたら、私が錬成相談を行いますので。いまですと──」

 予約帳を見やって、

「早くて8日後になりますが」


「アリシアさん。いまは、そんな悠長なことは言っていられなんだ!」

 と声を荒げたのはケールだった。


「それは私が判断します」


 アリシアはいら立つでもなく、ただ淡々とそう返した。

 いまやたいはんの冒険者たちは、このアリシアの塩対応に慣れつつも、同時に恐れをなすようになっていた。条件反射のように。


「申し訳ない、アリシアさん。ですが、聞いてください。アンデッドなんです」

「それだけですと、なんとも答えようがありませんね。アンデッド──死者の蘇りですか。その現象は、滅多にあることではないとようですが」


 少なくとも、アリシア自身は遭遇していない。


「ええ、そうです。アンデッドは有名なんですがね。それでいて、現役冒険者で遭遇した者はいない。どちらかといえば、おとぎ話で出てくる類で」


 別の冒険者がしきりにうなずきながら、

「過去に発生したのは、500年も前のことでしてね。そのときは──旧王都の8割の市民がアンデッド化。王都全域の焼却作戦で、なんとかアンデッド禍は終わったとか」


 アリシアは事態の重みについて考える。確かに歴史書では、500年ほど前、旧王都が壊滅。王都の遷都が行われた、とあったが。

 それがアンデッドのせいとは知らなかった。おらそく一般市民には開示されない情報で、上位冒険者だけが知りえる情報なのだろうが。


「アンデッド禍──墓地から死体が這い出るだけではないのですね。旧王都の市民の8割もアンデッド化した、となると」

「はい。感染するんです、アンデッドは。感染した人間は、急速にアンデッド化します」

「噛まれると、ですか?」

「ええ。ですが、それだけではなくてですね。そもそも『噛まれると感染』だけなら、まだ対処はできます」

「では?」


 ケールはゾッとした様子で答えた。

「アンデッドは空気感染するんです」


 アリシアはうなずいた。

「理解しました。これは確かに、悠長なことは言っていられないようですね」


 淡々として言うものだから、みな、本当に理解してくれているのかと不安そうだった。だがアリシアは、ちゃんと理解していた。

 みながアンデッド化してしまったら、依頼者がいなくなる。


 すなわち借金が完済できないと。

お読みいだたき、ありがとうございました。ブックマーク登録、評価などお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ