23,決闘。
翌々日。
アリシアが「お好きに」というので、シーラは決闘を見学しにいった。
EランクがどうやってSランクを倒すのか興味はあったし、ちゃんと錬成店の宣伝になるのかも見届けたいところ。
決闘は、闘技場で行われるようだ。
闘技場は大会開催中以外は使われておらず、時おり演劇団が借りる程度。おそらく決闘を挑まれたSランク〈グラディエーター〉のケールが、資金力にものをいわせて闘技場の使用料を払ったのだろう。
結果、祭り好き(というより血を見るのが好きなのか)者たちが、大量に押し寄せた。
闘技場らしい賑わい。
決闘を申し込んだEランク〈ファイター〉のロンも、ここまで騒ぎが広がるのは予想していなかったのだろう。
シーラは階段式観客席の最上段席から、観劇することにした。
ケールはすでに勝利を確信した様子で、拳を振り上げて客たちを盛り上がらせている。
そのそばには、ブロンドの女がいた。その女が、うっとりした表情でケールを眺めながら、すりついている。
もしや、あれが寝取られたという女では?
だとすると、この決闘になんの意味があるのか。男の意地の張り合い、ということなのかもしれないが。
ロンは緊張のあまりかガチガチになっている。
そして──やっと決闘がはじまるようだ。
部外者は闘技場の戦闘フィールドから出る。
ロンとケールだけが、5メートルほど離れた位置に立つ。
開戦のゴングとともに、決闘が始まる。と思いきや、ロンが胸のあたりをおさえて、苦しみだす。
シーラも心配になるくらい、顔色が悪い。死人のように。
と思っていたら、本当に死んだようで、ばたりと倒れた。心臓発作を起こしたようだ。
ケールが嘲笑を浮かべながら、ロンに近づく。死んだふりではなく、本当に死んだようだ。
シーラが呆れていると、いきなりロンが飛びあがる。
なぜかケールの装備武器である長剣も、ケールの右手から跳ね上がる。
ロンはその剣を手に取る。
刹那。まばゆい光が起きた──その光が消えると、観客席まで吹っ飛ばされたケールが、血を吐いて倒れたところだった。
こちらは死んではいないようだが──何が起きたのだろう。
戦闘フィールドから離れた席にいたこともあって、シーラにはよく分からなかった。
「あら、もう終わったところでしたか」
という声がしたので振り返ると、アリシアが立っている。
シーラは苦笑した。この共同経営者は、気配を消すのが本当にうまい。天性のものらしい。
「ロンは死んだふりをして、ケールを騙したらしいよ」
「いえ、相手は百戦錬磨のSランク冒険者です。死んだふりなどはすぐに暴くでしょう。そんなケールを騙すためには、本当に死ぬ必要があります。一時的に」
「なるほど、君の錬成か」
「はい。ロンのグローブに付与した特殊効果のうちの一つ。珍しく鍛冶素材を使っての錬成でしたが」
「鍛冶素材でも錬成スキルを使えるんだ?」
「例外中の例外のようです。というのも先日、数多くの鍛冶素材を実際に見せていただきました。これは、鍛冶素材を保管している鍛冶ギルド倉庫に行き、管理人にいくらか心づけを払ったのですが」
「あー、買収」
「あまたある鍛冶素材は、やはり錬成スキルの素材にはならないようです。ただし、この『毒魔蛙の唾液』だけは別でしたね。
鍛冶ギルドでは毒矢などの素材に使うようです。私が錬成すると、『発動すると15秒だけ仮死状態になる』という特殊効果になります」
「仮死状態となれば、さすがのケールも騙せわけだ。戦闘フィールドで、ロンとケールの二人だけとなる。そこでロンが仮死状態になれば、ケールは死を確認するために近づく。私なら、死んだか確かめるため速攻で頸動脈を切るけどねぇ」
アリシアがくすりと笑う。
「シーラさんならそうされるでしょう。ケールはそこまではしないでしょう」
仮に『そこまでしていたらそれはそれ』という口調だった。
そんなところが、シーラがアリシアを好んでいる理由だ。本質的には血も涙もない。
「この先がよく分からなかった。復活したロンが飛びあがり、さすがのケールも虚をつかれた。隙ができたわけだけど。ケールの武器が、その右手から跳ね上がったような」
「盗砂という素材による特殊効果『相手の装備品を10秒だけ盗む』です。ですが『盗む』ためには、いくつか条件がありまして。たとえば盗む相手が油断している、とか」
「油断させるため仮死状態になる必要があったと」
「はい。あとケールに不用意に近づいてもらう必要がありました」
「『相手の装備品を10秒だけ盗む』でケールの長剣を盗んだロンは、それでケールを斬りつけたわけだ。〈ファイター〉のくせに。あぁ、そうか。ケールの長剣には、君が先日つけた効果『通常攻撃が必ずクリティカルヒット』が付与さていたね」
「はい。いくら剣術の素人のロンでも、『クリティカルヒット』を当てることさえできれば、勝てるでしょう。ですがここまでお膳立てしても、まだケールが回避する確率が高かったのです。ですから」
「あのフラッシュだね」
「光蟲草という素材による『閃光を放つ(一回限定)』です。この閃光で目をくらまされたケールに、ロンは『クリティカルヒット』の一撃をあてたわけです」
「それでケールは観客席まで吹っ飛ばされた、と。見事な策略だったね、アリシア」
「ロンがうまくやれるかは、五分五分でしたが。とくに最後の詰めでミスるのではないかと」
「最後の詰め?」
アリシアは微笑んで、
「フラッシュを放つとき、目をつむるのを忘れて、自分の目もくらませやしないか、と」
「あー、やりそうだったね、それ」
お読みいだたき、ありがとうございました。ブックマーク登録、評価などお願いいたします。




