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22/105

22,3つの効果。

 

 値段設定はアリシアの自由だが、だからといって、10万ドラクマより多い額の効果を付与するつもりはなかった。

 だが10万ドラクマ内でなら、Sランク〈グラディエーター〉に勝てる(可能性を見出せる)特殊効果を付与するつもりではあったが。


「ロンさん。何か得意なことはありますか?」

「〈ファイター〉はアタッカーだけど、実は防御に自信があるんですよ」

「そうですか。ところで〈グラディエーター〉のケールの装備武器には、『通常攻撃の全てがクリティカルヒットになる』というものがあります」

「え、なんですかそれ!?」

「先日、私が付与したものです。ですので、あなたが防御に自信があると世迷いごとを言って、ケールの攻撃を受けるのはお勧めしません。回避、回避、回避。回避以外をしたければ構いませんが、それは自殺するときです」

「……分かりましたよ。えーと。それで、僕はどうすればいいんですかね? その具体的には?」

「まず、決めていただきたいのは、付与する効果の数です。ひとつの武具に対して付与できる数は3つまです。ロンさんは〈ファイター〉ということですので」

「このレーザーグローブが、僕の武器ですっ!」

「そちらのレザーグローブに、3つまで付与できることになります。ですがあなたには、支払い金額の制限があります。よって10万ドラクマで1つの効果を購入するか、または5万ずつにわけて2つの効果を購入するか──私のおすすめは、3つ購入することです。約3万3千ずつで」


 たかだか10万では、一点突破の強力な効果は手に入らない。

 だが3つならば、それぞれは『雑魚』い効果でも、連携によって化ける可能性はある。


「えーと。それじゃ、3つ購入します。あと3つとも効果は、店長さんのお任せでお願いします」

「かしこまりました──ところでロンさん。あなたは、どこまで尊重しますか?」


 ロンが怪訝そうな顔をする。

「えーと、なにをです?」


「正々堂々について、です。もちろん、あなたは闇討ちするわけにはいかない。ボニーというかたを取り戻すため──その価値があるかは疑問ですが」

「え?」

「いえ失礼。とにかくあなたは、寝取った男であるケールを倒さねばなりません。一対一の決闘で。ボニーの目の前で」


 ロンが真剣な面持ちでうなずく。

「はいっ」


「ですが、その決闘で、あなたはどこまで卑怯な手を使えますか?」

「……あの、その、店長さんの道義心にお任せします」

「分かりました」


 専門家にお任せするのは賢いからか、それとも思考放棄なのか。これは議論の余地がありそうだ。

 アリシアはそんなことを頭の片隅で考えつつ、3つの特殊効果を、ロンに付与した。


「あの、これで勝てますか?」とロン。

「作戦を教授します。次のような手順で、3つの効果を使用してください」

「はぁ。あの、メモしても?」

「ご自由に。では…………」


 その後の依頼者は、簡単だった。

『毒攻撃に弱いので助けて』→『耐毒効果』を付与。

『物理攻撃を上げたい』→『物攻を増加する』効果を付与。

 などなど。


 唯一一考したのが、あるダンジョン内にあるという『炎では消せない、特別な氷の壁を破壊したい』という依頼。

 氷でありながら、炎では溶かせることができないという。それは火力の問題ではないのだろう。

『炎では溶けない』が前提条件としてある氷。

 そこでアリシアは、昇華汁という素材に無ガ石をかけあわせて錬成、『昇華する固体ならば昇華させる』効果を作って付与した。

 氷が昇華すれば水蒸気になる。たとえダンジョン製の特殊な氷の壁でも、氷であることにかわりはない。これで消滅するだろう。


 こうして錬成店の初日は終わった。

 その夜。

 ペガサスで遠くのダンジョンに遠征していたシーラが帰還する。


「8割がたは、近場のダンジョンで採取できるものとかぶっていたかな。だけど、いくつかは初めてみる素材もあった」


 シーラが『収納10倍』効果のある袋から、山のような素材を出す。アリシアはそれらの素材をチェックしながら、保管庫にしまっていく。


「初日の売り上げは?」

「235万ドラクマです」

「ふーん。意外といかなかったね」

「まだまだBランク以上の上級冒険者は、ほとんどが様子見しているようですね。先日のオークションに参加してくださったSランクのかたがたは、少数派ということです」

「なるほどねぇ。まぁ君が特殊効果を付与した下位冒険者が活躍すれば、よい宣伝となる。上級冒険者なら、財力もあるから、もっと大金の効果を購入する。その上級冒険者が活躍することによってさらなる宣伝になる──という好循環には、もう入ったっぽいね」

「ええ。そう願います」


「で、初日には何か面白いお客はいたの?」

「面白いかは分かりませんが、変わり種としましては」


 ロンの話をすると、シーラは笑った。

「ケールという〈グラディエーター〉なら、オークション会場で見たけどね。あれは、強い。断言でする。Sランクは伊達じゃない。しかも君が、『通常攻撃の全てがクリティカルヒットになる』という効果まで付与したからね。まず、その腰抜けのEランク冒険者に勝ち目はないよ」


 アリシアは保管庫にすべて素材を入れると、ドアをロックした。


「私は、そうは思いませんよ。私が付与した3つの効果を、ロンが指示どおりに使えば、勝ち筋はあります」

「ふーん。で、決闘はいつ?」

「さぁ。興味はありませんので」


「私は興味が出た。君の分も、見届けてきてあげよう」


 アリシアは肩をゆすった。

「お好きに」

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