20,錬成相談。
ペガサスを一時的に得たことで、シーラの移動可能距離が一気に増える。
そこでさっそく、王都よりもっと離れたダンジョンに行ってもらうことにした。
一方アリシアは、借金返済計画を立てながら、このままならば順調に返そうだ、と考える。
先日のオークションでは、1880万ドラクマも得ることになった(〈ペガサスナイト〉がペガサスを取り戻せば、プラスしてアリシアはさらに1350万ドラクマ)。
その半分は共同経営者であるシーラの取り分となり、またチェットにもオークションの司会代を支払うわけだが。それでも充分すぎる金額。
シーラからは、毎晩、オークションを開催したほうが、真面目に錬成店をするよりも儲かる、と言われたほど。
そう、その意見は正しいかもしれない。
だがアリシアは、冒険者界隈に錬成スキルを持ちこんだ者として、最低限の責任があるのではないか──と考えている。
つまり、ランクの低い冒険者にも、その武器に錬成を施されるチャンスは与えるべき、という。
結局のところオークションで勝つのは、Sランクだとかのトップ冒険者。彼らの資金力が物申すことになるから。
それではランクの低い、金銭力のない冒険者は、錬成とは無縁。
だが錬成店を開き、さまざまなメニュー用意すれば、たとえば『発動してから5秒間だけ、敏捷性が25パーセント上がる』などの錬成ランクの低い付与効果ならば、手ごろな値段。
ランクの低い冒険者も購入することができる。
それにオークションに出すとなれば、自然と競りにだす効果も、チートクラスのものとなる。あまりチート効果を、冒険者業界に流しすぎるのも考えものだ。
これまで冒険者たちは、何はともあれ、錬成スキルなしでやってきた。そこに錬成スキルで、複数のチート効果が介入してくれば、大袈裟ではなく冒険者という職そのものに、何らかの致命的な悪影響を与えかねない。
そこを慎重に見るためにも、コツコツと錬成店を黒字経営で営業していくほうが、良い。
アリシアが錬成店の奥で一考していると、チェットが予約帳を持って歩いてきた。
「店長。新たな予約が20も入りました。この短時間で、です」
チェットはオークション後も雇うことにした。雇いたいと持ちかけたところ、チェットも二つ返事で了承した。思うに冒険者よりも、客商売のほうが好きなのだろう。おかげで錬成店の表はチェットに任せられる。
この予約帳は、錬成相談、ともいえるもののための予約。
結局のところこの短時間で、数えきれない数の付与効果を開発して、それに値段も設定するのは現実的ではなかった。
そこでアリシアは、まず錬成依頼の冒険者と面会する。その冒険者が欲しい効果と、支払い能力を加味してた上で、いくつかの付与効果とその値段を設定する。
あとは冒険者が、その中から自分にあったものを選べばよい。
また値段交渉は受け付けてはいない。一般的には値切る文化は大事だと思うが、そんなものにいちいち付き合うほど、アリシアは暇でもない。
買いたければ買えばよく、買いたくなれば買わなければ良い。
ちなみに錬成相談の時間は、一人20分ととっているため、まずは時間予約をしてもらっているわけだ。その予約は、すでに数日後までびっしりと埋まっている。
すでアリシアは、午前中に12人ほど錬成相談を行い、全員の武器に効果を付与した。つまり全員購入したわけであり、午前中だけで売り上げは118万ドラクマとなっている。
これがすべて利益となるわけだ。順調といえる。
この分ならば、借金返済も想定より早い段階できそうだ。
錬成スキルのよいところは材料費などはかからないこと。素材自体は、シーラがダンジョンから採取してきてくれる。
無料の資源………………しかしダンジョンは王国所有ということになっている。
ダンジョンを建造したのは、古代人だが。
王国の法では、ダンジョンは国有。
(ふむ。……最大の懸念点はそこでしょうね。錬成スキルにダンジョンの素材を使っていることは、極秘の秘にしておいたほうが良いでしょう)
午後一の冒険者は、まだ若いEランク冒険者だった。
ジョブは〈ファイター〉のようだ。
「倒せない魔物、突破できないトラップ、打ち勝ちたいライバル。あなたの悩みをお聞かせください」
これまでの依頼者にも、面会のはじめはこのように声をかけてきたわけだが。
どうにも悩み相談しているような錯覚を覚えてくる。
しかもこのEランク〈ファイター〉は、アリシアの『悩み相談?』感覚をより強めることを言ってきた。
「僕、寝取られたんです」
「なるほど」
「あいつに取られた恋人を、取り返したいんです。そんな効果付与ってありますか?」
「なるほど」
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