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2,錬成スキル。



 アリシアは悩まない。

 分析することはあるが、悩みというのは無駄だと思っている。

 とくに選択を悩むというのは。

 選択肢はあってないようなもので、あとはやるかやらないか。

 

 奴隷の身分に堕ちても、それはそれでどうとでもなるとは思う。

 だがその場合、借金を返済できない。友達という他人の借金ではあるが、返済義務がある以上、完済したい。

 これは道義的な問題ではなく、思考回路がそういうものだ、という話。


(では、整理してみましょうか。まず借金総額はきっかり3億ドラクマ。しかし利息が発生すると、せっかく少し返済しても、その利息分だけ返しただけ、ということになりかねません。これではいつまでたっても元本を返すことができませんね)


 専門的なことは、専門家に相談する。

 アリシアの知人に、弁護士事務所で働いているトーマスという男がいた。

 ちなみにトーマスはアリシアに気があるが、アリシアは『男女問わず誰に対しても性欲も魅力も感じない』性格のため、まったく眼中になかった。


 アリシアから相談を受けたトーマスいわく、

「なら任意整理を行うといいよ」とのこと。


 簡単にいうと、任意整理の手続き後は、利息をカットできるという。

 つまり、返済額が3億ドラクマより増えることはなくなる。

 さっそくアリシアは、その手続きを依頼した。


(さて。これで『利息の返済だけで手一杯になる』という問題は片付きましたか)


 つづいて、この3億ドラクマ返済方法を一考。お針子で払えないことは考えるまでもない。では?

 庶民が多額のお金を稼ぐ方法として、冒険者登録という手はある。

 冒険者ギルドも『冒険者になって一攫千金』などと謳っている。しかしこれは詐欺とはいわないが、誇張広告もいいところ。

 冒険者で大金を稼げるのは、上位1パーセント未満。戦闘スキルには縁のない、運動神経も並みのアリシアとしては、はじめから選択肢にはない。


 だが冒険者には、何かヒントがあるような気がする。


 その日の夜。

 大衆食堂で食事をとっていると、隣の席の人たちの会話が聞こえてきた。

 冒険者のパーティらしい。

 アリシアはステーキを均等に切断しながら、その会話を聞いていた。

 別段、盗み聞きする意図はない。ただ大声で会話していたので、嫌でも聞こえてきただけで。


「あのモンスターは、火炎属性に弱いんだよ。だからさ、ポーラ、お前もいい加減、火炎属性の攻撃魔法を覚えてくれないか?」

「あのさ、ダン。あたしが氷属性特化と知っていて、そんなこと言っているわけよね? それって、もう嫌味の領域」

「氷属性魔法で攻撃したら、あのモンスター、パワーアップしやがったじゃないか。舐めてんのか?」

「だーから、あたしは氷属性魔法しか使えないんだから、仕方ないでしょ!」


 このままだと喧嘩に発展しかねない。

 アリシアは親切心というより、隣で喧嘩をされたらはた迷惑、という理由から口をはさんだ。


「すみません。あなたたちの会話が聞こえてしまったのですが」


 すると常識は持ちあわせていたらしく、その冒険者たち(ダンとポーラ以外に、三人いた)は、申し訳なさそうな顔をした。

「あ、うるさかった? それは申し訳ない」


「いえ、かまいませんが。火炎属性攻撃を行いたいのでしたら、火炎属性を武器に付与すれば済む話ではありませんか」


 ダンの装備しているロングソードを眺めながら、アリシアはそう助言した。自明の理のように思える。

 しかしダンたちは、ぽかんとした顔をする。

「どうやって? そりゃあ、レア度の高い武器なら、火炎属性が付与されているものもあるだろうが」

「ええ。ですが通常の武器にも効果付与は可能でしょう? 錬成スキルを用いることで」


「……なんだい、その錬成スキルって?」


 アリシアは一考する。

 錬成スキル。

 武器や防具などに、特殊効果を付与できるスキル。

 アリシアの亡くなった母親も使用していた、この凡庸なスキル。誰もが使えて当然…………そこまで考えて、アリシアは驚いた。

 アリシアにしては、驚いた。


(てっきり錬成スキルは、誰もが使えるものと思っていましたが。母も、とくに珍しいもののようには使っていませんでしたし。しかし、もしや稀少なスキルなのでしょうか? ユニークスキルという?)


「錬成スキルとは──実演してみせましょう。そのロングソード、お借りしても?」

「え? ああ、いいけど」


 ダンからロングソードを受け取ったアリシアは、とくに気負うこともなく、淡々として錬成スキルを発動。

 このロングソードに火炎属性を付与するにあたり、火力を設定。

 レベル1にしたのは、あまりに火力が高いと扱いにくいだろう、という配慮から。


「どうぞ。こちらのロングソードに、火炎属性を付与させていただきました」

「なんだって? あんた、冗談を言っちゃダメだよ。属性が付与されているなんて、ダンジョンでゲットできるレアな武器じゃあるまいし。ましてや、任意で好きな属性効果を付与できるなんて。しかも一瞬で」

「ですが、私は事実しか申しません。なんでしたら試してください」


 信じられないという様子のダンたちは、店の外に出た。

 そこに薪があったので、ダンは試しに、薪へと斬りかかる。

 火炎属性が発動。

 ただの斬撃は火炎の斬撃となり、薪を斬り燃やした。


「おおおっ!! 本当に火炎属性になっている!!」

「信じられないわ! ダンのボロの剣が、一気に属性持ちのレア武器に」

「ポーラ、誰の剣がボロだ! ……まぁ確かに、安物ではあったが」


 興奮した様子のダンたちが、アリシアのもとに集まる。

「凄い! 錬成スキルなんて眉唾だと思ったが、こんな属性効果の付与ができるなんて!」

「ねぇあなた、あたしたちのパーティに加わってくれない? こんなスキルがあるなら、一躍有名な冒険者になれるわよ!」


 ダンとポーラの興奮も、アリシアには感染しなかった。

 アリシアは淡々と、ポーラの申し出を断る。

「いえ、残念ですが。興味はありません」


「そう残念。もしかして、もうほかのパーティに加わっているとか? そうよね。こんな凄いスキルを持っているんじゃ」

「いえ、パーティには入っていませんし、冒険者にも興味はありません」

「あら、そうなの? なら、なにに興味があるの?」


「いまは、お店を開業することでしょうか」


 借金完済の道が見えたようだ。

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