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17,アリシアのルール。

 

〈グラディエーター〉が530万ドラクマで競り落とした。

 重要なのは、競り負けた〈ソードナイト〉も480万ドラクマ(最後に〈グラディエーター〉は大きく値をつけたわけだ)を、アリシアに支払わねばならない。


 だがここで〈ソードナイト〉が、不満をもらす。

「いや、俺は払わんぞ! 競り負けていながら、なぜ金銭を払わねばならないんだ!」


 チェットが困った様子で、

「あの、ですから、そのような特殊ルールのオークションであることは説明したはずです。あなたも、それを承知の上で、そちらの〈グラディエーター〉のかたと競り合ったのでは?」


「なんだと! 小僧、真っ二つに斬り裂いてやろうか!!」

「ひぃぃぃ!!」


 チェットが怯えて、ステージ上から転げ落ちる。

 それでオークション参加の冒険者たちから嘲笑がもれるあたり、あまり性格はよくはないようだ。


 シーラが舌打ちしてから、裏手から出ていこうとする。

 だがアリシアは止めた。


「ここは私が」

「大丈夫?」

「ええ」

 

 アリシアは裏手からステージまで出た。こうして冒険者たちの前に姿をさらすことになったわけだ。参加者の中にポーラの姿があり、こちらは困った様子をしている。


「私が、アリシア=シェパード。このオークションの主催者であり、錬成店の店長でもあります」


〈ソードナイト〉はすでに余裕の笑みを浮かべている。

 すでにオークションの代金を支払わずに済みそうだ、と思っているようだ。興味深いのは、周囲の冒険者たちから、この〈ソードナイト〉に対して批判の声が上がらないこと。

 ルールを破ろうとしているというのに。


 確かに、『二番目に競り負けた者もつけた値を支払わねばならない』というルールは、納得のいかない点もあるだろう。

 これが競り落とした〈グラディエーター〉が代金を踏み倒そうとしたならば、さすがに非難が集まったはず。

 しかし──それにしても、〈ソードナイト〉の自信はなんだろうか。


「あなたは、今回のオークションルールに納得がいかないようですが──申し訳ございません、お名前をうかがっても?」


 するとその〈ソードナイト〉は、興味深い態度を取った。

 アリシアが名前を知らないことを、とても失礼なことのようにとらえたのだ。

 このことから推測できるのは、この〈ソードナイト〉は、冒険者の中でかなりの有名人。冒険者としての実績を積み重ね、人望もあるのだろう。

 それが先ほどからの自信の説明にもなっているし、まわりの冒険者が騒がないことの理由にもなる。


「おれは、ガボットだ。Sランク〈ソードナイト〉。かつて闇黒騎士をソロで討伐したのが、このおれだ。そういえば、分かるだろう」

「そうですか」


 闇黒騎士が何か知らないので、アリシアは流した。

 それがまたガボットの気にさわったようだ。


「生意気な小娘だ」

「ガボットさん。私の代理を務めたチェットさんは、オークションのルールについて説明し、あなたはそれを受け入れました。それなのに、いまさらルールを破るというのですか? 子供だって、約束を守ることの重要性は知っているはずですが?」

「おれは、こんなバカげたルールを守る必要はない、と言っているんだ。みんなもそう思うだろ?」


 と周囲の冒険者たちに声をかける。

 複数の同意の声がする。Sランクのガボットに、わざわざ逆らおうという冒険者もいないのだろう。それもあってガボットは勝利を確信している。


 アリシアは溜息をついた。

「カボットさん。あなたは、そちらの装備している剣に、特殊効果を付与してほしかったのですね?」

「ん? ああ、そうだ。この剣は」


 と鞘から抜き放つと、神々しい輝きが剣身から放たれる。

 とたんまわりの冒険者たちが驚嘆の溜息をもらした。どうやら有名な剣のようだ。


「〈修羅炎の剣〉だ。レアリティはレジェンド。ふん。もともとお前のような、胡散臭い錬成スキルなど必要していなかったのだ。錬成スキルによる効果付与だと? くだらんな。おれと、この〈修羅炎の剣〉にそのようなものは必要ない」


 アリシアは感心した。

 この〈修羅炎の剣〉には、すでに複数の効果が付与されている。

 つまり、この剣がもって生まれた効果、ということだ。

 詳しくは、『斬撃威力の増加』、『火炎属性の付与』、『正面からの斬撃時の攻撃力の増加』、『火炎属性攻撃時、攻撃力の増加』、『装備者のSTRの増加』などなど。

 さすがにレジェンドクラス。


「ガボットさん。私は、ルールを守らない者は見過ごせません。ですから、もう一度だけ、チャンスを与えたく思います。是非とも、ルールを守って、480万ドラクマをお支払いください」

「バカな女だ。払わせたければ、無理やり払わせてみろ」

「分かりました。もう支払いは結構です」


 ガボットはにやりと笑った。

「そうだろうな」

「かわりに、あなたの剣、その〈修羅炎の剣〉に、効果を付与してさしあげましょう。無料で」

「ほう。バカな女だと思っていたが、少しは話が分かるようだな。おれが何者か分かり、やっと正しく敬意をはらうようになったか。くっくっ。残念だったな、ケール。お前がバカ高い金を払って得た特殊効果とやらの付与を、おれはタダでさせるぜ」


 ケールと呼びかけられたのは、先ほど『通常攻撃の全てがクリティカルヒットになる』効果付与を競り落とした〈グラディエーター〉だ。

 ケールは悔しそうに歯がみした。


 ガボットが〈修羅炎の剣〉を差し出してくる。

「さぁ、いいぞ。とっとと効果を付与しろ」


「ええ、付与させていただきます───ですが、私が付与してさしあげるのは、『通常攻撃の全てがクリティカルヒットになる』ではありません」

「すると、ほかの特殊効果とやらか。まぁなんだっていい。とっとと付与しろ」


 アリシアは静かに言った。


「ええ、付与してさしあげますとも。あなたの〈修羅炎の剣〉が、『ひのきの棒』以下となる、デバフ効果の数々を──100個ほど」



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