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15,オークション。



「変異した黒弩龍を倒せたのはめでたいけど、ちょっと強くしすぎちゃったんじゃないかな?」


 王都への帰り道で、シーラがそう聞いてきた。

 アリシアはうなずいて、


「ライラのクレちゃんのことですね?」

「クレちゃん? ああ、そうそうクレイモアに付与した数々の効果。あ、そっか。好きなときに付与した効果は解除できるんだっけ?」

「ええ。ですが解除するつもりはありませんよ。ライラはよい仕事をしてくださいましたし、錬成店の力があれば、新米Fランク冒険者でさえもSランク冒険者になれる、という生きた証人ですから」

「だけどライラは無双できる」

「そうですね──私が通常付与する特殊効果は、いわばバフ。ですが、デバフ効果を付与できない、と話したことはありません」

「というと?」

「たとえばシーラさんが採取してくださった素材の中には、制量石というものがありました。これが唯一付与できるのは、『活動時間を10分に限定する』というものです。錬成時に手をくわえると、『この武器に付与された特殊効果が使用できるのは、一日に10分まで』というものにできます」

「え。するとライラの無双モードは、一日で10分だけ? 当人に教えてあげた?」

「あとで教えてあげてください」


 シーラは溜息をついた。

「傭兵は雑用係じゃないんだけど、まぁやっておくよ。だけど10分限定とは、賭けに出たよね。黒弩龍を10分以内に倒せなかったら、全滅していた」

「正直、5分で充分だと思ったのですよ。ですが念のため10分にしたのです」

「なるほど…………ライラが必殺技名を忘れたときは、少し焦ったんじゃないの?」

「そうですね」


 と、話をあわせておいたが、アリシアはこれまで生きていて、一度も『焦る』という感情を抱いたためしはなかった。なんなら少しは『焦る』を体験してみたいものだ、という気もする。


 錬成店に戻ったところで、店番を担当していたチェットに礼を言い、帰す。


「では店を閉めましょう」


 シーラは驚いた様子で、

「これからお客が来るところなんじゃないの? そのための宣伝にライラを送り込んだんでしょ?」

「ええ。ですがひとつ問題が。現在のところ錬成作業に対する料金設定はいまだにできていません」

「つまり?」

「オープン初日から盛況でしたら、ある程度は寛大な料金設定もできたのですがね。最初は冒険者のかたがたにつけていただくとしましょう」

「よく分からないけど、それだと安く設定されるのでは?」

「やりかた次第でしょう」


 アリシアとしては、この手はあまりとりたくはなかった。一時的にはうまくいっても、長期的な経営戦略には悪く響く危険もあったから。

 だが明後日までに600万ドラクマの売り上げを獲得するためには、短期的な戦略を取るしかない。


「シーラさんは、ライラが宣伝を怠っていないか、遠くから監視を」

「店は、明日は開店するんだよね?」

「いえ明日も日中は閉めておきます。そのかわり、夜に行いましょう」

「夜間オープン?」

「錬成店ではなく、別の場所で」


 シーラは不可解そうに腕を組む。


「『店』なんだよね?」

「長期的には。ですが、明日は異なることをします。オークションです」

「オークション?」

「オークションの噂も広めておいたください。開催場所は、そうですね。ダーン会場は、手ごろなお金で借りられるはずなので、そこで行います」


 シーラは肩をすくめた。

「了解」


 アリシアはシーラと別れてから、アクセサリ屋に向かった。

 一考してから、手ごろな値段の指輪を購入する。ただの指輪(ただし火焔晶が使われているので、これも素材にしようと思えばできる)を。


 錬成店に戻り、保管庫内にある素材一覧から、複数の素材を取り出す。

『取り出す』といっても、これは脳内で、という意味だが。

 脳内に表示された一覧から、複数の素材を選別し、無ガ石を媒介としてかけあわせる。それからある特殊効果を、指輪に錬成する。


 その指輪をアリシアは左手の指にはめた。

 この効果は『装備者 (アリシア)が錬成スキルを強要された場合発動し、装備者の命を奪う』というもの。

 一般的にはデバフ効果に思えるが、アリシアにとってはバフ。

 錬成スキルを強要されるくらいならば、死んだほうが無難だろう。

 別段、無理やり錬成スキルを使われることが屈辱とか、そういう人間的な感情ではない。ただ論理的に、この錬成スキルが悪に利用されることがあれば、それは社会に害をなす。

 それを事前に阻止するための方法をとっておくのは、錬成スキルの使用者としては、しごく最低限の責務となる。

 ゆえにこれで最悪にいたるまえに、死ねる。

 アリシアは珍しく安堵した。


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