14,宣伝。
アリシアの考えでは、必要な効果を付与しきっていれば、戦いは長引かない。簡単に終わる。
ライラはそれを体現してみせた。
めりこんだ大樹から立ち上がるライラ。クレイモアに錬成スキルで付与された効果、『剣身を盾として使用したとき、敵の攻撃を無効化する』で、とっさに『不可視の攻撃』を受けた。
これが可能だったのは、『装備者が攻撃を受けたとき体感時間が10倍になる』効果のおかげ。
不可視とはいえ風切り音はしたため、とっさに防御ができたのだ。
ただし衝撃によって大樹まで吹き飛ばされたが。『装備者のDEFを200パーセント上がる』効果のおかげで、打ち身程度で済んだ。
そのうえで『重さ10分の1』と『装備者のSTR300パーセント上がる』によって巨大なクレイモアを軽々ともちながら、黒弩龍へと向かう。
『タグ付け』効果によって、『不可視攻撃』の位置は手にとるように分かる。
回避しながら進むと、《サンダーブレイク》の直撃を受ける。
全身、地味に痺れたが、『雷属性の耐性』のおかげでほぼノーダメージ。
黒弩龍は、この小物にはじめて注意を向けた。ここまで連続して致命的ダメージを受けずに攻め込んでくるとは。
だがここまで、とばかり《闇黒濁流》を使う。
ライラはすっかり、その致死的な闇黒に飛び込んだ。
ここまで固唾をのんで見守っていたポーラは、さすがにライラの死を確信した。ほかの冒険者たちも同様だったらしく、「ああ、彼女はよくやったよ」という雰囲気になる。
だがすぐにその追悼は否定され、ライラが《闇黒濁流》の中から現れる。
黒弩龍の鱗を素材として付与された効果『装備者に完全なる闇属性の耐性』は、確実であり、それがライラの身を守った。
この闇属性に耐えうる能力は、上位の闇魔法会得者でも難しかったため、誰もが目を疑ったのも無理はない。
一方ライラはこれの凄さもさほど考えることもなく、(あの素材店のお姉さん、やるなぁ)と感心しただけだった。
ちなみに正しくは錬成店なので、ライラはまったく勘違いしていたが。
ライラはようやく黒弩龍の真ん前まで来る。
黒弩龍の懐内といえる場所。想定していなかった黒弩龍の攻撃として、体表から飛んできた槍のような棘の攻撃があった。
だが『装備者が攻撃を受けたとき体感時間が10倍になる』は当然効力を発揮し、ライラは『クレイモアを盾として防御するか』それとも『ただ回避するか』じっくり考慮する余地もあった。
出した結論は、黒弩龍の頭部は高いところにありすぎる、という難点の解決に役立つ。
つまり黒弩龍を一撃で屠れるのは、やはりその頭部に必殺の一撃を与えることに思える。
だが体長が50メートルで、いまは頭を上げているので、これは高い。
そこでライラは、飛んできた複数の棘を足場として、駆けあがることにした。体感時間10倍と、ライラのもとからの敏捷性のおかげ。
「いっくわよぉぉ!!」
そうして天高く飛びあがるライラは、クレイモアを振りかぶる。
それを目撃していたポーラたちも、気づけば声援を送っていた。よく分からないが、ライラが最後の希望のように思える。
「やれ!」
「そこだ!」
「いけぇ!」
という冒険者たちの声。
だがライラは、
「………」
という空白の気持ちで落下、黒弩龍の頭さえも足場にして、その背後に着地した。
このありさまを遠くから目撃したシーラが首をひねる。
「何があったんだろう? 不慮の事態かな?」
隣にいたアリシアが、淡々と言った。
「たしかに不慮の事態でしょうね。ライラは、必殺技名を忘れたようですから」
「え?」
「音声認識にしたので、正しく必殺技名を発声する必要があります」
「……あの子、やっぱり頭足らないんじゃないか?」
「分かりかねます。ただ私は見ていましたよ。彼女が、」
そのころ戦いの現場では、ライラがポケットから紙きれを取り出していた。
念のため、自分が考えた必殺技名を、その場でメモしていたのだ。
恥ずかしいので隠れてメモったが、アリシアには見られていたように思う。
「あー、そうそう。〈破動撃裂斬〉だったわね」
覇石を素材として特殊効果、『特定条件下で攻撃力が格段に増加する』。
その発動設定は、音声認識。
どんな場面だろうと、ライラの音声認識。
よって起動する。
クレイモアの剣身が唸りだし、各段に増加する一撃を放とうとする。
「えー、いまなの? かっこよくないじゃない! だけど仕方ない、このままいっくわよ!!」
黒弩龍の尻尾を駆け上がり、その龍の背中中央へと飛び込む。
必殺技の前に、クレイモアの通常攻撃だけで、十分に黒弩龍に致命傷を与えられるようになっていた。
光天晶素材による効果『光属性』は、闇属性の黒弩龍の弱点。
『敵の弱点属性で攻撃した場合、クリティカルダメージになる』効果と、それに連結する『クリティカル時、ダメージが増加する』効果のコンボ。
さらにもともとのクレイモアという武器の破壊力もあって。
一気に黒弩龍の体内をえぐり、めちゃくちゃに振り回すクレイモアが、その破壊の渦のまま、貫通した。
黒弩龍の腹部から飛び出すことになったライラは勢いを殺して、どうにか立ち止まる。
偶然にも、黒弩龍に背を向けた状態で。
ライラは一考してから、そのまま歩いていくことにした。
背後では黒弩龍がどうと倒れる。地響きで分かる。
冒険者たちが歓声を上げるなか、ライラはふと立ち止まり、大事な仕事を思い出した。
「あたしが黒弩龍を倒せたのは、あたしの天才さが一番だけれども。今日オープンした素材店……じゃなく、錬成店のおかげでもあるのよ。アリシアお姉さんの錬成スキルのおかげでもね!」
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