13,予感。
ライラが慌てて戻ってきたとき、シーラは「腰抜けだなぁ」と呆れた。
しかしアリシアの中で、ライラの評価がぐーんと上がる。
勇敢だし、やる気もある。が、ここぞというときには、正しく臆病になれる。
ライラから《サンダーブレイク》のことを聞く。
「なるほど、雷属性攻撃ですか。分かりました、耐性効果を付与しましょう」
ちょうど雷核晶という素材がある。この手の属性系素材は、『雷属性の耐性』または『雷属性の攻撃』のどちらかの効果を付与できる。
ただし一個では片方だけなので、たとえば雷属性攻撃と耐性を両方つけて、雷系のエキスパートになろうと思ったら、雷核晶は2個必要となるわけだ。
「ほかに必要な効果はありますか?」
「うーん。たぶん、あとは大丈夫だと思うけれど。あ、そうそう。なんでも『不可視の攻撃』がくるらしいよ。だからさ、可視化して」
「可視化………………」
アリシアは黙考した。これは、意外と難しい。
単純に『見えないものを見えるようにする』という効果があればいいが、どうもそこまで都合のよいものはないらしい。つまり、どのように不可視にされているのか。光の屈折を利用しているのか、視認不良の靄でもかけているのか。その原理が分からないと、さすがに力技では難しそう。
「でしたら、タグ付けしてください」
「なにそれ」
探地花という素材を使い、『対象に探知タグを付ける』という効果をつけた。
「タグ付けのため一撃は受ける必要がありますが、一度タグをつければ、たとえ見えなくとも、どこにあるかは分かります」
「それなら回避できるね。じゃ、こんどこそ、ブッ倒してくるよー!!」
ライラを見送る。
──戦いの現場では。
黒弩龍もまた、冒険者たちを一掃する手順をもうけようとしていた。
まず冒険者たちはまだ数が多い。動きが速く仕留めにくい。そこで動きを封じるため、囲い込む形で無数の《サンダーブレイク》を放ち、いわば雷の檻に閉じ込める。
その上で《闇黒濁流》を散布し、雷の檻内の冒険者たちをまとめて殺す。
《闇黒濁流》が効かない者や、自力で《サンダーブレイク》を突破できる者は、『不可視攻撃』で背後から貫く。
このとき──ポーラはすっかり絶望していた。
この絶望感は、ポーラだけでなく、ここにいる冒険者たち全員に漂っているものだった。数々の修羅場をくぐってきた何十人もの冒険者たちが口々に叫ぶ。
「もうダメだ! この化け物には勝てないぞ!」
「しっかりしろ! おれたちがやられたら、もう王都はダメだぞ!」
「こんなに強かったのか、黒弩龍というのは?」
「これは変異体だ……Sランク冒険者が束になってかかって、やっと勝てるかどうか」
「うぉぉぉぉ!!!」
一人、やけくそになって突撃した冒険者は、あっさりと黒弩龍の鋭い棘で殺された。
棘……《サンダーブレイク》、《闇黒濁流》、『不可視の攻撃』以外にも、全身から飛ばす棘の攻撃など、やたらと多彩な黒弩龍。
この棘は、棘といってもそれは黒弩龍サイズからの話で、人間にすれば鋭い槍のごとし。しかも貫通力が高く、先ほどもあるパーティのタンク役が自慢の盾ごと貫かれるのを目撃した。
黒弩龍がここを突破しても、まだ騎士団の防衛ラインがあるには、ある。だが騎士団が黒弩龍と相打ちになった場合、王国の戦力はがつんと下がるので、隣国が攻め込むキッカケとなるかもしれない。
さすがにあっさり侵略されることはないだろう。だが戦争の火ぶたが切られれば、大勢が犠牲になる。
少々、悲観的な未来予測かもしれないが。ここが、分かれ目となるのかもしれない。
ポーラは、また変なものを見たと思いきや、軽やかに駆けるライラだった。
このライラの敏捷性だけは、効果付与とは関係のない、ライラの自力である。
「ライラ! 逃げたんじゃなかったの?!」
「アタシが、このでかいトカゲを討伐するわ!!」
「そんな、あんたにできるわけがないでしょ! 自殺行為よ!!」
『不可視の攻撃』がライラを横殴りに叩きつける。
ライラが近くの大樹まで飛ばされた。
「あのガキ、死んだか」
ダンが確信をもって呟いた。
だがポーラは目撃していた。ライラが『不可視の攻撃』をくらう寸前に、クレイモアでガードしたのを。そもそもライラはいつのまに、あのクレイモアを振り回せるようになったのか。まるでクレイモアに重さがなくなったように………ポーラは妙な予感を覚えた。
もしかすると、ここで死なずに済むかもしれない。
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