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12,闇耐性。

 

 アリシアは、ライラに同行することに決めた。

 ライラの活躍を見届けると同時に、その活躍を錬成スキルが支えていることを広めてもらわねばならない。


 ただし、ある程度はライラ自身の実力と『錯覚』してもらいたい。

 というのも、今回は制限を外してライラのクレイモア(クレちゃん)に特殊効果を付与したが、実際は3個までの制限をもうけるのだから、あまりに錬成最強と思われても困るわけだ。

 だがこの匙加減は、どうすることもできない。

 あとは、どうなるか見てみよう。


 シーラにもアリシアの護衛として同行してもらうことにした。

 アリシア自身は黒弩龍に近づくつもりはなかったが(そもそもシーラと一緒にいるところをほかの冒険者たちに見られるのも困る)。

 それでも万が一、攻撃の巻き添えをくらって死んでしまっては、借金返済もできなくなるので。


 黒弩龍は、すでに森を抜け、王都付近まで接近していた。

 多数の冒険者たちが攻撃を仕掛けているので、なかなかに圧巻。しかし対する黒弩龍はびとくしもしていないようだ。

 だいぶ離れた安全圏から眺めても。


「おや。想定よりも大きいですね」


 全長50メートルというところか。

 黒弩龍の口がぱかりと開き、闇黒の濁流といえるものが、あたりいったいにまき散らされるのを目撃した。

 その《闇黒濁流》にのみ込まれた冒険者たちが、ばたばたと死んでいく。


「いっくわよ!」


 と駆けだそうとするライラを、アリシアはその肩をつかんで止めた。


「いえ、いきません」

「えっ! この流れで、止める???」

「少々、敵を甘くみていました。輝防石で錬成して『クレイモアの剣身を盾として使用したとき、敵の攻撃を無効化する』効果を付与してありますが、これはおもに物理攻撃に有効。しかし《闇黒濁流》とでも呼べるアレは、物理攻撃ともいえません。対抗できるよう、やはり『闇属性攻撃の耐性』効果は不可欠です」

「別にいいけど、早くしてよ!」


「シーラさん、出番ですよ」

「うん、なにするのー?」

「黒弩龍の鱗を取ってきてください。通常、この手の鍛冶素材は錬成素材にはなりませんが、今回はうまくいくと思います。そして黒弩龍の一部を錬成素材として活用すれば、『闇属性攻撃の耐性』を付与することができるでしょう」

「…………………無茶ぶりだね」

「そんなことはありません」


 シーラが向かったので、しばし待機となった。

 ライラはそわそわしている。

 アリシアは瞑目して考える。

 シーラならば、〈銀行〉の取立人や、その上層部も皆殺しにしてくれそうだ。が、それはアリシアのやり方ではない。

 とはいえ物事を簡単に済ませてしまいたくなる思考の癖というものは。


 シーラが戻ってきた。


「乱戦で良かったよ。どさくに接近できた。一対一じゃ、近づく前に殺されていたね。いやぁ、今回ばかりは死んだかと思った」


 アドレナリンがだいぶ出ているようで、普段より饒舌だ。

 アリシアは黒弩龍の鱗を受け取り、さっそく錬成素材として利用。

 錬成スキル起動。クレイモアに『装備者に完全なる闇属性の耐性』を付与した。


「これで、《闇黒濁流》の中を突破できます。念のため言っておきますが、このクレイモアを装備解除しては、ダメですよ」

「分かっているわよ。じゃ、こんどこそ、いっくわよー!!」


 ライラがクレイモアをもって駆けだす。

 それを見届けてから、アリシアはシーラに聞いた。


「ライラは、黒弩龍を撃破できると考えますか?」

「五分五分。君が付与した効果はたいしたものだけど、結局、最後は装備者の頑張りによるし」

「もう少し、近づいてみますか」



 ───現場では。

 冒険者たちが疲弊している。

 その中には、ポーラとダンの姿があった。黒弩龍は弱るところも見せない。


 王都では、黒弩龍の襲来にそなえ避難命令が出され、最後の防衛ラインには騎士団が出張っている。しかし冒険者の精鋭が破れたあとでは、騎士団でも心もとない。

 王政府内では、この黒弩龍は敵国に操られているのではないか、などのいまは必要としない議論ばかりが行われていた。


 ポーラが疲れた視線を向けたとき、一人の元気な少女が駆けていくのが見えた。

 黒弩龍に向かって。


「ちょっと、そこのあんた、危ないわよ! って、ライラじゃない?!」


 ライラはポーラをちらりと見てから、

「ポーラお姉さん。元気?」

「──でもない。〈虎の牙〉はまだ無事だけど、冒険者が何人も死んだ。何よりアーサーが」


 アーサー。王都にいた唯一のSランク冒険者。

 5分ほど前。

「この俺が相手になってやる! 覚悟しろ!!」と勇ましく飛びかかり、黒弩龍の不可視の一撃によって殺されてしまった。


『不可視の一撃』。

 黒弩龍には、見えない攻撃がある。

 この『不可視攻撃』は、強い冒険者をピンポイントで攻撃してくる。

 一方、《闇黒濁流》による全体攻撃もある。《闇黒濁流》は、闇属性攻撃の耐性がないと耐えられない。即死に近い攻撃。対処するには距離をとるしかない。

 ところが黒弩龍には、離れた冒険者に向かって、《サンダーブレイク》という雷属性攻撃も放ってくる。

 その《サンダーブレイク》が、ライラに向かって放たれる。


「ライラ!!!」


 ライラは直撃の寸前、回避していた。


「すごい! いまの攻撃を回避できるなんて!」


 ポーラは知らなかったが、これは『装備者が攻撃を受けたとき体感時間が10倍になる』効果のおかげだ。

 ライラはしばし悔しそうに立っていたが。


「雷属性攻撃への耐性が必要みたいっっ!!」


 と叫んで、回れ右して駆けていった。


「……なんなの、あの子?」


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