103,灰。
テレンスは、アリシアの脅威を三つに分類した。
まず傭兵の存在。このシーラという傭兵は、実はアリシアとは共同経営者らしい。だがそのことは、外部から錬成店の経営権などを調べても分からない。
アリシアにとって懐刀といえる女。これを排除することで、アリシアの力を削ぐ。
これは難しいことではない。シーラは確かに有能な傭兵だろうが、これまでは暗躍していたからこそ、その地位にいることができた。
傭兵ごとき、冒険者パーティが狙えば仕留めることなど容易い。
続いて二つ目の脅威に、ライラという冒険者。これは黒弩龍を撃破した少女のことである。アリシアに心酔しており、アリシアを狙えばまず敵になるだろう。
それを聞いて、集まった過激派の冒険者たちが動揺する。
黒弩龍を撃破した冒険者と一戦まじえるかもしれないとなると……だがこれもテレンスは落ち着かせる。
「案ずるな。なにもこのライラという小娘が、生まれながらの最強無双というわけではない。この小娘の装備するクレイモアに、チート級の効果が複数付与されているだけだ。それこそ何十とな」
それに対して、過激派の冒険者の一人が挙手して、
「いや、それはおかしいぞ。ひとつの装備品に付与できる効果は三つまでだ」
テレンスは呆れ果てたが、そのことを顔には出さずに説明した。
「いいかい、それはアリシアがそう言ったというだけのことだろう? ではアリシアの立場から考えてみろ。ひとつの装備品に無尽蔵に効果を付与できるとして、それをみなに伝えるか? それよりも『3個までしか付与できない』として、上書きなどさせることでより利益を得たほうがいいだろう?」
テレンスはとっくに、このことに自力で気づいていた。ところが過激派の冒険者のほとんどは気づいていなかったようで、テレンスに説明されたとたん、なんだか自分たちが騙されていたような気がしてくる。
「あの女、おれたちをカモにしやがったな!」
「許せぬ!」
「騙しやがって!」
テレンスは激高するみなを落ち着かせる。
「いま要点はそこじゃない。ライラという小娘をどう排除するかだ。そして答えは、もう分かっているな? あの小娘は、クレイモアを装備しているからこそ、最強なんだ。では装備していないときを狙えばいい。夜寝ているときでもいいし、トイレ中だってかまうまい。クレイモアは、あのデカさだからな。装着型の装備武器では、常に肌身離さずにしている懸念もあるが、クレイモアならその心配はないだろう」
こうして、ライラを排除する計画も決まった。最後の脅威として、テレンスはアリシア自身の名をあげた。
「アリシア自身に戦闘力はないが、あの女の錬成スキルは、脅威といえる。おれたちに向かって、デバフ効果を付与してくるかもしれないからな」
過激派の冒険者たちは、それが最もゾッとすることだったようで、とたんに弱気になって顔をみあわせだす。だがテレンスは、これにも対策を考えていた。
「心配するな。正面からバカみたいに挑まなければいい。まず魔導系統ジョブの者たちが、遠隔から攻撃する。だが直接肉体にはダメージを与えるな。死なれては困るからな。たとえばアリシアを火炎で囲って、戦意を失わせるんだ。そこを敏捷力に自慢のあるアタッカーが、一気に畳み込む」
「だが拉致しても、そこで錬成スキルを使おうとするかもしれんぞ」
という意見に対して、テレンスは答える。
「目玉をえぐるんだ。失明させれば、こちらが誰か分からない。誰か分からなければ、どの装備武器にデバフ効果を付与すればいいかもわかるまい」
「それだと拉致したあとで、おれたちに効果を付与させられないぞ」
「バカだな。たとえ『氷属性』を付与してほしいと思ったら、そのときはアリシアに武器などを口頭で説明して、効果付与させればいい。むろんそのときは、アリシアを従順にさせてからだがな」
「よし、それならいけそうだな、みんな!」
するとほかの過激派の冒険者たちも勢いこんで続く。
「おお、いけそうだ!」
「やってやるぞ!」
「錬成スキルは俺たちのものだ!」
みなが盛り上がるなか、〈ガード〉ジョブの大柄な男が、テレンスに声をかけた。そして、その体格に似合わぬ小さな声で言う。
「なあテレンスさん。アリシアを拉致ったあとなんだが──犯してもいいかな?」
「え、なんだって?」
「そのう、俺は前から、あの女を見るとムラムラして仕方なかったんだ」
「……」
はじめテレンスは呆れたが、それも有りかもしれないと考え直す。アリシアを拉致したあと、テレンスたちの好きに錬成スキルを使わせるためには、アリシアを精神的に屈服させる必要がある。ならばこの〈ガード〉にレイプでもさせて、まずその心を壊してしまえばいいのだ。
「あぁ、好きにしろ。肉体を壊さん程度に加減はしろよ」
とたん〈ガード〉は嬉しそうににんまりした。
テレンスはみなに声をかけた。
「では、はじめるぞ! まずは傭兵とライラの排除からだ! さぁ、諸君! 大仕事だぞ──んんんん?」
テレンスは、目をこすった。
テレンスに向かってやる気満々の顔を見せている過激派の者たち。
だがその中の一人の頭が、消えてしまった。
厳密には灰になった。
やがてほかの過激派の肉体にも異変が起きる。
ある者は胴体から、ある者は両足から灰になっていく。
いきなり頭部が灰になった者と違い、即死ではない肉体箇所から灰になった者の反応は凄まじかった。
「ぁぁああぁぁぁぁあなんだぁぁぁぁぁこれはなんだぁぁぁぁ!!!!」
「足がぁぁぁぁぁおれの足があぁぁぁ」
「うぎゃぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
テレンスは仰天する。
「一体、何が起きて──」
先ほどの〈ガード〉が、両手足から灰になっていく。
達磨のように転がりながら、「あぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!」と絶叫している。
そしてついに全身が灰となった。
テレンスは駆けだした。
逃げねば逃げね逃げねば──
「うぉぉぉぉぉ!!!」
走りながらテレンスの身体も灰となった。
かくして──数秒後には、過激派たちが集まった拠点には、その人数分の灰の山が積もっているだけとなった。
これはアリシアが、すべての冒険者に極秘に付与しておいた効果による。
その効果とは。
『アリシア、またはアリシアが〔友人〕と解釈している者たちに危害を加えようとした者は、その肉体が灰となって死亡する』。
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