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103/105

103,灰。

 


 テレンスは、アリシアの脅威を三つに分類した。


 まず傭兵の存在。このシーラという傭兵は、実はアリシアとは共同経営者らしい。だがそのことは、外部から錬成店の経営権などを調べても分からない。

 アリシアにとって懐刀といえる女。これを排除することで、アリシアの力を削ぐ。

 これは難しいことではない。シーラは確かに有能な傭兵だろうが、これまでは暗躍していたからこそ、その地位にいることができた。

 傭兵ごとき、冒険者パーティが狙えば仕留めることなど容易い。


 続いて二つ目の脅威に、ライラという冒険者。これは黒弩龍を撃破した少女のことである。アリシアに心酔しており、アリシアを狙えばまず敵になるだろう。

 それを聞いて、集まった過激派の冒険者たちが動揺する。

 黒弩龍を撃破した冒険者と一戦まじえるかもしれないとなると……だがこれもテレンスは落ち着かせる。


「案ずるな。なにもこのライラという小娘が、生まれながらの最強無双というわけではない。この小娘の装備するクレイモアに、チート級の効果が複数付与されているだけだ。それこそ何十とな」


 それに対して、過激派の冒険者の一人が挙手して、

「いや、それはおかしいぞ。ひとつの装備品に付与できる効果は三つまでだ」


 テレンスは呆れ果てたが、そのことを顔には出さずに説明した。

「いいかい、それはアリシアがそう言ったというだけのことだろう? ではアリシアの立場から考えてみろ。ひとつの装備品に無尽蔵に効果を付与できるとして、それをみなに伝えるか? それよりも『3個までしか付与できない』として、上書きなどさせることでより利益を得たほうがいいだろう?」


 テレンスはとっくに、このことに自力で気づいていた。ところが過激派の冒険者のほとんどは気づいていなかったようで、テレンスに説明されたとたん、なんだか自分たちが騙されていたような気がしてくる。


「あの女、おれたちをカモにしやがったな!」

「許せぬ!」

「騙しやがって!」


 テレンスは激高するみなを落ち着かせる。

「いま要点はそこじゃない。ライラという小娘をどう排除するかだ。そして答えは、もう分かっているな? あの小娘は、クレイモアを装備しているからこそ、最強なんだ。では装備していないときを狙えばいい。夜寝ているときでもいいし、トイレ中だってかまうまい。クレイモアは、あのデカさだからな。装着型の装備武器では、常に肌身離さずにしている懸念もあるが、クレイモアならその心配はないだろう」


 こうして、ライラを排除する計画も決まった。最後の脅威として、テレンスはアリシア自身の名をあげた。


「アリシア自身に戦闘力はないが、あの女の錬成スキルは、脅威といえる。おれたちに向かって、デバフ効果を付与してくるかもしれないからな」


 過激派の冒険者たちは、それが最もゾッとすることだったようで、とたんに弱気になって顔をみあわせだす。だがテレンスは、これにも対策を考えていた。


「心配するな。正面からバカみたいに挑まなければいい。まず魔導系統ジョブの者たちが、遠隔から攻撃する。だが直接肉体にはダメージを与えるな。死なれては困るからな。たとえばアリシアを火炎で囲って、戦意を失わせるんだ。そこを敏捷力に自慢のあるアタッカーが、一気に畳み込む」


「だが拉致しても、そこで錬成スキルを使おうとするかもしれんぞ」

 という意見に対して、テレンスは答える。

「目玉をえぐるんだ。失明させれば、こちらが誰か分からない。誰か分からなければ、どの装備武器にデバフ効果を付与すればいいかもわかるまい」

「それだと拉致したあとで、おれたちに効果を付与させられないぞ」

「バカだな。たとえ『氷属性』を付与してほしいと思ったら、そのときはアリシアに武器などを口頭で説明して、効果付与させればいい。むろんそのときは、アリシアを従順にさせてからだがな」

「よし、それならいけそうだな、みんな!」


 するとほかの過激派の冒険者たちも勢いこんで続く。

「おお、いけそうだ!」

「やってやるぞ!」

「錬成スキルは俺たちのものだ!」


 みなが盛り上がるなか、〈ガード〉ジョブの大柄な男が、テレンスに声をかけた。そして、その体格に似合わぬ小さな声で言う。

「なあテレンスさん。アリシアを拉致ったあとなんだが──犯してもいいかな?」

「え、なんだって?」

「そのう、俺は前から、あの女を見るとムラムラして仕方なかったんだ」

「……」


 はじめテレンスは呆れたが、それも有りかもしれないと考え直す。アリシアを拉致したあと、テレンスたちの好きに錬成スキルを使わせるためには、アリシアを精神的に屈服させる必要がある。ならばこの〈ガード〉にレイプでもさせて、まずその心を壊してしまえばいいのだ。


「あぁ、好きにしろ。肉体を壊さん程度に加減はしろよ」


 とたん〈ガード〉は嬉しそうににんまりした。

 テレンスはみなに声をかけた。


「では、はじめるぞ! まずは傭兵とライラの排除からだ! さぁ、諸君! 大仕事だぞ──んんんん?」


 テレンスは、目をこすった。

 テレンスに向かってやる気満々の顔を見せている過激派の者たち。

 だがその中の一人の頭が、消えてしまった。


 厳密には灰になった。


 やがてほかの過激派の肉体にも異変が起きる。

 ある者は胴体から、ある者は両足から灰になっていく。

 いきなり頭部が灰になった者と違い、即死ではない肉体箇所から灰になった者の反応は凄まじかった。


「ぁぁああぁぁぁぁあなんだぁぁぁぁぁこれはなんだぁぁぁぁ!!!!」

「足がぁぁぁぁぁおれの足があぁぁぁ」

「うぎゃぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 テレンスは仰天する。

「一体、何が起きて──」


 先ほどの〈ガード〉が、両手足から灰になっていく。

 達磨のように転がりながら、「あぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!」と絶叫している。

 そしてついに全身が灰となった。


 テレンスは駆けだした。

 逃げねば逃げね逃げねば──


「うぉぉぉぉぉ!!!」


 走りながらテレンスの身体も灰となった。


 かくして──数秒後には、過激派たちが集まった拠点には、その人数分の灰の山が積もっているだけとなった。


 これはアリシアが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()による。


 その効果とは。


『アリシア、またはアリシアが〔友人〕と解釈している者たちに危害を加えようとした者は、その肉体が灰となって死亡する』。


お読みいだたき、ありがとうございました。ブックマーク登録、評価などお願いいたします。

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