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101/105

101,終焉まで。

 


 アンデッド災害の解決した夜。


 〈銀行〉第35代の総裁ジェイデンは、冒険者ギルドの第53代ギルマスであるエドガーと密会していた。


「ジェイデン。本当に、うまくいくのか?」


 エドガーは懐疑的だった。

 この男はいつも懐疑的だな、とジェイデンは考える。懐疑的で、臆病。だからこそ利用しやすいともいえるが。


「うまくいく。もうしばらくの辛抱だ。この国をわれわれのものにできるぞ。僕が王となったあかつきには、冒険者ギルドの地位をもっと高いものにしてやる。いまのように、王国騎士団の次ではなく、な」


 王国の乗っ取りなど、まともな神経では計画しない。だがジェイデンはまともではなかったし、それに王族という強みがあった。遠い親戚というレベルだが。

 それでも王位継承権を有している。優先順位が58位と低いことは、このさいたいして関係はない。いま王政府を支配している連中を皆殺しにし、ジェイデン支持派で固めれば済む話。


 場合によっては、そのクーデターは今日行われていたかもしれなかった。アンデッド災害に乗じて──しかし錬成店のせいで、その計略は失敗に終わった。

 また貨幣供給を10倍にし、経済混乱を引き起こす策も、事前に潰されるに至っている。またしも錬成店によって。


 だがジェイデンは、この錬成店の店長を支配することができれば、逆転の目はあると考えている。


「僕の読みどおり、錬成スキルには、錬成用の素材が不可欠だ」


 エドガーが懐疑的に言う。

「鍛冶素材ではない素材のことか? なんの使い道もない素材類のことなのか? だとしたら、それは逆に異常だぞ。使いどころのない『その他の素材』は、鍛冶素材に比べても、何百倍も種類があるんだぞ。

 それらすべての素材が、一人の女のスキルに使われるためだけに存在しているというのか? それはもう、この世界──とまでいわずとも、すべてのダンジョンが、この女──つまりアリシア・シェパードを中心にまわっているようなものではないか。

 すべてのダンジョンは、アリシア・シェパードの錬成スキルのための素材を産出する場所、ということになってしまうのだからな」


 エドガーの指摘も理解できる。

 ジェイデンは、いくつか仮説をたてていた。たとえばダンジョンが創られたころは、アリシアの使う錬成スキルを、もっとたくさんの人間が使えたのかもしれない。つまり一般的なスキルだった。

 それが時の流れの中で、『錬成スキルの血脈』は減っていき、いまやアリシアだけが使い手となったのかもしれない。


「エドガー。よく聞くんだ。誰が中心かといえば、それは君と僕だ。僕が王となれば、すべてはそうなる」

「そのためには、アリシア・シェパードを味方に引き入れるんだな?」

「いや、そうじゃない。味方に引き入れる? はっ。今日、僕ははじめてあの女と対峙した。テーブルひとつ挟んで、あの女を観察した。あの女は、まぎれもなくサイコパスだ」

「サイコパス? それは、反社会的人格の持ち主のことをいうんだったな。そうだ。異常犯罪者のことだ」

「いやいや、違う。はっきり言おう。僕もサイコパスだ。だが僕は異常者ではないよ。サイコパスというのは、冷淡であり、自己中心的で、良心は欠如している。だが不用意に犯罪をおかしたりはしない。繰り返すが、異常ではないのでね。

 だが僕やアリシア・シェパードのような人間が、人類を進化させてきた。それがなぜか分かるかね? 僕たちはリスクを恐れない。そして、容赦がないからだ」


 エドガーは額の汗をぬぐった。ジェイデンを前にしていると、自分が無力に感じるのはなぜか? 

 エドガーは、ジェイデンもなにかしらのジョブに属しているのではないか、冒険者ならばSランクなのではないか、と何度も疑っている。

 当人は、『自分は非戦闘要員さ』と言っているが。

 ジェイデンの言うことなど、欠片も当てにはならない。


 咳払いしてから、エドガーは言った。

「……とにかく、ジェイデン。君と、アリシア・シェパードは似ている。ゆえに、アリシアを味方に引き入れるのは無理だろう、ということなのだね」

「まぁ、そういうことだ。だが、錬成スキルは必要だ。国を奪い取るためには、いまの無能な王から、玉座を正当な持ち主の手に移すためには」

「正当な持ち主。つまり、あなただ、ジェイデン」

「まさしく」


「……確かに。今日の一件で、王国騎士団のうちの3つの旅団に怪しい動きがあったということで、クーデターもやりづらくなった。貨幣供給量を増やして、経済を混乱させる策も使えなくなった。だから錬成スキルが欲しいのは、事実だろう。

 しかし、ジェイデン。アリシア・シェパードを味方にできず、また奴隷にもできなかった以上、打つ手はないのではないか?」


「いや。そんなことはないさ。この僕が、錬成スキルを使えるようになればいい」


 エドガーは首をひねった。話が飛躍しているのか、理解できない。

「ジェイデン。あなたは王族であり、かつ錬成スキルの血脈でもあったのか?」


「そんな都合のよい話があるものか。錬成スキルの血脈は、アリシア・シェパードのみだ」

「では?」

「実は、君に話していないことがある。僕は、あるジョブに属している」

「……やはり。それで一体、なんなのだ?」


 ジェイデンはもったいつけるように言う。

「〈マッドサイエンティスト〉だよ、エドガー」


 エドガーにとって、まったく聞いたことのないジョブだった。

「〈マッドサイエンティスト〉??? いったいそのジョブで、どうしようというんだ?」


「簡単にいえば、次のようにする。アリシア・シェパードを解体し、その脊髄の一部を、僕に移植するのだ。それによって、僕は錬成スキルを使えるようになる」


「……………」

 エドガーは、顔には出さずに、内心で思った。


(……異常者ではない、だと? アリシア・シェパードはともかく、このジェイデンという男は──まぎれもなく異常者だ)

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