表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/105

1,連帯保証人。

 

 アリシア・シェパードは、とくに特徴のない町娘だった。


 これは狙ってそうなったわけではなく、自然とそうなった。

 両親は早くに亡くし、お針子として働いてきた。毎日が淡々と過ぎるので、感情をあらわす機会もなくなり、そのうちすっかり鈍麻していたわけだ。


 ところがある日、思いがけない『個性』を付与されることになる。

 王国の〈銀行〉より男が来て、アリシアに多額の借金の支払い義務があることを話したのだ。突きつけた、といったほうが正解だが。


 アリシアとしては、まったく身に覚えのない話だ。自分で借金などした覚えはないので。とすると他人の借金を押し付けられたのだろうが、これもまた記憶がない。


「借金ですか。驚きました」


 とくに驚いた様子もなくそう答えるので、〈銀行〉の男のほうが驚く始末。

 ところでこの〈銀行〉とは、貨幣供給を行う王国銀行とは異なり、民間銀行のことだ。


「どうやら状況が呑み込めていないようだな」

 と、その〈銀行〉の男は荒っぽく言った。

 荒っぽい仕事を生業としているのだろう。債務者の取り立てとかを。今回はまだ取り立ての段階ではないが。

「あんたの債務額を聞いて驚くなよ」


 アリシアは一考する。

(驚くなよ、ということは、驚いて欲しいのでしょうか? では驚きましょうか)

「あら、まぁ」

 

 あまりに棒読みだったせいか、〈銀行〉の取り立て人が怒鳴る。

「てめぇ、ふざけんてのか!!」

「いえ、ふざけるのは苦手なので、ふざけてはいません。債務書類はこちらですか? なるほど。私が背負うことになった借金の額がこれと」


 3億ドラクマ。

 王都での一年間の平均給与が、男で550万、女で260万。ちなみにアリシアの年収は、平均より少し低く約230万。


「どうだ、てめぇの人生がもう詰んじまったのが、これで理解できたかよ?」

「なるほど。確かに、ただのお針子では、一生かかっても返せない額。他国ではあると噂にきいた『自己破産』なる制度も、この王国にはありませんし。まっているのは奴隷の身分に堕ちる末路、といったところでしょうか」


 あまりにアリシアが淡々と話すので、取り立て人もガッカリしたらしい。


 アリシアは債務書類を綺麗に四つ折りにしながら、

「不可解なのは、借金の額は利息などで増えたはずなのに、3億と切りがよいという点。そもそも、もとはいくら借りたのですか、マリアさんは?」

「あんた、誰の借金を背負わされたのか、知っていたのか?」

「知っていたというか、いま推測しました。

 マリアさんでしょう? 3年前、連帯保証人になるよう頼まれました」


 厳密には、『賃貸物件を借りるので保証人になってくれるかな、アリシア?』という頼まれかただったが。

 そしてアリシアが署名した書類の文面を、マリアは不自然に両手で隠していた。

 そのときからおかしいとは思っていたが、これで納得した。

 あれは賃貸物件の保証人ではなく、実際は借金の連帯保証人だったわけだ。その署名だったと。

 賃貸物件の保証人程度ならば、最悪でも滞納した家賃の肩代わり程度だが、借金の連帯保証人となれば話は別。


「マリアというのは、友達だったのか?」

「友達? そうですね。友達といえたのでしょう。ともに同じ孤児院で育ち、ともに勉学に励んできたのですし」


 ちなみに連帯保証人に署名した3年前から、いっさい音沙汰がなくなっていたが。


 すると取立人は、なぜか嬉しそうに笑いだした。

「友達に裏切られたってわけだな? この機会だから教えてやるが、そのマリアって女は、どこかに高飛びしやがったのさ。あんたに借金を押し付けてな」

「お気の毒に」


 アリシアは小さく十字を切った。

 アリシア自身は無宗教だったが、これは自立できるまで教会の孤児院で育てられた癖のようなもの。


 愕然とした様子で取り立て人は言う。

「何が気の毒だってんだ? あんた自身のことか?」

「いえ、マリアさんです。事情はどうあれ、故郷にはもう戻ってはこられないのですからね」


 取立人が癇癪を起す。

「おいっ! ダチに裏切られて、人生終了の借金を背負わされたんだぞ! もっと怒ったりしたらどうなんだ!」


 アリシアは溜息をついた。

「土砂降りだからと怒っても意味がないでしょう。天気も人生も似たようなものです。では、これで要件はお終いですか?」


 取立人は毒気が抜かれた様子で言った。

「ああ。だが、その余裕もいつまで続くかね」

 気をとりなおした取立人はニヤニヤ笑いながら、

「借金を返済できないようじゃ、〈銀行〉は債権を奴隷商に売るだろうな。その瞬間、あんたの身分は奴隷だ」


「町娘から奴隷に転職ですか。それは困るのでしょうね、私は──おそらくは」


お読みいだたき、ありがとうございました。ブクマ登録、評価などお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ