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見えずの世界。されど美しい。  作者: えるきんぐだむ
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mission

 「怠らぬ 歩み 恐ろし かたつむり」

 昔よく「先生」が口癖のように言っていたことだ。毎日コツコツと、どんなに歩みが遅くても良いからやり続けなさいと。物心がついた時から毎日休む暇もなく、「技術」を習得しなくては明るい未来など無い僕たちにとっては、この言葉がどれだけの重荷になっていたことか。

 「次の仕事だ」

 つい2日前に仕事を終えたばかりなのにもう次か。この部屋に住んではいるものの、ほとんど部屋にいないため、ドアの郵便口から小型USBが入れられたときはなんだか新鮮な気持ちになった。僕はいつものようにUSBを開き、膨大の量のデータを1分もかからずに読み込みUSBを飲み込んだ。

「この仕事、もう今から準備しないと間に合わないやつやん、、」

せっかく今日はゆっくりできると思い映画を借りてきたがどうやらまたもや見ないで返却することになりそうだ。

 ___時刻19時:雑居ビルの一角

 ここで張り込みを開始してから3日が経過した。向かいの風情がある料亭では、今日も国の幹部達がお酒を嗜んでいるようだった。

「毎日毎日、よくもまああんなに呑めるね。」

お酒を飲んだことはない為お酒の味はわからないが、なんとなく僕は好きにはなれなさそうだと思った。

「そろそろか、、」

料亭の前に、一台の黒い高級車が止まった。

料亭からはぞろぞろと着物を着た女性が出てきてお出迎えをしている。そして高級車からは5人のSPと今日のターゲットが姿を現した。

「さてと。行きますかね。」

僕は、雑居ビルの窓から飛び降り、受け身を取ると素早くターゲットが乗っていた車に近づいた。タイヤにGPSを付け、地を這うように暗闇へ姿を消した。

 ___時刻24時

 僕は首都高速道路を走っていた。

「おい、運転手。いつものところに車を付けてくれ。」

「かしこまりました。」

「行きの運転手はちゃんと処分したのか?」

「それはもちろん。滞りなく業務は終了しました。」

「それならいいがな!さすがに丸を一度見せてしまったからには生きていてもらっては困る。」

「丸、、ですか、、?」

「なんだ、、お前。雇われだったのか?何も聞かなかったことにしてくれ。」

今日のターゲットは本当に鈍い。

「おい、運転手。お前雇われなのにどうしていつものが分かるんだ、、」

「お。やっと気づいてくれましたか~。どうせこの車内の会話も盗聴されていることでしょう。これ以上うちの組織の邪魔をしないでいただけますかね?」

「おい!まさか、お前、、」

「はい。REDです。それでは、さようなら~」

時間もぴったりだ。

お台場、東京湾がすぐ下を通っている。時速180㎞のまま、ポイントに車ごと突っ込んだ。車は高速道路の外壁を飛び越え、そのまま海へと落ちていった。

 「やっぱ、びちょびちょになるじゃないか、、」

最近暖かなってきたとはいえ、5月の夜は流石にまだ冷えていた。

「お疲れ様でした。加瀬様。」

「ゆり。ターゲットは?」

「確認致しました。頭部外傷による脳挫傷、ショック状態による溺死となります。」

「そうか。今回も後処理は頼んだぞ。僕は3日3晩寝ずにいたし、体も冷えていることだから帰って休むとするよ。」

実際のところ3日ぐらい寝ないぐらい何ともないが、仕事が無事片付いたことによる安堵感があった。

「加瀬様。お車にお乗りください。」

「おう。さんきゅ。」

車内で着替え始めると間もなくゆりの運転する車が動き出した。

「加瀬様。目的地まで1時間弱はかかると思いますので、ごゆっくりお過ごし下さい。」

「僕は今回の報告を上にする。ゆりはいつものようにしていてくれ。」

「かしこまりました。」

そう言うと、ゆりは耳に小型装置を装着した。これで外の音は一切遮断される。

「ただいま終了しました。これより戻ります。」

「確認した。ターゲットは事故死で片付けておく。次の指令を待て。」

「かしこまりました。」

通信が切れてから思わずため息が漏れた。ゆりに合図を送るとゆりは耳についていた装置を外し、バックミラー越しで少し微笑んだ。

ペアになったお前のためにもまだまだ頑張らなくてはならないな。

そう決意し、目を閉じた。

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