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作者が見た三つ目の夢のお話

作者: 馬之群

多少は脚色を加えましたが、基本的には夢の内容を言葉にしているだけなのでよく分からない話です。ご了承下さい。

マジシャンの間では都市伝説のような話がまことしやかに囁かれていた。


ある悪魔と契約すると人間業とは思えないほど素晴らしいマジックをすることが出来るようになるというものだ。マジックとは観客からすれば理解を超えたものだから、このような噂が出ることは珍しくもない。しかし、実際にパッとしないマジシャンが急に一流のマジシャンになることが何度もあるとなると話は別だ。


勿論、ノーリスクでこんなうまい話があるはずはない。悪魔は契約の際に細々とした条件を突き付けてくる。その条件が一つでも満たされないと、契約違反をした日から数えて三日目に悪魔が現れ、マジシャンの命を奪うということだった。現に突如として有名になったマジシャンが次々と不審死を遂げている。練習中の事故とみなされているようだが、真相は誰にも分からない。


青年の頭を悩ませていたのもまさにその噂に関することだった。青年はマジシャンだったが、取り立てて腕がいいわけでもなく、大舞台に立つことなど夢のまた夢だ。だが、彼は有名になりたいわけではなかった。


彼が悩んでいたのは師匠の劇場が深刻な経営難に陥っていることだった。このままだと劇場は潰れ、師匠は一家で路頭に迷うことは目に見えていた。そんな折、この噂を聞きつけた彼は覚悟を決めて悪魔を呼び出す儀式を行った。


それからの青年のマジックは大成功だった。たちまち彼は有名になっていき、師匠の劇場の経営も少しずつ良くなっていった。そのうち借金を全て返せるだろうと思われた。


「このところやけに見事なマジックを披露するようになったじゃないか。どうしたんだ?」

青年の師匠は青年に尋ねるが、青年ははぐらかす。師匠は不思議に思い、同業者に尋ねてまわり、噂のことを知った。師匠は慌てて青年の元を訪れ、彼を問い詰めた。


「まさかとは思うが、悪魔と契約をしたのか?」

「…。」

契約の条件により話せなかったため、青年は黙っていた。師匠は青年が契約を行ったことを悟り、真っ蒼になった。

「なんて馬鹿なことを…。もし契約違反をしてしまったら…。」


「大丈夫ですよ。僕は慎重な人間ですから、他のマジシャンのようにうっかり違反をすることなどありません。」

青年は笑って答えた。師匠の不安は拭えなかったが、契約は破棄することが出来ない。見守ることしか出来なかった。


青年のマジックの腕は素晴らしいものになったが、借金の返済は思うように進まなくなっていった。他にも悪魔と契約するマジシャンが増えたためだ。青年は焦っていた。借金の返済期限が近い。大きな収入がなければ完済することが出来ないだろう。


そんなある日、青年の元にありがたい話が舞い込んできた。大劇場に出演する機会が与えられたのだ。一回の出演で大金が入ってくる。それさえあれば期日までに借金を完済出来る。しかし、その話にはリスクもあった。師匠の劇場であれば青年が悪魔の条件に合わせて我が儘を言っても対応してくれた。だが、大劇場ではそうも言っていられないのではないか。青年は慎重に対話を重ね、悪魔の提示した条件通りの形に調整を済ませた。


しかし、直前になって大劇場の担当者が条件の変更を申し出てきた。

「すみません、やはりリハーサルに参加して頂けませんか。貴方がリハーサルに参加しないという話が照明係に伝わっていなかったようで、どうしてももう一度調整しなければならないのです。」


「申し訳ありませんが、それは出来ません。これは契約の際にはっきりと決めたことですので、譲れません。」

担当者は粘り強く説得を続けた。

「演出家がかなり偏屈な方でして、調整も済んでいないのに舞台に上げるわけにはいかないと…。照明の確認だけでも出来ませんか?」


青年は困った。悪魔が提示した契約の条件は隅々まで読んだ。リハーサルの場にいるだけで悪魔の契約に違反してしまうことは間違いない。しかし、この機会を逃せば期日までに借金を完済出来ない。彼は借金取りが悪魔よりも残忍だと知っていた。平気で他人の家族を一家心中まで追い込むような連中だ。師匠には優しい奥さんと幼い子どもたちがいる。不幸な目に遭ってほしくない。


「…分かりました。リハーサルに参加します。」

「ありがとうございます。」

担当者は何度も頭を下げた。青年はいい加減なその男に苛立っていたが、にこやかな態度を崩さなかった。

「その代わり、出演料は公演が終了してすぐに渡すという条件はしっかり守って下さいね。」

「はい。勿論です。しっかりご用意させて頂きました。」


青年は一安心した。リハーサルは本番の前日にある。そこで契約に違反しても、そこから三日間は猶予がある。能力を失うこともない。本番は成功するだろう。それから師匠の元にお金を届ける時間は残っている。


大舞台での青年のマジックは大成功だった。青年は出演料を受け取り、師匠の元に向かう道すがら、手紙を書いた。彼は出演料に手紙を添え、師匠の家のポストに投函すると、そのまま帰っていった。翌朝になって手紙とお金を見つけた師匠は辺りを探し回り、必死に知り合いに声を掛けたが、青年の行方は分からなかった。


師匠がこの手紙を読んでいる頃には、僕はもうこの世にいないかもしれません。師匠がいなかったら、僕は父親が一家無理心中しようとした時に死んでいたことでしょう。天涯孤独の身となった僕をここまで育てて下さり、マジックを教えて下さって本当にありがとうございました。これは僕から貴方への最後の恩返しです。どうかお幸せに。


青年が師匠の家から帰ると、青年の目の前に悪魔が現れた。悪魔と言ってもその姿は人間に近かった。尻尾と翼がなければ。青年は今更泣き喚いたり逃げ出したりしようとは思わなかった。父親が突然家族を襲い始めた時の方が何倍も怖かった。


「思ったよりも落ち着いているな。何か遺言があれば聞いてやろう。」

「貴方のお陰で師匠に恩返しをすることが出来ました。ありがとうございました。」

青年は悪魔に頭を下げた。悪魔は高笑いをした。

「面白い奴だ。気に入ったぞ。本当ならただ魂を奪うのだが、特別に取り計らってやろう。既に交わした契約は取り消せないが、お前ともう一つ契約を結ぶことが出来る。どうだ?」


その後、師匠は悪魔を呼び出す儀式を行った。青年はまだ行方不明のままだ。師匠には守るべき家族がいるため契約をすることは出来ないが、青年がどうなったのか聞かないと前に進めなかった。


師匠は現れた悪魔の顔を見て息を呑んだ。よく知っている顔だ。

「お久し振りです、師匠。」

今回はラストにかなり脚色を加えました。実際の夢では最後にライオンが出てきて青年は…という形でしたが、あまりに青年が憐れで作者の意向により変更しました。まさに寝覚めの悪い夢でした。今回は作者が一人称視点で青年として夢を見ていました。ライオンには気を付けます。

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