隊長就任、ブリーフィング
前話の中盤を抜き出し。
地球換算 2035年4月2日 0900 世界名”キュラーム”本部応接室
俺は今、本部応接室に居る。
それは昨日来たある指令が原因だった。
(本日の0900にここに来いと書いて有ったが、俺何かやらかしたのか?)
そう思っていると、不意に後ろの扉が空いた。
「君も、本部からの招集か。」問いかけの声が降ってきた。
声は壮年の男を思わせる渋い物で、何所か安心感が有った。
振り返ると、そこにはやはり、壮年の男が居た。
右手で杖をつき、ズボンの右足からは銀の義足が見えていた。
胡麻塩頭と言う表現がぴったりな短く刈りあげられた髪は、その鋭い眼光と合わせて威圧感を持っていた。
「来てくれたみたいだな、君たち二人に辞令を発令する。」
いつの間にか、総帥が席についていた。俺たちが急いで立ち上がるのを手で制する。
「まず、八重島鷹中尉は本日現在時刻0900を持って大尉に昇進、新部隊第6軍第1飛行隊第3小隊(A6A1S3)コールサイン”フェニックス”隊隊長、コールサインフェニックス1に任命する。そして、紀乃豊作大尉はコールサイン、フェニックス2としてフェニックス1の指揮下に入れ。3番機は追って知らせる。以上だ。」
俺たちは応接室を出ると、隣に居る紀乃豊作大尉に話しかけた。
「フェニックス2、貴殿の事はどう呼べばいい?」
そう言うと、彼は僅かに困ったような表情を浮かべた。
「敬語は使わなくても十分だ、TACネームを使えば良い。ちなみにだが、僕のはヴェールヌイだ。」
そう言った後、彼はこう言った。「よろしくな、サガミ。いや、隊長。」
俺はそれで気が付いた。彼は数カ月間、共に行動していたプレイヤーだと。
「こちらこそ、ヴェールヌイと再び組めてうれしいよ。よろしく。」
その後は、本部から共に離陸し第6軍基地に帰還。ブリーフィングなどを行った。
なお、彼の使用機種は地球に居た頃と変わらずF4ファントムⅡEJ改だった。
とは言っても、彼の操縦技術は優れた物であるから余り心配はいらない。
基地に戻ってから、フォーメーションなども決めた。
さてそれぞれの個室に戻ろうかと言う時に、伝令の兵士が入ってきた。
「八重島大尉。本部より出撃命令です。第4次揚陸作戦の航空支援に当たれとのことです。ブリーフィングは203504040900より開始です。」
♢
地球換算 2035年4月4日 0900 世界名”キュラーム”第6軍第1航空機格納庫。
俺はヴェールヌイと共に自分の使用機材―YF23グレイゴーストーの点検に来ていた。
とは言っても、せいぜいがエンジン軸の摩耗具合等だったが。
しかし、この機体はかなり無茶な改造が施されている。
コックピット後方は2m延長され、大型のカナード翼(F/A18Eの水平尾翼を流用)が上半角を付けて設置されている。エンジンノズルもラプターと同様に2次元推力偏向式の物に成っていた。
しかも冷却機構をそのままに、である。
そして何より、武装も強力だった。
57㎜単装レールガン1基を機体下部に固定し、主翼付け根付近には高出力レーザー装置が片側1基の計2基が装備されている。
ちなみにだが、レーザー装置はコンフォーマルフューエルタンクも兼ねている。この為、航続距離は僅かながら伸びている。
更に、エンジン部分にも大幅な改良が施されている。
タービンは特殊耐熱セラミックの一体成型で、大幅な軽量化も加えられた代物だった。
機体の塗装も特有の物だった。
機体上面にはF15イーグルのシルエットが砂漠迷彩で描かれているのに対し、下面は制空迷彩で有る。右側面はF16のシルエットがデジタル迷彩で描かれているが、左側面はF4ファントムⅡのシルエットが海洋迷彩で描かれている。
当然、それ以外の部分は制空迷彩だった。
機体を叩き、音でねじの緩みなどを確認する。
機体の整備用パネルを開け、バインダーを片手に各部分を確認していく。
ヒドラジンタンク、潤滑油、ワイヤー、ピトー管、エンジン全体。レーダー、酸素マスク、コックピットタッチパネル。武装パイロン、短距離空対空ミサイル射出用レール。
そこまで点検し終わった時、誰かが俺の肩を叩いた。
振り返ると、そこには鋪野永作―階級は曹長らしい―がいた。
「坊主、俺たちの仕事を奪うな。お前は空を飛ぶことだけを考えろ。良いな?」
俺は反論した。「しかし、整備ぐらい自分でやっておかなければ、いざと言う時に困ります。分かってください。」
そう言って整備を再開する。
全ての項目が終わったのが、丁度2時間後の事だった。
腕時計を見ると、時刻は1100だった。
かなり中途半端な時間だが、1400からは作戦会議が行われる。
大会議室で行われるが、食堂近くにそれが有る為、余り急がなくてもいい。
一旦自室に戻り、機内に持ち込む物を確認する。
コンバットレーションを複数と、着替え、サバイバルキット等を鞄に詰める。それ以外にも複数あるが、名前を上げたらきりが無い。
そうこうしている内に1200に成った。鞄を部屋の隅に置き、筆記用具を持って食堂に向かう。今日の献立はご飯とみそ汁、鯛の一夜干しだった。
かきこむ様に喰い、大会議室に向かう。
ヴェールヌイと共に部屋に入ると、もう既に人が入っていた。
「君か、空いている席に座りなさい。」
そう言ったのは山口司令官だった。その隣には加来艦長もおり、物々しい雰囲気と成っている。
他にも複数人いたが、各艦艇の艦長なのだろう。
だが、3人ほどは他と毛色が違うらしい。
彼らは百戦錬磨の古参兵の様な雰囲気が有った。まるで、この世界の海を知り尽くしている様な雰囲気だった。
何所か近寄りがたい雰囲気を発していたので、―彼らは会議室の前の右端に居たので―俺は左後ろの方に座った。
しかし、彼らは興味が有るらしく、俺に近付いて来た。
「君は、確か八重島鷹空軍大尉だったか?俺は”はるかぜ”艦長の篠原大志だ。隣に居るのは”はるかぜ”の付喪神だ。今回の作戦、よろしく頼む。」
「”はるかぜ”です。あのフェニックス隊と共に任務に就ける事を嬉しく思います。”しらね””わかば”も自己紹介してください。」
「全く、はるかぜは硬いねぇ。私は”しらね”だ。よろしく、少年。」
「元松型駆逐艦の”梨”。現”わかば”です。帝国海軍から受け継がれた唯一の戦闘艦です。よろしくお願いします。」
そう言った後、彼らの艦長らしき人物が二人、歩み出てきた。
「”しらね”艦長の鋪野弘作だ。よろしく。」
「”わかば”艦長、畠山恵一だ。元海上自衛隊一等海佐でもある。よろしく。…久しぶりだな、紀乃。」
「…そうだな。元気にしていたか。」
ヴェールヌイと畠山艦長が話しているが、余り邪魔をするのはよくないと思い、俺は艦長たちの後ろに控えている女性を見る。
彼女らが付喪神とは到底思えなかった。
はるかぜを自称した人物は、日本人らしい黒髪を三つ編みにし、桜の花があしらわれたヘアピンを挿している。
純朴そうな顔立ちは、何所か山村に居る様な雰囲気を醸し出していた。背は150cmほどで、青色の作業服は何所か不釣り合いな物に感じた。
しらねを自称した存在は反対に、快活な印象を受ける。少々癖のある黒髪を短く切っている。首に掛けられた白根葵を模したブローチは、よく磨かれ、鏡の様に光をはじいていた。
わかばと名乗った存在は足が悪いのだろうか、杖を左手で突き、立っている。顔の半分は痛々しい火傷のあとが見られた。恐らくそれは全身に広がっているのだろう。黒髪は余り長くなく、木の葉があしらわれた髪留めを使い、項の辺りで束ねている。
「フェニックス隊隊長の八重島鷹だ。こちらとしても、貴官らと共に任務にあたれる事を誇りに思う。よろしく。…所で、畠山艦長と彼の関係は?教えてくれないか。」
俺はそう返した後、大学ノートを広げた。
「彼とは防衛大学校の同期生だったそうだ。」
そう言ったのは、”わかば”の付喪神だった。彼女はその顔に何所か懐かしむ様な色を浮かべている。
「私たちがこの世界に来たのが丁度17年前。それから、様々な事を話してくれた。その中に、その話が有った。けれど、一つ気に成る事があるの。それは―」
―彼が、航空自衛隊のある事故に関わっていると言う。
俺はその言葉に息をのんだ。
何故なら想像できなかったからだ。何時も冷静で、そして一切のミスが無い彼がである。
しかし、続く言葉で察してしまった。
「彼はそれが切っ掛けで、右足を切断した。それが今から10数年前に起こった、空自戦闘機連続墜落事故。彼は最後の墜落から奇跡的に生還したの。」
そう言った後、”わかば”はこう言った。
「とは言っても、未だに原因は謎のままだけど。」
「総員、傾注!」
わかばに向けられていた意識が、びりびりと響く声により引き上げられる。
「これより、第6次揚陸作戦のブリーフィングを開始する。」
前に居る男性が、よく通る声で言った。階級は少将。
「今回の作戦は、味方陸軍部隊の揚陸及び拠点への進出が目的で有る。この為、航空機による航空支配、及び事前の艦砲射撃による揚陸地点の掃討が重要だ。揚陸地点は北大陸南端の岬の西側にある砂浜だ。」
手元に開いた大学ノートに次々と書き込んでいく。
「作戦第1段階は、航空機を先行させての制空権確保、第2段階が敵性存在の掃討、第3段階が陸軍部隊の揚陸及び拠点への移動だ。
この為、海上艦艇の援護部隊と陸軍部隊の援護部隊の2つに分ける。
前方のホワイトボードに、それぞれの部隊の割り振りを書いている為、各隊の隊長は確りと確認してほしい。また、今回の作戦は比較的天候が安定しているが、何時天候悪化するか分からない。十分注意するように。作戦開始は本日0900よりだ。総員解散。」