昇進と実戦
何とか書けたので、投稿。誤字脱字の可能性あり。
地球換算 2035年3月30日 0700 世界名”キュラーム” 第6軍第1ブリーフィングルーム。
俺は1ヵ月ほど前から飛行訓練に加わった。最初の一週間は基地周辺を低速かつ低空で飛行した。
今日は3時間にも及ぶ飛行訓練が行われる。飛行経路は方位180へ数キロほど移動した後、方位270へ向かい、反転後基地に帰還すると言う予定だった。
しかし、今日は僅かに胸騒ぎがした。
「よし、説明は以上だ。何か質問は。…サガミ、何かあるのか?」
ズニーヤがそう言ってきたが、俺はぶっきらぼうに質問してしまった。
「飛龍と霧島が確認されたのは何年前ですか。」
それに反応したのは、マーグパイだった。
「飛龍が2年前、霧島が1年前だった筈だよ。それがどうかしたの。」
そう言ってきたが、俺は最悪の可能性を口に出してしまった。
「もしかしたら、史実における年代と同期しているのでは無いでしょうか。2年前は1942年、ミッドウェー海戦…」
「いや待て、それだと可笑しくないか。普通に考えればきりが良い数字でタイムスリップするだろう。91年前はどう考えたってきりが悪すぎる。」
そう言ってきたのは3番機のケルトだった。
だが、反論したのは別の部隊の人だった。
「きりが良いとかそういうのは無い。全て神か何かの悪戯だ。」
そう言って入ってきたのは、整備班の班長である鋪野永作―あの時肩を叩いた壮年の男である―だ。
「貴官らには分からないだろうが、俺たちみたいな老骨は色々感じる物が有るからな。おい、八重島少尉。俺は何歳に見える。」
唐突な質問に、俺は戸惑ってしまった。何故この時にその様な事を問うのか。
「60前後ですか。」
反射的に言うと、彼は首を横に振った。
「いや、俺はもう100歳以上だ。それなのに未だに身体は衰えん。この世界に来てからだ。ろくに動かせなかった身体が、この通りだからな。」
そう言った後、後転を1度やって見せた。
その動きは非常に切れが有り、まるでプロアスリートの様な動きだった。
それに絶句するスワロー隊の面子。
俺は腕時計を見る。そこに示されている時刻を、俺は隊長に言った。
フライト開始まで、残り5分。
急いでハンガーに走り、エンジンを始動する。他の隊員も同様にしていた。
♢
そして、時刻は0730。
現在は訓練飛行の真っ最中だ。
使用機種はYF23グレイゴースト。それ以外のメンバーも、それぞれ別々の機体に搭乗している。現在高度1万mを時速1,000km近い速度で巡航中だ。
計器はF35と同じタッチパネル式で、あらゆる情報が一目で分かる様に成っている。
レーダースクリーンには自機と僚機たちの姿が映っていた。
視線を上げ、見回すと、一糸乱れぬ編隊が見えた。俺もそれを構成している一つなのだと思うと、僅かに頬が緩むのを感じた。
その上で、この機体にはある特殊な装備が搭載されていた。
「モルガン。レーダーにバンデッドは?」
そう言うと、無機質な声が聞こえてきた。
「現在、周辺に不明機の反応は無し。機体にも異常は有りません。」
そう声を返したのは、この機体に搭載されている戦術AI―コールサイン”モルガン”である。転移時には、モルガンがスリープモードだった為使用していない。現代の戦場において、AI無しでの戦闘は殆ど行われていない。AIがレーダーやAWACSから送られてきた情報を統合的に判断し、優先目標をパイロットに指示する。そしてパイロットが武器を使用する。
これが、現代戦の基本だった。
何故AIに任せきりにしないのかと言うと、これは過去のある事件に由来する。
モスクワ危機。
これは今から約10年前―2025年―に起こった事件だ。ロシア製AI搭載の自立無人機が暴走を起こし、ロシア国内の諸機関を攻撃した。後の調査でハッキングを受けていたことが明らかに成ったが、人間を介しての武装使用が国際戦時法で規定されたのは昨日の事の様に言われる。
その結果が現代の戦争の形だった。
それは昨今多くのFPSゲームに色濃く反映されている。
俺がやっていた物もその例にもれず、モルガンの様なAIが存在していた。
とは言っても、プレイヤーごとに独自のカスタムがされていあるので、それぞれ戦い方にも違いが出る。
航空目標を重点的に狙う者や、海上目標を狙う者も。
それ以外にも航法等のサポートに使用している物も居る。
俺の場合だと、同部隊所属機との連携を重視していたから、友軍機の位置を逐一知らせていた。しかし、3番機であるヴェールヌイはアナログを好んでいた為、そう言ったシステムは一切使用していなかった。それでも連携が取れていたのだから、アグレッサーの中でも相当な腕前だったのだろう。
♢
俺がそれに気が付いたのは、基地まで残り僅かと言うタイミングだった。
視界の端、それもほんの僅かの変化だった。ごく薄い黒煙が上がっていたのだ。しかもそれは基地のほど近く。
ヘルメットバイザーに拡大映像を投影し、詳しく見る。
僅かに見えたそれは、船のマストの様だった。
「こちらサガミ。ズニーヤ、近くに何かが座礁している様だ。友軍を呼ぶか?」
そう無線に言うと、ズニーヤはこう返した。
『スワロー隊全機。聞いたか。今から各機に指示を出す。マーグパイは俺と共に基地に戻る。ケルトとサガミは黒煙の発生地点に向かえ。何が見えたかは逐一報告しろ。』
そう言った後、無線が切れる。
俺は直ぐに黒煙の見えた方向―方位180へ向かった。
数分後、俺とケルトは驚くべき物を目にする。
「こちらスワロー隊、サガミ。第6軍基地の南方1㎞に工作艦”明石”を視認。繰り返す、第6軍基地の南方1㎞に工作艦”明石”を視認。
大至急応援乞う。大至急応援乞う。」
俺はありのままの光景を無線に向かって話した。
大破着底した船体は、商船の様な構造をしている。しかし、甲板上に並んだクレーンは、この間の特徴を色濃く映していた。
全長160m足らずのこの船には、大和型戦艦と同出力の機関が装備され、”動く海軍工廠”と呼ばれた。そして、米海軍の最重要目標として有名な船。
その船の名は工作艦明石。この船が修理した艦の数300隻以上。
日本海軍の希望だった。
俺は明石を中心に左旋回して、全容を目に焼き付けた。
しかし、丁度周りを1周した時に違和感に気が付いた。
「こちらサガミ、明石に人影見えず。無人状態の模様。繰り返す、明石に人影見えず。」
そう言って更に降下した。甲板を見ても、やはり人影は見えない。
直ぐ近くに平坦な土地は無い為、着陸して艦内に侵入する事は不可能だった。
そして、距離僅か50mまで近付いた時に、漸く応援の艦隊が来た。
『こちらは、第0特務独立艦隊司令官、山口多聞である。工作艦明石の救援に来た。航空隊より、任務の引き継ぎを行う。』
そして、俺たちは基地に戻った。
「さて、帰還後のブリーフィングを始める。」
ズニーヤが口を開き、ブリーフィングが始まった。
「まず、編隊の維持。これは問題無い。」
「数日後、我々はとある作戦に従事する事に成っている。確りと休息をとり、実戦に備えてくれ。解散。」
部屋を出て廊下を歩いていると、前から山口司令官が歩いて来た。
俺は端に寄り、敬礼する。彼は右手を上げ、それを制した。
「君は確か、八重島少尉だったか。」
そう言ってきた山口司令官は、何所か浮ついた様な目で俺の事を見ている。
「明石を見つけてくれて有難う。あの船が有れば、我々はより広い範囲で活動が可能に成る。本当に有難う。」そう言って頭を下げてきた。
俺は慌てて頭を上げる様に言う。
「その様な事は…、当然の事をしたまでです。何か異常が有れば、それの原因を突き止め、上官に報告する。そして上官が適切に対処する。これが当り前だと思いますが。」
「それが実行できるだけでも、素晴らしい事だ。我々帝国海軍はその様な初歩的な事も忘れてしまった。だからミッドウェーの惨敗が起こったのだ。」
その後は色々話した後、食堂に向かった。
「あっ山口司令、総帥から支援要請です。」
行きがけに伝令の兵士が山口司令に紙を渡した。
大きさははがき程度で、中に書かれている字は急いで書いた事が一目で分かった。しかし、はっきりと見えなかった。
「…、成るほど。今回も揚陸支援か。」
今回も、と言う事は過去に複数実施されているのだろうか。
それが口から出ていたようで、山口司令は答えてくれた。
「今回の作戦は定期的に実施されている。目的は揚陸地点の安全確保。揚陸される部隊は有馬直大尉率いる第1大隊だ。現地に送られる部隊はたったそれだけだが、定期的に部隊を交代し、現地の情報収集に努めている。まあ、有馬大尉の部隊は根拠地隊として活動しているがな。」
今後、二つか三つに分割するかもしれない。
20221213 本文修正 3つに分割