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合流

何とか書けました。

2022年6月4日 修正

2022年7月10日 明石がいない為、修正。

同年1月5日 0025 空母飛龍艦内


俺は飛龍に帰還した後、直ぐに艦内の小部屋に案内された

 しかも、艦舷―左舷だった―に位置している為か外が見える。

 丸窓から見える月は、赤黒く染まっていた。

1分ほど外を眺めていると、海面に違和感を覚えた。

目を凝らして見ると、一部だけ色が異なっている。

周りの色は黒に近いのに、紅く染まっている箇所があるのだ。

 それが徐々に近付いている。

俺は、嫌な空気を感じた。まるで、じっとりと粘りつく様な。

『対潜戦闘よーい!繰り返す、これは訓練では無い!繰り返す!これは訓練では無い!対潜戦闘よーい!』

それを裏付けるかのように、艦内放送が鳴った。

 だが、彼らはプロだった。

“霧島”艦舷からアスロックが発射された。

それが次々敵潜水目標に命中していく。

 10分後、『対潜戦闘終了、用具おさめ。』

この放送により、艦隊の脅威は消失した事が分かった。

 だが、未だに嫌な空気はある。

海面に再び目を向ける。

一部が凪の様に波が無い。

それは飛龍と並走しているかのようだった。

 そして、その凪を突き破り出てきたのは島の様な何かだ。

 距離は約1㎞しか離れていない。

それでも、まるで100m先に居るかの様に見えてしまう。それの原因はその巨大さ故だろうか。

海面から出てきたのは、巨大な龍だ。

外見はモササウルスに酷似しているが、大きさが段違いである。更に、体表には何か光る鉱石の様な物が複数付いていた。

『対水上戦闘よーい!繰り返す、これは訓練では無い!繰り返す、これは訓練では無い!対水上戦闘よーい!』

 同日 0030 飛龍 CIC

 「本艦から発艦可能な機体は?」

加来艦長が航空隊隊長にそう問いかけている。

現在、本艦より方位0-0-0に出現した超巨大生物の対応に追われている。

「艦長。現在、発艦可能な機体は流星5機、天山7機、紫電改10機、彗星9機です。しかし、夜間戦闘が可能なのは彗星のみ。この為、実質9機です。」

 通信手が旗艦“霧島”からの無線を復唱した。

「“霧島”より入電。砲撃による撃退を行う。空母等は至急退避されたし。以上です。」

「聞こえたな!総員何かにつかまれ!面舵一杯!」

「面舵一杯よーそろー!」

艦が傾斜し、方位1-8-0へ回頭する。

満載排水量1,7000t以上にもなる巨体は、その重鈍そうな外観に見合わず機敏に動いた。

 やはり、改修を受けてから舵の効きが変わった。

加来艦長は一人考える。

この艦も“霧島”と同様の改修を受けていた。

その為か、より多くの艦載機を搭載できるようになった。

艦橋の位置も、右舷に移されている。

 加来艦長は航海様用艦橋へと向かった。

後方に見えるそれを見る為に。

 俺は雲を見た。

黒いそれらは段々とこちらに近づいている。

月が完全に隠れた時、暗闇が海上を支配した。

海上の波は約3m程度だろう。かなり荒れている。

文字通りの大しけだ。

巨大生物は見えないが、恐らく“霧島”の発砲光が時折見える。

撃退を図っているのだろう。

 そんな事を考えていると、艦に衝撃が走った。

通路からは人が駆ける足音が騒々しく響いている。

「現在、本艦飛行甲板に大型翼竜を確認!艦橋に攻撃しています!」

その直後、件の翼竜らしき鳴き声が聞こえた。

「艦長は!」

「なんとか脱出に成功したようです!艦橋要員は全員無事です!」

ガンガンと飛行甲板から大きな音が聞こえてくる。

そんな中、ひと際大きな音が艦後部から聞こえてきた。

「艦後部に岩が直撃!機関室浸水!現在隔壁封鎖を実施!しかし、舵を破壊されました!このままでは転進する事が出来ません!」

確か基地は極東の赤道地域にあった筈だ。現在、艦進行方向は南。つまり、このままではたどり着けない。

 岩は恐らく霧島が攻撃している巨大生物から放たれた物だろう。

「おい、一つ提案がある。」

俺はガンと扉を叩いた後、そう言った。

「君はそこでじっとして居ろ!」

加来艦長の声が聞こえたが、無視して言葉を続ける。

「左舷にパラシュートを20個沈めろ。勿論確りと固定した上でだ。設置場所は艦橋と同じ艦中央部だ。そうすれば、回頭する筈だ。工作艦はこの艦隊に配備されていないだろう。それで有れば、やってみる価値はある。」

 艦長たちは考え込んでいる様だったが、ある下士官の言葉で断念した。

「しかし、飛行甲板上にいる翼竜は如何します?あれに艦内に装備してある小銃は効きませんよ。それに、左舷の外に出ると間違いなく奴に食われます。」

 ふと俺はある事を聞いた。

「艦載機の予備部品はどの位有る?」

返事は大量に有るとの事。

機銃は20㎜が銃身含め100以上。弾薬類も2000程度はあると言う。

「まさかとは思うが…。」

加来艦長の声が震えているのは、気のせいではないだろう。

「艦長、その予備部品。幾つか貰っても良いか。」

同日 0040 飛龍格納庫

 俺は台車と予備の20㎜機銃の砲身を使い、ある物を製作していた。

「サガミ少尉。これであの翼竜の頭を抜くのですか?」

勢野兵曹がそう問いかけてきたので、肯定する。

作っているのは、銃で有った。

 だが、それを銃と呼ぶには余りにも大きく、重すぎた。

 台車に固定された銃身の口径は20㎜。

明らかに対人戦闘に使うべきではない。

だが、今回の目標は人では無いのだ。

遠慮はいらない。

 5人がかりで持ち上げ、艦橋に向かう為の階段を上る。

 …、見つけた。

そいつは飛行甲板の艦首側に居た。

艦橋があった場所から音を立てずに這いだし、台車を飛行甲板に置き、スコープを調整。

船体が水平に成った刹那、引き金を引いた。

 もたらされた結果は、頭と胴の泣き別れ。

赤い血が飛行甲板を流れる。

 艦首が沈みこんだ時、翼竜の死体は海に落ちた。

「サガミ少尉。パラシュートを艦舷から下ろしましょう。」

勢野兵曹がこう言ったので、直ぐに左舷に向かう。

 左舷外部通路に着くと、そこには20個のパラシュートが置かれていた。

「取り敢えず、パラシュートを固定するぞ。ここに結び付けても大丈夫か?」

10分後、パラシュートの固定を終えた。

「斧は持ったな。足元安全だな?」

艦舷通路の手すりには、パラシュートが結び付けられている。パラシュートと手すりを繋いでいるのは、太さ250㎜のロープだ。

そして、皆で息を合わせて海に落とした。

 「艦内に退避!」

手早く艦内に入り、隔壁を閉じる。

 この時、全てのパラシュートが海面に到達していた。

そして、徐々にではあるものの回頭を始めた。

「なんとか成りましたね…。」

勢野兵曹がほっとした表情で、そう言った。

 進行方向が方位0-3-4に成った時、再び艦外通路に出る。斧を持ってだ。

 そして、パラシュートと艦を繋いでいるロープを切った。その後、艦内に戻る。

回頭を止め、前進する”飛龍”。

向かう場所は本部である。

 しかし、どうやら無茶をしすぎたらしい。

きーん、と耳鳴りがしたかと思うと、そのまま視界は黒くなった。

 気が付くと、ベッドに寝転んでいた。

腕には点滴の針が刺さっており、かなり長い時間寝ていた事が分かる。

その様子を見ていたのか、白衣を着た壮年の男が視界に映り込んだ。

「気が付いたかね。」

彼はそう言った後、質問をした。

「君の所属、及び階級を言いなさい。」

 その質問に、未だに痛む頭を押さえながら答える。

「八重島鷹、階級は少尉。ソオコル・ラリエリ第6軍第1飛行隊第1小隊、コールサイン”スワロー”所属です。」

軍医は次に、俺の状態を教えてくれた。

「君はまあ、そのあれだ。寝不足だから、確り寝れば問題ない。あと、加来艦長から言伝を預かっている。

『無理はするな。』以上だ。」

そう言って、軍医は病室から出た。

出て行った後、壁の時計を見る。

時刻は1500だった。

そして、カレンダー見た時に気絶した。

 日付が1月7日だったからだ。

俺がこの世界に来た日が1月5日である為、48時間以上は眠っていた事に成る。

だが、俺は知らなかった。

もう既に本部基地に着いている事を。

 制式着任 

同年1月8日 0900本部執務室 

 俺―八重島鷹―は本部執務室前に居た。立っている廊下は隅々まで掃除が行き届いており、天井の照明の光を反射している。

あの後、俺はここ本部執務室に向かう様命令された。

そこにここ“ソオコル・ラリエリ”の最高指揮官が居るらしい。この為、下手な格好は出来ない。

だから、用意された制服に着替えた。

一度深呼吸をし、ノックをする。

「失礼します。八重島鷹少尉、入ります。」

 扉を開け、入る。

正面のデスクには、一人の青年が書類を捌いていた。

数分ほど入ってすぐの所で固まっていると、ふと目があった。

「…ああ、すまない。君が2日前に制式に着任した、八重島少尉か。ソオコル・ラリエリにようこそ。私がここの総帥を務めている有馬永作だ。隊員を代表して歓迎しよう。よろしく。」

彼はそう言って、俺の前に来た。

手を差し出してきたので、握る。

 その後、俺は空軍基地に移動した。

そして、第6軍航空隊基地に向う様指示された。

使用機材はYF23だ。とは言っても、殆ど原形をとどめていない。

まず、コックピット後方が2mほど延長され、大型カナード翼(F/A18の水平尾翼)が7度の上半角が付けられ装備されている。それに伴いウェポンベイも大型化されおり、武装搭載量も増加した。

エンジン部分もある程度改良されており、一体成型高耐熱低摩耗特殊セラミックでタービンが出来ている。この事により、エンジン推力が7%ほど向上した。

飛龍から下ろした後、整備されたのだろうか。

機体は新品同然だった。

コックピットに入り、APUを起動。

 数分後、左エンジンを起動させる。

続けて右エンジンも起動。

回転数が安定してからAPUを切る。

武装は最低限だった。

サイドワインダー2発。

25㎜バルカン砲装弾数2000発。

 [こちら管制塔。スワロー4へ、離陸を許可する。滑走路A1へタキシングせよ。]

〈こちらサガミ、了解。誘導に感謝する。〉

無線機に言った後、スロットルレバーを押しこみ出力を上げる。管制官の声は、随分懐かしい物だった。彼がいつも航空管制を行っていたのだから。

 そして、滑走路の端に着いた。停止する。

[スワロー4、離陸を許可する。幸運を祈る。]

フルスロットル。エンジン推力を最大にし、離陸。

ぐんぐんと速度を上げ、滑走する機体。

滑走路から浮いた途端、ギアを仕舞い45度以上の角度で上昇。

俗に言うハイレート・クライムである。一気に上昇していく。足が飛行服によりきつく締まって行き、視界は黒く成って行く。

だが、この感覚を楽しんでいる自分が居た。

今はもう叶わない夢。

それは、白波瀬文と共に実際の空を駆ける事だった。

高度700mを超えた辺りで、管制官の無線が耳に入る。

[スワロー4、貴機は向かえ角を大きくしすぎている。直ぐに水平飛行に移行せよ。]

 操縦桿を前に倒し、機首を下げる。

水平儀を確認。0度に姿勢を調整。

方位2-2-0へ機首を向けた。

 広域レーダーには何も映っていない。

たった1人の、孤独な飛行だ。雲は一切ない。

だが、不思議と不安は無かった。

まるで、この空を知り尽くしているかのように。

 10分後、それらがレーダー上に現れた。

IFF応答あり。味方。

機種はそろっていない。

Su47“ベールクト”を先頭に、F15E“イーグル”と“ラファール”が続く。

それぞれ世代が違う機種だったが、まるで同一機種であるかの様に一切編隊を乱さずに飛行している。

 [こちらはソオコル・ラリエリ第6軍第1飛行隊第1小隊”スワロー”である。貴官の所属を答えよ。]

無線から聞こえて来た声は、俺がよく知る人物の物だった。

〈こちらは1月5日付で貴官らの指揮下に入った八重島鷹少尉だ。歓迎に感謝する。〉

俺は無線にこう言った後、前方から接近する編隊―スワロー隊―を見た。

 すれ違った後、彼らは反転した。

そして、俺の周りを取り囲むように飛行を開始した。

 更に20分後、漸く島が見えてきた。かなりの大きさだが、滑走路が見えない。

有るのは断崖と平地、そして森林のみだった。

ぐるりと島の南側に回り込み、高度を下げる。

やはり滑走路は見えない。

 しかし、断崖の一部が割れたのである。

そこの奥はトンネルだったが、なんとその中に滑走路が見えた。

しかもかなり大きい。恐らくAn225も余裕で離着陸可能な大きさだった。

 [こちら管制塔。スワロー隊の着陸を許可します。]

俺は彼らに着いて行くしかなかった。

 その後、無事にタッチダウンに成功した。

誘導路を走り、機体をハンガーに入れた。

エンジンを切り、キャノピーを開く。

 シートベルトを外し、梯子を使って機体から降りる。

腕時計を確認。時刻は1200だった。

 コンクリート打ちの地面に足を付ける。

そして、クラッカーの派手な破裂音が、鼓膜を支配した。

「八重島少尉!着任おめでとうございます!」

そう言ってきたのは、金髪蒼眼の女性だった。

確りと野戦服を着こんでいるその人物は、花が咲いた様な笑顔でこちらを見ていた。

後ろにずらりと並んでいる隊員たちは苦笑している。

「サガミ、まあ気にするな。彼女―エレン少尉は新入りに対しては何時もあの様な事をする。」

そう言って肩に手を置いて来たのは、スワロー隊の“ベールクト”に搭乗していたパイロットだった。

 彼の事を俺は知っている。

白波瀬圭一。それが彼の名だ。白波瀬文の兄でもある。

“妹にもう二度と構うな。”

“あの、貴方は…?”

“俺は文の兄だ。あいつはろくでなしだからな。貴様の脳みそも腐るぞ。”

“いえ、彼女は努力家です。寝る間も惜しんで本を読み見聞を広め、手が痛むのを我慢し筆を取り続ける。そして、暇さえあれば走り込みを行い体力の増強に努める。…これのどこがろくでなしなのです?”

“貴様…!”

これが彼との初対面で交わした言葉だ。

お互いに最悪なファースト・コンタクトで有ったが、その後の関係は改善したと明記しておく。

“八重島鷹…君にしか頼めない事がある。”

“はあ、何でしょうか。”

“妹―文の事、頼んだよ。俺は、実の妹も守れなかった不甲斐無い男だ。だから、君に託す。”

“…分かりました。ですが、僕以上の適任者が居る筈です。その人が見つかったら、僕はその人に託します。”

“君にしかできないと思うのだが。”

“僕には出来ませんよ。その様な事は。”

今から3カ月ほど前の会話を思い出した。

彼のその時の表情は、穏やかな物だった。

 しかし、数日後に彼女は死んだ。

表向きは自殺とされたが、実際には他殺だった。

あの日以来、一人称が俺に変わった。その日からずっと引き摺ったままだ、彼女を守れなかった事を。

 この世界に来てからも変わらないだろう。

やはり、俺は弱い人間だ。こうして新天地に来ても、過去を引き摺り続ける。

 自己嫌悪に陥っていると、肩を叩かれた。

「若造がそんな顔をするな。もっと笑って、明るい雰囲気でいろ。」

肩を叩いた主は、自分よりも背が低かった。恐らく160ぐらいだろう。

男性で、浅黒く成った肌の奥に灯る眼光は異様に鋭い。

年齢はもう60を超えているのだろうか。その雰囲気は歴戦の戦士の様だった。

「それに、新入りがそんなんじゃなあ。皆、何んとも言えないだろう。なあ、皆。こいつはこんな顔してなかったろ。」

そう言った後彼は、ぐるりと周りを見渡した。

「こいつは太陽の様に笑う奴だ。これがこんな形じゃ遺憾の意である。」

笑いを堪える声が、所々からあがる。

遺憾の意。

 それは日本政府が使ってきた常套文句。

誰が言い始めたか分からないが“遺憾砲”などと一部界隈では言われている。

 俺も笑いを堪えているが、直ぐに分かったらしい。

「こいつは、どうやら笑いのつぼが爺らしい。」

今度ははっきりと笑い声が聞こえた。

 げらげらと腹を抱えて笑う者も居る。

俺の笑いのつぼが余程可笑しかったらしい。

…確かに爺臭いとは薄々感じていたが、まさかそれがはっきりと証明されるとは思わなかった。

 しかも異世界の軍事基地である。

しかし、不思議と笑みがこぼれた。

何故か分からないが、面白い。

以前の様な明るさ等、戻らないかもしれない。

だが、それでも良い。

ここは、俺が本来居るべき場所だと思った。

 その後、俺は寮の一室に案内された。

そこに荷物を置き、ベッドに横に成る。

 一瞬にして意識は落ちてしまった。

目を覚ました時、時刻は1800だった。

急いで着替え、食堂に向かう。

「よーし、それじゃあ新入生歓迎会を始めます。乾杯ー!」

そう言ったのは、あの野戦服を着た女性だった。

そして、本格的に始まった歓迎会。

俺は中央の席に座らされた。

「よーし。それじゃあ、それぞれの部隊が出し物をするぞ。記念すべき始めの一つは、補給部隊“テルター”によるドラム演奏です!」

始まった演奏は、何所か激しい。

しかし、不思議と冷徹に成れる音色だった。

 演奏している曲も、それに合っていた。

どうやら3曲演奏するらしい。次々と曲調が変わる。

 次は、どうやらオーケストラ演奏の様だった。

「次は、華の戦隊“第57艦隊”所属の巡洋艦“まや”の機関室付き人員による。○○○○(好きな曲名を入れてください。筆者が本来書こうとしていた曲名は、後書きに書きます。) の演奏です!」

始まった演奏は、圧倒される物だった。

 背後にスクリーンがあり、そこに映っているのはあるアニメの映像だった。

どうやらフルで演奏されるらしい。

 4分半が過ぎた頃、演奏は終わった。

余韻に浸る人々。俺もその一人だった。

 とんとん、と肩を叩かれた。

その主は所属している隊の、隊長―白波瀬圭一―だった。

「楽しんでいるか?サガミ。」

 なお、彼は酒に呑まれていた。

真っ赤に成った顔に、酒臭い息を吐いている。

他のメンバーも同様だった。

その後、全員が酔いつぶれるまで宴会は続いた。

 見える景色に、感嘆する。

ここは食堂にあるバルコニーだ。

海と山が織りなす景色は、昔見た和歌山の加太と遜色ない。

 あの時も同じ様に、このような時間帯だったか。

たしか、自転車で約12時間かけて走った。

夏の日差しが肌を焦がし、体力がどんどん失われてゆく。しかし、辿り着いた時に見えた景色は絶景だった。

夕日に照らされた砲台跡、海と山の緑が織りなす景色。

過去と現在を繋ぐかのように現れた、雲の隙間から差し込む光が美しく見えた。

 それとは違うが、月光に照らされた景色は言葉だけでは説明できない美しさがあった。

「坊主、ここに居たか。」

そう言ってきたのは、あの壮年の男だった。

夜風に当りに来たのだろう、半袖の白いシャツを着ている。片手には麦茶が入ったペットボトルが1本有った。

「こんばんは。俺もちょっと夜風に当りたくてですね。」

そう言うと、彼は微笑んだ。

「そうか、やはりお前さんもか。」

 そう言った後、俺の隣に座る。

「名前は…確か八重島だったか?」

そう言った後、彼は言葉を続ける。

「過去に何があったかは、あいつから聞いている。」

俺はその発言に身構えた。

「そう構えるな。でだ、1つお前にある事を教えよう。」

彼は俺の目を見据え、言った。

「転生者、転移者総合特殊ネットワーク。これを使えば、人を探す事等容易だ。原則として、この統合ネットワーク―通称“ネット掲示板”には死亡、失踪した人物しか書き込めない。この“掲示板”には特定の人物を識別するためにIDやらが個別で割り振られている。」

彼は言葉を続けた。

「お前も使える筈だぞ。この世界に転移してきたのだから。」

 同日2000 第6軍 5番寮 220号室

俺は瞼を閉じ、彼―鋪野永作曰く、転生者には2つ、能力が授けられているらしい。1つは、転生者同士をつなぐネット掲示板の様な物。そしてもう1つが転生者の願った能力だ。

だが、俺はどうもそのネット掲示板の様な能力を使う気にはなれなかった。

 取り留めのないことを考えている内に、意識は落ちた様だ。

 そして、部屋に備え付けられたスピーカーから、起床ラッパの音が鳴る。反射的に飛び起き、時計を見た。 

0530。総員起こしの時間だった。

手早く飛行服に着替え、グラウンドへ向かった。

 「これより朝礼を始める。」

全員が集合した後、朝礼が始まった。

点呼を取り、服装を点検。

 「八重島少尉…。目の輝きが足りない!やり直し!」

僕の番に成り、上官の前に立った直後に言われたのがこれである。

 (目の輝きって、増せる物だったか…?)

疑問に思ったが、自室に戻って何とかしようと思った。

 「うーん。如何すれば。」

俺は悩んでいた。目の輝きと言われても、如何すればいいのか。

まず、彼女に聞いてみるしかない。

やってきたのは車庫。ここに目的の人物が居る筈だ。

「スワロー隊のサガミ少尉です。ここにエレン少尉はいらっしゃいますか。」

 目的の人物―エレン少尉は直ぐに出てきた。

「はいはーい、なんですかーってええ?!新入りちゃん!どうしたの?」

そう言って出てきた彼女は、始めて見た時と同じように野戦服を着こんでいた。

 エレン少尉の顔は驚愕一色に染まっていた。

そこまで驚く事なのかと思っていると、彼女は急に噴き出した。そして腹を抱えたのである。

肩が小刻みに揺れているのをみて、近付く。

しかし、聞こえてきたのは噛み殺した笑い声だった。

 俺は当然怒った。

「失礼な人ですね。顔を合わせた後に噴き出すとか。」

しかし、彼女は俺の様子等意も解さずに話す。

「私の…兄を見ている様で面白くて…っ。ダメッ…!」

そう言った後、床に崩れ落ちた。

 そのまま腹を抱えて笑い転げる少尉。

俺はその様子を軽蔑の眼差しで見ていた。

その様子を見ていたのか、一人の男性が近づいて来た。

 「君たちそこで何をしているのかね。」

そう声を駆けてきた人物の肩にある階級章は、大佐だった。俺は大佐に説明した。

「大佐。俺がエレン少尉に目の輝きを増す方法を教えろと言ったら、ああなりました。」

 大佐は一度目を瞑り、考えた後言った。

「サガミ少尉。君は人を間違えたみたいだ。坂木特務中尉を頼りなさい。彼女なら何とかしてくれる、たしか医務室に居る筈だ。エレン少尉は任せろ。」

 彼はそう言った後、エレン少尉の元に行った。

俺は車庫の近くにある建物に入る。

後ろから、エレン少尉らしき人物の叫び声が上がった。だが、気にしてはならないのだろう。

 建物に入ると、中は意外と広く、閉塞感は無い。

大佐に勧められた人物―坂木特務中尉―は直ぐに見つかった。肩に掛る黒髪を項の辺りから三つ編みにし、前髪を七三に振り分けている。雰囲気は何所か脆く朧だった。

「あの、すみません。貴方が坂木特務中尉ですか。」

俺がそう後ろから声を掛けると、彼女は振り向いた後俺を睨みつけた。その顔には激しい嫌悪の色があった。

普段は穏やか光りを湛えているだろう鳶色の瞳も、赫怒の色に染まっていた。

「君、私は軍属の人間ではない。ただのしが無い精神科医だ。今度から特務中尉と呼ぶな。いいな。」

そう言った後、白衣を翻し歩き出す。

俺は坂木医師の後を追った。

俺は特務中尉とは呼ばず、先生と呼ぶことにした。

「あの、先生。目の輝きを増す方法を教えてください。」

そう言って後ろを歩く。しかし、歩みを止めなかった。

 その後ろ姿はまるで、鳥籠に囚われたままの鳥の様だった。過去のトラウマに恐怖し続ける幼子の様に。

 それがふと自分と重なって見えた。

過去に囚われたままの自分。恐らく彼女も何か有ったのだろう。

しかし、それを切り出す勇気は無かった。

俺は彼女自身では無いし、それに不用意に聞く事は決してしてはならないからだ。

考えながら歩いていると、前を歩いていた彼女の背にぶつかった。

いつの間にか俯いていたらしく、顔を上げる。

 先生は俺の瞳を覗き込みながら言った。

「君は本当にしつこいね。そんなだったら嫌われるよ。」

その精悍な顔には呆れの感情があった。

「なんでもしますから、目の輝きを増す方法を教えてください。」

俺はそう言った後、頭を下げた。

先生は頭を押さえながら言った。

「君の目は死んでないよ。むしろ生きが好過ぎる位だから、これ以上は止めた方がいい。」

俺は間抜け面を晒し、固まった。いやいや、目の輝きが一切ないから聞いたのにそれは無い。そう思っている隙に先生は走って何所かに行ってしまった。

 後にこの様子を見ていた兵士が言うには“先生の速さ、隼の如し。”

伏せ字の部分に入れようとしていた曲名は”名前の無い怪物”です。

入力しようと思いましたが、流石に問題がある為このような形式とさせていただきました。

次回の更新日は未定ですが、なるべく早く投稿できるようにします。


20220430 添加

20221001 添加

20221119 削

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