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1月30日の地球

本編に後々関係してくる話です。ですが、読み飛ばしてもらっても構いません。

 同年1月30日 地球 日本国 奈良県 佐野探偵事務所

 奈良県内の、特に金魚で有名な地域に在る廃小学校。

ここはそれを事務所として改築した物だ。元々職員室だった場所は、大きな会議室に成っていた。

 俺は会議室の椅子に座っていた。出されたココアは、泥水を啜る様に感じる。

「皆、集まってくれて何よりだ。まず緊急報告から。田中、説明頼む。」

俺、田中弘治は所長の佐川涼子に言われ、手元の紙を読み上げる。

「1月4日朝、八重島鷹が忽然と消えた。俺が居てもこれだと、もう止められない。」

あちこちからため息が漏れる。

「やはり、”神”が背後に居る。恐らくだが、リスク分散の為だろう。」

そう言ったのは、元人間、現半人半烏天狗の有馬忠義だった。

彼はくちばしを烏の足の様に成った手で掻きながら言う。

「やっぱり、あの時にこっちに戻って正解だった。御蔭で”交流掲示板”を使える。今から色々調べる。結果は直ぐに言うよ。」

そう言いながら、虚空に目を走らせる有馬。

 情報は有馬に任せ、対策を話し合うべきだろう。

「で、今回集めたのはどう言う意図が有る。所長。」

俺はそう言って、所長に問い掛ける。所長は頭をガシガシと掻きながら言った。

「妹の京子から電話が有った。立野高校近くにある立野ダムはもう限界を迎えている。

”門”も破綻しかけている。このままでは非常に危険だ。

だから、近いうちに有馬と龍田を向かわせる。」

「それは本当ですか、所長。」

「ちょっと、押さえて。」

そう言ったのは有馬と龍田七海だった。

彼らの母校は県立立野高等学校。つまり、所長が言った場所である。

「俺が代わりに行ってもいいぞ。若い奴が命を散らす事は、あの大戦だけでいい。

祖父さんたちの死が、無駄では無かったと思う。だがな、それでも若い奴には生きてほしい。

 過去の栄光にばかり縋り、慢心と傲慢に塗れ堕落した大人が、そういう役をするべきだ。それが今回は俺で有るだけだ。君たちの様な若者の命が奪われるぐらいなら、俺が代わりになってやる。」

自然とその言葉が出てきたが、あの2人は自分の後輩たちの為であれば何でもするだろう。

 それが例え、死と引き換えの物で有ったとしても。

 「何2人だけで行かそうと言う話に成っている。2人忘れてないか、所長。」

後ろから声が掛る。声色はまだ若いが、老練の雰囲気を感じさせる物だった。

「東雲、お前達まで何故。」

俺は東雲兄妹の姿を見た。兄、貞明は続けて言う。

「俺だって、あの場所で学んだからな。2人だけに任せるのは、如何かと思うがな。」

「私だってやればできます。兄さんが行くのなら、付いて行きます。」

妹、洋子ははっきりとした意志を持って決意を言った。

 「全く、世話の掛る弟子たちだ。私だって老骨だからね、今世最後の大仕事に行くとするか。コウジ。後は頼んだ。君が居なくなれば、この世界は核の炎に包まれる。」

そう言ったのは、イリーナ・アーゼンバークだった。

彼女は俺の肩に手を置き、静かに語った。

「私は、禁忌を犯した人間だ。そういうのには、罰が必要なのさ。私はそれを受けずにのうのうと300年以上も生き続けた。…年貢の納め時と言うやつだ。貴方に出会えて、本当に良かった。」

 「…分かった。君たちに指示を出す。有馬忠義。龍田七海。東雲貞明。東雲洋子。

イリーナ・アーゼンバーク。以上5名に、立野ダム調査を実行してほしい。報酬は100万からでどうだ?」

「おお、太っ腹だな所長。これ終わったら、飲み会だな。」

「伊14も呼んで大丈夫か?」

「それよりも、まず調査から始めないとダメだろ。話はそこからだ。」

「私は車を出す、君達は座席でゆっくりしておいてくれ。」

「あ、言い忘れた事が有った。八重島鷹は無事だよ。向うでも元気溌剌らしい。」

彼らは笑いながら話をしていた。生還の望みなどゼロに等しいと言うのに。

 「田中、これを。家に帰ってから見てくれ。」

俺がぼんやりと目の前の光景を見ていると、所長が茶封筒を渡してきた。

その中身は重要な書類なのだろう、極秘と赤字で書かれている。

「君に対して、個別で指示を出す。それを見た時から、行動を始めてほしい。

見た後は燃やせ。千山機関が動き出した。」

 俺はため息を吐いた。

「全く、あいつ等はゴキブリか。潰しても直ぐに湧く。」

「愚痴を言うな。君は今すぐ家に帰って欲しい。今こうしている間に健夫君が蒸発する恐れもある。」

「千山機関をつぶすにしても、あいつから託されたのを放っておく訳いには行かん。貴様が面倒を見ろ。」

「分かっている。」

 面倒な事になった。

千山機関、それは禁忌研究を主体とした闇組織。出現時期不明、規模不詳。

分かっている事は、魔術を用いた非道の行いを繰り返す邪悪な存在である事のみだった。

俺が10代の時から潰してきたこの組織は、数年も復活している。

5年前に一掃したと言うのに、復活しているとは思わなかった。

「おい、有馬。お前にこれを託す。」

俺はそう言って、今まさに車に乗り込もうとしている有馬に言った。

白い巾着袋を押しつけるように渡し、縋る様に言った。

中身は日本刀の欠片だ。

俺には到底扱いきれないそれは、有馬の手に渡った途端、威圧感が薄れた。

「お前にしか、託せない物だ。…頼んだ。」

「おう、承った。…またここで会おう。」

拳を突き合わせ、離れた。ドアが閉まり、動き出す。

「…本当に渡してよかったのか。田中。」

「ああ、あれは俺に扱いきれない。あいつであれば上手くやれる。」

自分の車に向かって歩く。

「田中君、頼んだよ。」

所長の声に、俺は答えられなかった。

 ドアを閉じ、キーを回す。エンジンが掛った後、自宅に向けて走り出した。

(取り敢えず、仕事着に着替えてからだな。後は鞄と…妻に電話だな。)

ハンドルを握り、考え続けた。

 自宅に帰れたのが、翌日の昼ごろの事だった。

「ただいまー。」ぐったりとした声を出し、玄関に上がる。

ぱたぱたとスリッパが床を叩く音が、段々とこちらに近づいて来た。

直ぐ近くでその音が止まり、声を掛けてきた。

「おかえりなさい。ご飯にする?」

「ご飯。」

間髪入れず答えると、田中与那たなかよな(旧姓、阿賀野)は不満げに頬を膨らませた。

改めて妻の方を見る。青銅の様な色合いの瞳と赤みがかった黒髪は、不思議と調和がとれていた。ぼんやりと眼を見つめていると、急に赤くなってそっぽを向いた。

「あんまりじろじろ見ないでよ、恥ずかしい。」

 玄関から移動し、荷物を置き、諸々の身だしなみを整えて食卓に着く。

昼食は麦飯と鯛の一夜干し、豆腐とわかめの味噌汁、青菜の煮びたしだった。

 食事が終わりほうじ茶を飲んでいると、質問が飛んできた。

「貴方が留守中に、狸の妖怪”佐川京子”が八重島達を連れていったけど大丈夫?」

「大丈夫だ、知り合いだからな。」

そう言うと、妻はふーんと言って言葉を続けた。

「まさか、また仕事が入ったとか言わないよね。」

「…すまん。また厄介なのが入った。」

妻は、手に持っていた湯呑を取り落とした。

「本当なの、それ。」

「本当だ。これが命令書。」

俺はそう言って、机の上に渡された茶封筒を置いた。

ペーパーナイフを使い、封を切る。

”発、佐野探偵事務所 宛、田中弘治

20350207より、千山機関を全滅せしめよ。今回は5人の協力者を呼んだ。

集合は203502040900関西国際空港東側バス停”

 「またか。」

「そうらしいな。確か、お前も実験の被害者だったよな。」

「ああ、健全な体に作り変えてくれた事は感謝している。だが、流石にこれだけは認められなかった。」

そう言った後に、彼女は自分の体を確かめる様に触った。

 彼女、いや元は”彼”だったこの人物と出会ったのは数十年ほど前に成る。

雪の降りしきる深夜、顔を隠す様にガーゼを巻いた状態で散歩していた時に出会ったのだ。

電柱に背を預け、がたがたと身体を震わせていた所を見つけた。

詳しく話を聞いた後、国内に在った千山機関の施設を壊して回った。

 「さて、今回は私も同行するよ。いい加減、じかに文句を言いたくなったからね。」

唐突にそう言った与那は、俺と目を合わせてきた。駄目だ、と言おうと思った。

だが、彼女の目が据わっているので、何を言っても無駄だと諦めた。

「頼むから押さえてくれよ。後始末が大変だから。」

「いいえ、私を怒らせた連中が悪いのよ。」

 その様な会話をした数時間後、俺たちはとある人物に電話を掛けた。


日本が異世界と融合するまで、後1年と半年ほどの事だった。

20230716 編集 登場人物の名称変更

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