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日常へ そしてその後 エピローグ

西暦2036年4月10日 0800 奈良県立野高等学校

 あの後、俺たちは無事に日本国に到着。それぞれ、違う道を歩み始めた。

紀乃豊作とアサギリ(柿沢政教)は舞鶴でパン屋を経営。

有馬直はある企業に就職後、俺を含めた元メンバーと共に、慰霊碑を立てるなどの活動を行っている。

坂木医師は、兵庫県の県立病院に就職。最近は男性の看護師といい雰囲気になっているそうだ。

 総帥は未だに戻っていないが、あの人はうまくやっているはずだ。

他にも、まだ若い人たちの中には、学生として再入学するものもいれば、漁師などに転ずる者もいた。北海道で猟銃を持つ者もいる。

 そんな中、俺は高校への再入学の道をとった。俺の列機でもあった、白波瀬文も同じ道を歩んだ。

 そして、今日。

 俺と白波瀬は、奈良県立立野高等学校入学式に参加していた。

生徒一人一人の名前が読み上げられていく。その中には、気になる名前もあった。

「東雲平蔵」「赤坂修子」「井狩平蔵」「剣田虎徹」「佐川良治」「江風貴子」「貫田喜三」「山城幸作」「蕨田礼子」「田中源蔵」

ざっと上げてもそれだけの人物がいた。

 そして、それから3年間の間、俺たちは喜怒哀楽の3年間を過ごした。

クラスメイトが唐突に失踪したり、その情報を聞いた教員が、必死に探したり。白波瀬がうっかり敷地内のマンホールの中に落ちて、その中身が人体実験施設だったり。他にもいろいろな事が有った。

 特にひどかったのは、2年生の時に行った修学旅行の話である。

3日間の旅行なのだが、2日目に食べた食品が少しまずかったらしく、3日目終了後に参加者全員病院送りである。あれはひどかった。

西暦2039年3月10日 1000 伊勢神宮最寄り駅

 その日、俺は仲のいい友人たちと共に、卒業旅行に行った。

当然白波瀬も一緒だった。土産物を詰めた鞄をもって、駅のホームに立った。

 そして、特急列車に乗り込んだ。

しかし、色々と突然やってくるものである。

急激な腹痛に見舞われた俺は、白波瀬に声をかけた。

「すまん白波瀬。しばらく荷物を見ておいてくれ、少し腹を下した。」

 すぐにトイレまで走り、個室に入る。

 何とか間に合い、直に出ることに成功した。

 しかし、出た時に違和感を覚えた。明らかに、列車内にしては音が少なかった。

周りを捜索したが、それは明らかに駅の構内だった。

(しばらく待って、列車が来なければ電話を掛けよう。)

 変化が起こったのは、1時間後のことだった。

こつ、こつ、と足音が聞こえる。

足音の主は、俺を見てすぐに声をかけてきた。

「君、少しいいかな。」

その言い方に不快感を覚えた。

「…はい、なんでしょうか。」

横目で声の主を見る。不思議なことに、来ている服装は俺の通っていた高校の制服だ。しかも、デザインが変更される前の物だった。

 「君は、何所から来た。」

なんだこいつは。無遠慮に聞きに来すぎだろう。

俺は不快感を露わにしていった。

「名前、名乗ったらどうですか。」

その発言に、一瞬詰まったらしい。

「有馬忠義だ。君の名は。」

その声を聴いて、俺は一度目を閉じて考える。

有馬という名字であれば、総帥や直とも関係があるのではないか。

名前を言う事にした。

「八重島鷹。貴方も、ここに迷い込んだのか。」

 それからは、取り留めのない会話をした。

有馬忠義は駅構内のトイレを利用した後、ここに迷い込んだらしい。

 俺はこういった。

「ここで1時間ほど待っているが、なかなか電車が来ない。」

有馬は答えた。

「それはそうだろう。駅の名前が、少しおかしいからな。」

彼の視線の先には、この駅の駅名が書かれた名盤があった。

”やよい”という駅名だが、伊勢神宮の近くの駅に、その名前の駅はない。

俺は、彼に質問をした。

「すまないが、今何年か教えてほしい。」

「2023年3月10日だが。」

「いや、なぜ16年前の事を言っている。今は2039年だぞ。」

 決定的な時間軸のずれが発覚した後、謎のおじさんによって、俺は元居た世界に送り返された。

 2039年5月10日 1000

 俺は、母校に自分の学生服を寄贈し終え、いざ自宅に帰ろうと駅のホームで電車を待っていた。

 未だに頭を離れないのは、あの有馬忠義という人物だ。

俺はすぐに学校側の記録を探ったが、彼は間違いなく実在している。

だが、その人となりを知る人間はいなかった。

 せいぜいが、卒業アルバムの写真ぐらいである。

彼と再び会う日は来るのだろうか。

 そうぼんやりと思っていると、駅の構内に入ってきた一人の男が見えた。

彼の方は俺に気が付いたらしく、まっすぐに向かってきた。

「君、八重島鷹君かい。」

「…、貴方は。随分老けたように見えますが。」

俺がそう言うと、彼は微笑みを浮かべていった。

「僕からすれば、君と出会って16年が経っているからね。君からしてみれば、2か月ぶりかな。」

俺は白々しく言った。

「なるほど、それであれば納得です。」

 その後は、そうたいした会話をしなかった。

だが、俺はこの有馬忠義という人物をもっと知るべきだったと後悔した。

 彼が、後に日本国救国の3英傑の一人として名をはせることを。

エピローグ


旧西暦2107年新暦50年1月19日

 

 私”キイチ・オーランド・ハタキ”は、八重島鷹という人物の存在をはっきりとする事ができた。

 彼の孫である八重島義嗣の証言を基に、複数の証言などもすり合わせた結果、彼の話は真実を多く含むことが分かった。

彼は異世界に、我々のいた世界の力を知らしめた。

そして、その後の異文化交流において、彼とその所属組織が果たした役割が非常に大きいことも。

 彼の所属部隊は幾度か変わっているが、それでも魔物の大規模侵攻という未曽有の事態に全力で当たったことも明らかとなった。

 しかし、疑問点は複数存在していた。

一つ目に、同部隊の僚機たちの証言である。

彼は高起動時でも的確に指示を出していたようで、それは普通不可能な事である。高いGのかかる機動中、血液は下肢に溜まるのだ。その為、脳に酸素が行き届かなくなるため、普通に考えれば的確な指示が出せるわけがない。

 だが、彼はごく普通にそれを行っている。

この為、彼が人間ではない可能性も出てきたのである。

これ以外の複数の証言から、やはり人間として不自然な点がいくつもあった。

 傷の治り等も早すぎる事や、身体能力もすぐれていた点などもである。

また、2040年以降の足取りもつかめなくなっている。

 この為に、今回の調査はこれで打ち切りとなった。

 私は母国に帰国後、直に筆を執った。

彼のことについて、少しでも多くを残すためである。

 彼の生きた軌跡、それを詳細に書き上げた。

 だが、これはジャーナリストが書く文章ではなくなってしまった。

私は仕方なく、その原稿を没にして、理路整然とした文章で書きなおした。

それを編集部に持っていき、これで私のノルマは達成だった。

 だが、没原稿は知り合いの小説家に押し付けることにした。

やはり没原稿を放置は、少し残念な気がしたからだ。

 数年後、私は書店である小説を見つけた。

そのタイトルは”ある戦闘機乗りの話”、著者は私の知り合いだった。

 私の隣で、少し年を食った人物が同じ本を手に取った。

パラパラとページを飛ばし読んでいる。

「すまないが、これを書いたのは君かい。」

私の隣に立っていた人が、私に声をかけてきた。

「はい。これは没になった原稿をこの著者に押し付けただけですがね。」

その発言を聞いて、彼はくつくつと声を殺して笑った。

「なる程。そうか。じゃあ一つ教えてやろう。八重島鷹は生きているぞ。」

 私がその発言にあっけにとられた。

何よりも、その声がある人物に似ていたからだ。

「まさか。」

「では、さらばだ。」

 その人物は踵を返して雑踏の中に消えていった。

なる程、確かにあれでは、足取りがつかめない訳である。

(あの人物が、八重島鷹か。)

 人類の希望と言われた男。

その人物は未だに生きていたことを知ると、やはりこの世の中は不思議な事だらけである。

 押し付けた原稿には、いくつかの改変が入っていた。

 ”八重島鷹、すなわち人類の希望”と。

本編完結です。この後は登場人物紹介ですね。あとは地図です。

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