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雷は亡霊と共に。

2036年1月14日 0900 本部第6小会議室

 その日、ある作戦が一部の人間に通達された。

 俺は総帥からの呼び出しで、第6小会議室に向かっていた。

僚機の一人を伴っていこうかと考えたが、司令文の最後には必ず一人で来るようにと書かれていたため、護身用の拳銃一丁のみを携行していくことにした。

 航空隊搭乗員の待機室から、歩くこと10分。

「ここでほんとにあってんのかね。」

小さな倉庫にたどり着いた。だが、部屋の名前は第6小会議室となっているため間違いないのだろう。

ノックをすると、総帥が顔を出した。きょろきょろとあたりを見回した後、俺を部屋の中に引っ張り込んだ。

「ちょっと総帥。」「すまないが、手短に話す。」

俺はその行動を咎めようと声を出したが、総帥の一声にかき消される。

「24時間後、君は単騎で敵地深くに侵入してほしい。航空偵察で明らかになったことがある。」

そういって渡された地図には、いくつかの赤い点が示されていた。

赤い点はすべて、大陸最北端より北に10km離れた佐渡島と同じ大きさの島に集中していた。

「君が破壊するべき目標は、北の島にある魔物の発生装置。これの破壊だ。

どうやらこれは、魔物たちに魔力を供給する代物でもあるらしい。」

総帥は淡々と説明する。

「自由の盾作戦後半。敵戦力が撤退したのは、君たちとは別で動いていた部隊が魔物の発生装置を攻撃したからだ。だが、彼らが用いた武装では破壊には至らなかった。

 しかし、君の機体に装備されているレールガンがあれば破壊できる。」

「…わかりました。しかし、なぜ私一人に。」

 総帥は俺の目を見ていった。

「彼らは我々の動きを見ている。」

最悪の想定が総帥の口から紡がれた。

「大多数の編隊で突入しても、魔物の発生する構造物自身が防御の為攻撃を放ってくる。ごく少数の編隊、いや単騎で突入し、破壊するしかない。」

「…わかりました、作戦は24時間後ですね。ですが、俺一人では壊せてもせいぜい一つだけです。」

総帥には考えがあるらしく、ニヤリと笑った後答えた。

「ほかに数名、ここに呼んでいる。君のよく知る男たちだ。」

 扉を叩く音がした。総帥自らが扉を開けると、そこにいたのは二人の男。

「田中修海軍中佐、白波瀬忠一陸軍中尉。それから、八重島鷹空軍大尉。」

「君たちに極秘作戦を託す。」

 「本作戦をA作戦と呼称する。君たちが破壊する目標は、大陸最北端のノールクート岬の北に位置する島。洞窟、山の頂上、そしてその付近の深海にある魔物の発生装置だ。本作戦に際し、大規模な陽動作戦として、吹雪作戦を実施する。

 君たちは作戦中、混乱に紛れて作戦空域を離脱し破壊目標が存在する場所まで移動。A作戦を開始してほしい。次に破壊する目標についてだ。」

そういって総帥は写真を渡した。

「写真に写っている白色の塔が魔物の発生源。そして、そのエネルギー源が、地面付近にある紫色の透明な結晶状のものだ。このエネルギー源さえ破壊できてしまえば、魔物の発生は止まる。だが、破壊するためには相当威力のある兵装を用いなければ破壊は不可能だ。そこで、君たちの用いている兵器の出番というわけだ。」

そういって、俺たちの目を見て言葉を続ける。

「田中中佐。君の乗っている船には、14㎝のレールガンがあったはずだ。」

「はい。ですが、水中に存在する目標には効果がないと思われます。」

「それがね、その構造物が魔物を生み出すためには一度その弱点である紫の結晶を海面から突き出す必要がある。その時に君のレールガンを使えば。」

「破壊は可能。ですか。」

「そうだ。次に陸上に存在するそれの破壊は白波瀬中尉が破壊してほしい。」

「なぜ私なのでしょうか。」

「君は運がいいと聞く。それに、君が扱いに長けている物は何だ。」

「ダイナマイトです。」

「なら、わかりきっているだろう。」

 そして、俺の方に向いてこういった。

「八重島大尉は、山の山頂にある目標を破壊してほしい。

とはいっても、その山は死火山だ。そして、噴火口の中に例の構造物がある。

奴が君の姿を察知した時、相手は死んでいるよ。君の手によってね。」

同年1月15日0900 本部格納庫

 [諸君、おはよう。]

格納庫内で、出撃のため待機中、無線機から声が流れてきた。

[君たちは2時間後、重要な作戦に参加する。この世界の、いや、全ての世界線での、人類の存続がかかる戦いだ。]

総帥の声だった。彼の声は随分と落ち着いているが、どこか上ずっていた。

[今ここにいる諸君は、生きた世界線が異なる人々かもしれない。

だがそれでも、今後の相互理解が深まり、盟友としての立場を築き上げる事になる。そして、今この世界を覆っている絶望を、吹き飛ばす神風を共に呼ぶだろう。今日この作戦に参加する諸君は、人類史に新たなる一ページを刻む先駆けとなる。

我々は何もかもが異なるが、共に戦い、傷つき、そして死んでいった仲間たちがいる。彼らの生きたかもしれない未来のために、我々は作戦を開始する。]

[全部隊へ、作戦を開始せよ!]

 エンジンスタート、ハンガー内にエンジンの音が響き始めた。

〈こちらフェニックス1、僚機である君たちに一つ命令を下す。〉

[隊長?]

〈必ず生き残れ。そして、平和の空を飛ぶぞ。〉

 そう言うと、俺は見上げてそれを見る。

機体上部に取り付けられた特殊兵装である、60口径75mm単装レールガンの砲身が見えた。砲弾の発射のため、大容量蓄電池を機体各所の余剰スペースにありったけつぎ込み、更にはエンジンに流体継ぎ手を介し発電機を装備。

飛行中はエンジンが発電機の役割を果たすようにした。

 だが、これが原因でエンジン推力が低下。機敏な軌道が出来なくなった。

さらに言えば、レールガンを固定するために、砲身はボルト40本以上を用いて機体に接合されているため、緊急時でも取り外すことはできない。

 作戦は、まず高度を限界まで上げて急降下。

エンジンをなるべく回して発電、その電力を用いてレールガンを発射。

弾着修正は砲身内部に存在するレーザー照射機を用い、コンピューターが砲身の向きなどを調整。

確実に命中するタイミングでトリガーを引けば、俺の任務は完了。

 あとは本部に帰投するだけである。

[フェニックス隊へ、離陸を許可します。幸運を。]

[フェニックスリーダー了解。全機、離陸するぞ。]

 今回は、地下滑走路からではなく地上滑走路からの離陸だ。

前方の空には、ゴマのような黒点が空を覆っている。彼らがすべて、友軍機なのだろう。

 しかし、今日の空は随分と嫌な空だ。北の方に目を向けると、黒い雲が西から東を覆っている。

スロットルレバーを最大位置に押し込み、既定の速度まで上がるのを待つ。

「V1」

操縦桿を手前に引き寄せると、機首が上を向いた。

「VR」

そのまま待っていると、機体が大地から離れたらしく、ぐんぐんと高度を上げていく。

「V2」

ギアを格納すると、対気速度は800ノット以上に。

[こちらAWACSドラゴンアイ。作戦開始だ。やるぞ。]

[了解。]

 敵の存在する場所は、大陸最北端のノールクート岬から西に3キロのヒューズ湾に存在する。そこに総攻撃を加えるのが、今回の吹雪作戦の目的だ。

[こちらスワローリーダー。敵航空戦力と接敵。交戦!]

〈こちらフェニックスリーダー。2へ。指揮権を君に渡す。部隊の指揮は頼んだ。…エンジン推力が不安定だ。一時帰投する。〉

[隊長!]

 その言葉を聞きながら、俺は戦闘空域から離脱。一気に海面まで降下する。

 そして、全通信を切った。レーダーなども含めてである。

ただし、切ったのは発信のみだ。受信は生きている。

[おい!今フェニックス隊の隊長機が!][嘘だろ!]

 数分ほど低空飛行を行った後、一気に高度3600フィートまで上がる。

あとは目標地点まで行ければいい。

[こちらヌル。ベルーガへ。A作戦を開始せよ。]

ヌル、ドイツ語では0だったか。ヌルの目的は、ただ作戦開始を伝えるだけである。そしてベルーガとは、俺に割り振られたコールサインだ。

 目標まで残り1.5キロメートルとなった時、エンジンと発電機を繋いだ。

蓄電池に電力が貯められ、システムが起動する。

HUDに映し出された照準は、間違いなく75mmレールガンのそれだった。

砲弾はたったの1発。これだけで決めなければならない。

目標地点まで残り1キロメートルを切る。

 右螺旋を描くようにローリング。螺旋の頂点に達した時、一気に操縦かんを引いて急降下に移る。雲の中に突っ込んだ為、視界が一切効かなくなった。

「うわッ」

前方に一瞬の閃光を視認した後、わずかに機体を横滑りさせる。

つい先ほどまで自機がいた場所に、紫電が駆けた。

次々と襲い掛かる紫電。それはまっすぐ正面から接近する。

 操縦桿をわずかに動かし、更にはつま先でラダーペダルを少しだけ蹴って敵の攻撃を避ける。

そして、眼前の雲が晴れると同時に、レティクル内に紫の結晶がいっぱいに広がった。反射的にトリガーを引く。

 特徴的な発砲音が頭上から響く。時速3000kmで射出されたタングステン製砲弾は、明確に構造物の紫色の結晶を砕いたのだ。

 しかし、俺の網膜を焼いたのは核爆発かと見紛う閃光。

それは破壊した者も道連れにせんばかりの最後の攻撃だった。

機体が爆炎に包まれ、激しく揺さぶられる。上半身のあちこちに何かが刺さる感覚があった。薄れる意識。

 最後に見たのは、何か黒いものが俺の機体を飲み込んだその瞬間だった。

 同時刻本部第3指令所 

 ここは。第3指揮所。吹雪作戦の指揮が行われている第1指揮所から離れた位置にある。そこには総帥ともう一人がいた。

その二人が見ているのは味方の位置である。

 例の北の小島付近には、味方を示す青い点が3つ存在していた。

そして、時刻が1200になった時。

「A作戦参加の味方シグナルロスト。」

そう言ったのは、ヌルといわれた男だ。彼はA作戦オペレーターとしてこの場にいる。その横に立っているのは総帥である。

「そうか。すぐに偵察機を派遣。破壊を確認してほしい。」

総帥がそう言うと、ヌルが手元の端末を操作した。

「わかりました。」

「第1指令所に向かう。吹雪作戦の主要目的は達成された。」

 総帥はそう言って部屋を出る。

 たった数分後、全軍撤退の命令が出された。

 しかし、護衛艦しらね、白波瀬忠一陸軍中尉、YF23、及びその搭乗員である八重島鷹空軍大尉は帰投しなかった。

 真相を知っているのは、総帥とヌルだけである。

同年1月16日0900本部空軍基地地下施設

 隊長が戦闘中に行方不明になってから数日が過ぎた。

現在救難捜索隊を北方に派遣して捜索中ではあるものの、今現在に至るまで手掛かりは一切見つかっていない。

 吹雪作戦中、東の方角で閃光を視認したという隊員が複数いるため、私たちは東に何かがあると考えた。

 東へと捜索範囲を広げたものの、手掛かりは一切見つかっていない。

「なあミライ。今日も飛ぶつもりか。」

そう話しかけてきたのは、ヴェールヌイだった。

「ええ。今こうしているうちにも、彼は…」

「そうか。だが、あまり根を詰めるなよ。」

 彼の忠告を聞いたものの、もう既にフライト計画は提出済みだ。

「おい、白波瀬少尉。」

後ろから声を掛けられる。振りかけると、そこには今日一緒に捜索を行ってくれる人がいた。

「イオン大尉。すいません、突き合わせてしまって。」

「いや、別に構わんさ。それに、あいつの行方を知っているのは総帥だが、その彼も今回はだんまりだからな。」

今回はヴィスコル隊の隊長であるイオン大尉、それから友軍機である加藤建夫陸軍中佐も加わっての捜索となる。

「では、フライトは1時間後か。」

「はい、よろしくお願いします。」

 1時間後、北へ飛ぶ2機編隊がいた。その後方にさらに1機、存在している。2機編隊はF15とラファール。そして後方の1機は日本軍の試作機である5式戦闘機だった。

[おいお前ら!もっと速度を落とせ!]

英語で前方の2機編隊に怒鳴りつけているのは、後方をついていく5式戦のパイロットである加藤建夫中佐だ。

[すまないが、これでも最低速度なんだ。これ以上低速になると、失速して墜落する。]イオン大尉がそう言って宥め様としたが、それがかえって火に油を注ぐ結果となった。

[あぁ?気合で何とかしろ!]そう怒鳴り返す加藤中佐。

〈見えた、ノールクート岬だ。〉私がそう言うと、加藤中佐が怒りの声のまま言った。

[嬢ちゃんの目的地が近いってことか。俺はあんたらについていくが、少し遅れるぞ。]

〈わかった。ありがとう、加藤中佐。〉

 そう言った後、機体を高度100フィートまで降下させる。

数分ほど低空飛行を行ったものの、手掛は一切つかめなかった。

 [これ以上は帰投分の燃料がなくなる。引き上げるぞ。]

その通信が入ったと同時に、私はあるものを発見した。

〈イオン大尉、北の方角に島が見えます。〉

それは島だった。しかも、白煙が上がっている個所もある。

[はあ、島。]

〈白煙が上がっている、しかも2つ。〉

[何!]

[すぐに給油をして向かおう。]

 私たちはその後、基地に帰投。燃料の補給を済ませた後、北の白煙上がる島に向かった。私の後方には救難捜索隊所属機が10機ついてきている。

また、周辺海域捜索の為対潜哨戒機も10機ほどが編隊を組んで捜索に加わった。

〈前方に島を視認。これより降下して確認する。〉

[了解。]

 まず私が降下してその島を観察する。北端には山が存在しており、南側は平野が存在している。

 しかし、平野部には不自然なまでのクレーターが存在していた。

そして、北端の山の山頂付近は爆発したかのように吹き飛んでいる。

その二か所から、白煙が昇っているのだ。

〈平野に不自然なクレーターを確認。さらに、北側の山も、山頂付近が爆発した痕跡があります。2か所のクレーターから、白煙が昇っています。〉

[他には、何が見える。]

 私は目を凝らして地面を観察する。何かないか。見つけたのは、白煙の上がる物体の近くにある黒い何かだ。

〈地面に、何か黒いひも状のものがいくつも落ちています。〉

[他には。]

〈すいません。それ以上詳しく見ることはできません。〉

[了解した。艦隊を派遣して上陸後、調査をする。北側の山はどうだ。]

〈北の山ですね。了解です。〉平野から北の山に視線を移す。

 北の山を一周旋回し、山肌を見る。

 私はそれを発見してしまった。

〈き、機体の一部らしきものが、散乱しています。〉

西の山肌。その場所に、薄灰色の何かが散らばっていた。

そして、私は一番見てはいけないものを見てしまったのだ。

 飛行機の尾翼。そこに描かれたものは、太刀を加えた深海鮫の紋章と、炎に包まれる黒い鳥の紋章だ。つまり、私の隊長はここで死んだ可能性が高い。

〈山の西側、機体の破片らしきものが散らばっています。尾翼も、確認しました。尾翼には、不死鳥と鮫の紋章が、確認できました。〉私はなるべく冷静に状況を伝えた。

[…そうか。了解した。すぐに回収部隊を向かわせる。君たちは帰投してほしい。代わりの部隊は用意してある。]

 基地に帰投後、私は何も言わずに自室に向かった。部屋に入り、内側から鍵を閉める。机の引き出しにしまっていた、1枚の写真を取り出す。

私と彼、八重島鷹とのツーショット写真だ。

 彼は私のよき理解者だった。お互いに依存していたのだろうか。

だが今は。この感情を止められない。

 私”アサギリ”はヴェールヌイと話しながら廊下を歩いていた。

「臨時とはいえ隊長なのだから、ヴェールヌイはしっかりしてくれよ。特にあの3番機は気にかけてやった方がいいよ。」

私がそう言うと、ヴェールヌイは確りとうなづいた。

 そして、その3番機がいる部屋の前に来た時。部屋の扉は固く閉じられており、鍵までかかっていた。しかも、中からは啜り泣く声まで聞こえている。

「さすがに、この状況で入れはしないだろうな。」

ヴェールヌイはくるりと踵を返しハンガーに向かおうとした。

 「そうだね。まあ、ダメもとでやってみようか。」

私はそう言うと、とんとんと扉をノックした。

「おいアサギリ。」「私だ、アサギリだ。少し話をしないか。」

数秒ほど待つと、鍵がいじられる音がし、扉が開いた。

扉を開けたミライの目は真っ赤に泣きはらしており、どうやら最悪の光景を目にしたらしいことは容易に想像できる。

「すまないが、中に入れてほしい。立ち話も何だろうから。」

こくりと頷いたミライは、部屋の中に椅子を用意した。

 「ありがとう。すまないが、何を見たのか話してもらえるかな。」

私はそうミライに問いかけた。

 ミライが語ったのは、ある意味で最悪のことである。

「つまり、ノールクート岬の沖合にある島に隊長機の残骸があった。

しかも、付近からは白煙が上がっている。なあミライ、今から言うことは君もうすうす感じていることだと思う。」

私はミライから得た情報を基に、隊長、すなわち八重島鷹大尉は戦死した可能性が高いと判断する。

「隊長は、恐らく…。」私はその予想を言おうとした。

「言わないでください。それは私が一番わかっていることですから。」

 しかしそうなると、散乱していた機体の残骸が焦点になってくる。

私はそれについて聞こうとしたが、ヴェールヌイがそれを制した。

「機体の残骸だが、つい先ほどここに運び込まれたらしい。」

…なるほど。それであれば見ておく必要があるな。

 私たちはさっそく、残骸が置かれている格納庫に向かった。

 そして、実際に見てみたのだが。

「機体のうち、およそ70パーセント以上がない?」

「はい、現在解析を進めていますが、見つかったのは左側の尾翼と主翼だけでした。それ以外は、見つかっていません。」

解析を進める部隊の隊長によると、最も損傷が激しいのは左主翼。

しかし、おかしいのはここからだ。

「機体左側の損傷が激しいのであれば、尾翼も同様になっているはずです。

しかし奇妙なことに尾翼はそのままの状態で発見された。」

そういって、主翼のX線画像と尾翼のX線画像を見せてきた。

 確かに、主翼側は骨組みなどがぐにゃぐにゃになっている。

しかし、尾翼側は原形をとどめており、部品さえ交換すれば部品として再使用可能なほどダメージが存在しない。

「それに、おかしな点はもう一つ。」

消えた70パーセントの機体の行方だ。

 普通であればその島か周辺の海底に沈んでいる可能性がある。

だが、付近の海底を捜索してもそういったものは一切見つからなかった。

「ここから導き出される仮説は2つ。一つに八重島大尉の搭乗機は左主翼、及び尾翼を残し爆発により蒸発した。

 そして二つ目が、左主翼及び尾翼をこの世界に残し、異世界に転移した。」

「…は?」

 この人物が何を言っているのか、私たちは理解できなかった。

「よく考えてください。一部の例外を除き、この世界には一度死んでからここに来るのです。しかし、八重島大尉は死んでいない。つまり転移してきたのです。」

そう言った部隊長は、手元にあるいくつかの資料を見ながら言った。

「この世界にいる地球人の大半は、一度地球で亡くなった人物が大半だ。

白波瀬少尉や、有馬大尉なども含めてね。

 だが、例外となった人物たちもいる。それが八重島大尉だった。」

そう言いながら、押しつぶされた左主翼の機体側を見てこういった。

「そうでなければ、ここまで綺麗な切断面を見せることなどありえない。」

詳しく観察すると、機首側から機尾側に押しつぶされている。

 だが、その切断面は確かにきれいだった。まるで切れ味のいい刃物で切られたように。引き千切られたのならもう少しズタズタに成っていても可笑しくはない。

 私たちはそれでも疑問に思ったことがあった。

「失礼ながら。そもそも我々がこの世界に転移した理由は何なのですか。」

問いかけたのは2番機のヴェールヌイだ。

「これは以前、君たちにも話したと思うけど、もう一度話そうか。」

 この世界に転生して初めに行ったのが、総帥による我々の総意の決定だ。

我々は転生する際、神を名乗る存在からこう言われたのだ。

”君たちの活躍が、人類の存続を決める事になる。君たちは人類の星なのだ。”

 それから約1年後、我々はあの吹雪作戦を実行。総帥曰く、吹雪作戦は陽動であり、本命の作戦はまた別だったそうだが。

 さて、では何が言いたいのかというと。

私たちは地球人という存在を異世界に知らせる為に、この世界に転生した可能性が高いという事だ。

そして、異なる時間軸の地球人が出会うことは確定であるという事でもある。

 その根拠としては弱いが、この世界に転生した日本海軍軍人の存在だ。

飛龍乗組員の内、飛龍と共に没した417柱。

そして、戦艦霧島といった存在だ。

彼らは戦死しているが、もし異世界同士が融合することとなれば、それぞれがお互いに知りえている必要がある。

 だからこそ、彼らは最後の切欠と成る為に、また異世界に転移したと思う。

 年代的にいえば、彼らが転移したのは1940年代の日本になると思う。

 人類存続に必要なのは、戦争の愚かさなのだから。

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