自由の盾作戦
もうそろそろ、完結です。
2036年1月11日0900本部空軍基地 地下ハンガー
魔物の侵攻から24時間後。
俺は現在、地上部隊からの報告書に目を通していた。
現在、大陸北部の主要都市、及び村落からの避難者は増え続けており、その避難民を護衛している冒険者たちも多くが死亡している状態。
また、避難民の数に対し、冒険者の数が足りておらず、避難民のみで移動し、同中に魔物の奇襲を受け全滅、という集団もいくつも報告されている。
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また、通信電文には以下のような文面もあった。
陸軍司令部はこの事態を重く受け止め、民間人護衛輸送を目的とした自由の盾作戦を計画、実施予定である。各航空隊、及び艦船部隊は無条件の協力を絶対とすべし。
俺はこれを見て、まあそうなるかと思った。初戦の数時間で冒険者たちが奇襲を受け、また冒険者たちの相互ネットワークも破壊。
被害状況などの共有が出来なかった為、ただ戦力の逐一投入を行ってしまい、いたずらに数を減らすこととなった。
―”自由の盾作戦”開始まで残り48時間。
♢
2036年1月12日0900 本部第一大会議室。
翌日、全隊員を集めての作戦大綱の説明がなされた。
総帥である有馬永作が壇上に上がって説明を始める。
「本作戦は明日の1200に開始される。地上部隊は航空機の誘導に従って避難民と合流。そのまま我々の確保している南端の沿岸地点に誘導。
航空隊はその上空から敵地上部隊、航空隊の攻撃を未然に防ぐ。
また、沿岸部に至るまでは渓谷を経由しなければならない。
その為、途中には我々の設営した陣地がある。この陣地は渓谷内の幅500メートル以上ある地点に構築している。
ここが魔物の大集団を防ぐための最後の砦だ。ここを突破されると、我々の確保している海岸線までの10km、障害となるものはない。
この為、ここを最終防衛ラインとして設定する。
ここを突破されれば、避難民の海上退避は不可能と心得てほしい。
作戦の号令は、”オオカミは八重山に登る”だ。
下る、であれば作戦は中止である。以上だ。質問は。」
俺はすかさず手を挙げた。
「総帥、魔物の大本を叩かなければ、今回の危機を解決したと言えません。如何するお積もりか。」
「それに関しては問題ない。今後衛星からの観測を基に、この魔物の大量発生地点を叩く作戦を、現在計画中である。」
「総帥、続いて質問よろしいかな。」
「山口少将か。なんだ。」
「本作戦にはわが艦隊も避難民輸送船として参加しているが、作戦海域には海棲の魔物が多く存在している。我々輸送船団に十分な護衛は付くのかい。」
「それに関しては問題ない。こちらからも10隻の護衛艦を出す。
全て、対空対潜に重点を置いた代物だ。乗員の練度も高いから、心配なさらないでもいい。」
数分後、ブリーフィングは終了した。
♢
作戦参加部隊
地上部隊()内は使用武器ないし機材
第1機械化歩兵遊撃大隊”グラム”(M16、M1911)
第2機械化歩兵遊撃大隊”ヴァラニディア”(同上)
第1機甲遊撃大隊”ガルム”(M1A2、16式機動装甲車)
第2機甲遊撃大隊”ウルフ”(同上)
飛行隊()内は使用機材
第1飛行隊第1小隊”レーヴェン”(UH1ヒューイ。4機)
第1飛行隊第2小隊”アウル”(MH6リトルバード、4機)
第1飛行隊第1小隊”スワロー”(Su30。4機)
第1飛行隊第2小隊”ヴィスコル”(ラファール、4機)
第1飛行隊第3小隊”フェニックス”(YF23、1機。F15、3機)
第1飛行隊第4小隊”バルバトス”(MIG35、4機)
第1飛行隊第5中隊”コーモレイト”(F2、4機)
第1飛行隊第6中隊”アダ―”(F2、4機)
第1飛行隊第7大隊”ノスフィラトゥ”(Su37、12機)
第1飛行隊第8中隊”バッド”(F15、6機)
第1飛行隊第9中隊”ネメシス”(F15、6機)
第1飛行隊第10中隊”フーガ”(F2、6機)
第1飛行隊第11中隊”バロン”(Su37、8機)
第1飛行隊第12大隊”ケストレル”(F4EJ改、12機)
第1小隊、第2小隊、第3小隊を聨合した際の呼称はアルファ隊。
第4小隊、第5中隊を聨合した際の呼称はブラヴォー隊。
第6中隊、第7大隊を聨合した際の呼称はチャーリー隊。
第8中隊、第9中隊を聨合した際の呼称はズールー隊。
第10中隊、第11中隊を聨合した際の呼称はウィザード隊。
艦艇部隊
第1艦隊(アイオワ級戦艦2隻、改あさひ型護衛艦4隻)
第2艦隊(ジェラルド・R・フォード級航空母艦1、改まや型護衛艦4)
第3艦隊(改いずも型護衛艦1、改まや型護衛艦4、改しらね型護衛艦4)
友軍部隊
第1飛行隊”太刀風”(烈風、4機。零式艦上戦闘機六四型、予備3機。雷電、予備4機。)
第1艦隊(元第0特務独立艦隊。)(戦艦霧島、戦艦扶桑、戦艦山城、空母飛龍、駆逐艦朝雲、駆逐艦山雲、駆逐艦蕨、護衛艦わかば、護衛艦しらね、護衛艦はるかぜ)
♢
同年1月13日1200 大陸拠点跡地より、北東に5km 高度3千フィート
作戦開始10分前に離陸した我々は、現在高度3000フィートに待機中。
即応戦力として先に離陸した我々の眼下、その西側に車両が長蛇の列を作っていた。火器管制システムは起動済み、AWACSとのデータリンクは異常なし。
そしてゼロアワー。本部指令室より入電。
[本部指令室より発令。オオカミは八重山に上る。繰り返す…]
[全部隊へ、作戦を開始せよ。]
[ウルフ小隊了解した。これより作戦を開始する。全車に次ぐ、前進!]
[こちらレーヴェン1。本隊はこれより地上部隊の前進支援を行う。現在ウルフ小隊上空。]
[こちらAWACSサンダーゴーレム。今作戦の指揮は本機が執る。航空隊は全機地上部隊付近の上空に集合。ヴィスコル隊、スワロー隊、フェニックス隊を纏めてアルファ隊。コーモライト隊、バルバトス隊、纏めてブラヴォーと呼称する。
アルファは西側から飛来する目標を、ブラヴォーは東から接近する目標を迎撃してほしい。友軍部隊は、北からの目標の迎撃を頼む。]
[こちらアルファ隊、了解!]
[太刀風隊了解。…しかし、強者がここまで集まると壮観だな。]
レーダー上に敵編隊を示すフリップが複数出現。
数5、10、7の集団。
5の集団、方位、011、高度1000フィート。
10の集団、方位084、高度407フィート。
7の集団、方位284、高度390フィートから接近中。
[アルファ1、交戦!]
〈ブラヴォー1、交戦!〉
無線にそう言って、螺旋を描くようにロール。そのまま急降下して接近。
使用兵装は57mmレールガン。HUDに表示された敵が、レールガンの着弾地点と重なった。
〈ブラヴォー1、サンダー!〉
レールガン発射時のコールを言い、トリガーを引いた。
すぐさま離脱すると、僚機たちがミサイルを次々と発射していく。
[ブラヴォー2、FOX3。]
[ブラヴォー3、FOX3。]
計6発のAIM120ミサイルが、目標へ着弾。敵機全機撃墜。
[こちらサンダーゴーレム。…、方位320より敵大編隊接近中。
高度100から1000フィート、数なお増え続ける。速度78ノット。
ブラヴォー隊は迎撃態勢に入れ。]
一気に機体を上昇させ、高度2500フィートに駆け上がる。
僚機たちが同高度に上がったのを確認後、無線越しに使用兵装を指示する。
〈ブラヴォー1了解。全機、大槍を放て。〉
[了解。大槍を撃ちますっ!]
主翼下から切り離された大型空対空ミサイルが、敵機と同高度まで降下。
僚機たちのミサイルも後に続いている。
ミサイルが小規模な爆発を起こした刹那、複数の火球がその空域を支配した。
[敵編隊のうち約20パーセントを撃破した。…敵編隊後方より新たな目標を探知、数なお増え続ける。レーダーの反応が従来の目標と異なる。警戒しろ!]
AWACSからの通信で、状況はさして変わっていないことを知る。
俺はこの状況を打破できる最善の策を僚機たちに伝えた。
〈了解。全機、全ての大槍を放て。〉
[隊長!それではいざというときに対応が出来ません!]
そうかみついたのはヴェールヌイ。
しかし、AWACSからの通信でしぶしぶ承服した。
[味方飛行隊接近中。あとは彼らに任せよう。]
[…了解しました。]
再びミサイルを敵編隊に放つと、一斉に基地に向けて南下を開始した。
〈こちらブラヴォー1、全機ミサイルの補充のため、一時的に後方に下がる。〉
[こちらサンダーゴーレム。了解した。ズールー隊はブラヴォー隊の攻撃を引き継げ。]
[ズールーリーダー了解。全機、敵編隊に対し大槍を放て。]
[こちらウィザード隊。これよりアルファ隊の攻撃を引き継ぐ。]
[こちらアルファリーダー了解。これより補給のため後退する。]
味方飛行隊は眼下の高度1000フィートから空域に突入したようだ。
ミサイルを発射後、友軍編隊は高度を上げた。どうやら、上方から奇襲を行うらしい。
それを尻目に、沿岸地域付近の野戦飛行場に向かう。
僚機のうち、燃料の少ないものから先に着陸させる。
「鋪野曹長、燃料と弾薬の補充に要する時間は。」
「ここだと、約2時間だな。機材が違えば、もう少し早くできるが。」
「そうか、ありがとう。」
2時間後。武装、燃料の補充を済ませて離陸する。
しかし、AWACSの通信から伝わってきた状況は、芳しくないようだった。
[こちら太刀風2番。主翼に被弾した!離脱する!]
[戦力は50パーセントを消耗!このままでは食い破られます!]
[敵飛龍より火炎放射!]
[我太刀風3番、火炎に巻き込まれ、翼内機銃暴発!撤退する!]
[こちらズールー8、主翼を食われた!脱出する!]
時折空気を震わす声は、龍の叫びだろう。データリンクの最新情報では、残った敵は非常に厄介な相手であると書かれていた。
アルミニウムの粉塵爆発に巻き込まれても生存。
20mm機関砲でも頭部に直撃させなければ撃破は不可能とあった。
だからこそ、俺は無線に怒鳴りつけた。
〈こちらブラヴォー1。各機へ、大槍を全弾発射。3へは個別の指示がある。〉
[なんですか、隊長。]
〈俺についてこい。〉
対空ミサイルの火球が空域を支配したが、敵の航空戦力は残っている。未だに爆炎が支配する空域に、俺は機体を侵入させた。
〈花火の中に突っ込むぞ!〉
[えぇっ!]
僚機であるミライの焦った声が響いたが、俺は気にせず加速。
音速をたやすく超えた機体のFCSは、敵の飛龍をとらえた。
全長が20メートル近くあり、トカゲのような体の背に、蝙蝠のような羽が4対生えている。そいつの頭部は、いかにもな西洋の龍だった。
[ブラヴォー1、ガンファイア!]
57mmレールガンの反動が機体に加わり、わずかに減速する。
しかし、砲弾の弾頭初速は時速4000km。アルミニウムの粉塵爆発に耐え抜いた敵の頭蓋骨をぶち抜き、脳漿をまき散らしながら地面に落ちていく。
[あれは…!助かった。]
撃墜した龍の鼻先にいた機体が、反転して撤退していく。
撃墜した相手は、どうやら連中の親玉のような存在だったらしい。
こちらを見る敵達の目は、殺意の色に染まっていた。
さあかかってこい。お前たちの相手はこの俺だ。
〈フェニックス1、交戦!〉
手始めに25mm機銃をばら撒き、敵の気を引く。残る敵はおよそ40。
レールガンの残弾は10発。1発で4体倒せばいい。
失速寸前でのクルビット軌道に、敵は食らいついた。
10体が重なったところに、レールガンを撃ち込む。
たったそれだけで10体が地に落ちた。
上から急降下してきた龍の咢が、左主翼端をかみちぎった。
その反動を利用して、機首を敵の眼にぴたりと合わせる。
その刹那、25mm機関砲を放った。
放たれた10発の弾丸は、眼球を打ち抜いて脳にも深刻なダメージを与える。
ふらふらとしか飛翔できないそれに、ミライはミサイルを放った。
イーグルの翼から放たれたサイドワインダーは、口腔内に突き刺さる。
一泊おいて爆発すると、そいつの頭部はなくなっていた。
くるくるとコマのように回りながら墜落する龍。それを尻目に再びレールガンを放つ。
味方の無線がやむことはない。
[全機、ブラヴォー1を支援しろ!]
[馬鹿が!下手に突っ込んだらこっちが危ない!]
[こちらAWACSドラゴンアイ。サンダーゴーレムの後を引き継ぐ。]
[こちらサンダーゴーレム了解。以降の指示はドラゴンアイから出される。]
どうやらAWACSが交代したようだ。
[現在、こちらの地上部隊は避難民と合流。護衛して海岸線に向かっている。
だが、魔物が追撃を行っているため、下手に速力を落とす事が出来ていない。
指定した航空隊は味方の撤退を支援せよ。
スワロー、アダ―隊は味方を攻撃する地上部隊を叩け!]
[スワローリーダー了解。]
[アダ―リーダー了解。]
[こちらケストレルリーダー。これより敵地上部隊のうち、対空戦闘能力を有する者の排除を開始する。全機、アナグマ狩りだ。]
ついに眼下の地上付近でも航空隊が暴れ始めた。
龍たちは二手に分かれて航空優勢を確保しようとしている。
5頭ほどの小集団は俺たちの足止めに、残りは対地攻撃部隊を叩きに降下。
〈邪魔だァ、どけェッ!〉
機首を左右に振りながらレールガンを3発発射。そのすべて3体の敵飛龍の首を消し飛ばした。
[おいおい、どうなってやがる。]
[あいつは、悪魔だ。]
無線機越しの味方の声が、人でない何かを目にした様な声になっている。
[違うぜ、ああいうのはな。死神っていうんだよ。]
操縦桿を握る右手が、その声に呼応するように震えた。
残る敵は2体、サイドワインダー短距離ミサイルを放つ。
毒蛇の名を冠するそれは龍の喉笛に食らいつき、その弾頭の威力を発揮する。
喉を吹き飛ばされた龍2体は、爆風が脳を破壊した為か、力なくその身を地上に落としていった。
残る23体の龍を、撃墜せんと降下した。しかし、連中がいるのは避難民の列の上空。下手に撃墜すれば、避難民に死傷者が出かねない。
なら、離れた一瞬のスキをついて撃墜するまでのことだ。敵の動きは随分と余裕をかましている。
ここは一度地面すれすれまで降下。食い上げる様に敵の腹に突っ込んで機銃を撃つしかない。
螺旋を描くように右にロールして降下。地面すれすれを飛行し、敵の後方に位置。スロットルレバーを最大推力位置に叩き込み、一気に操縦桿を引いた。
目の前に広がったのは龍の白い腹である。
鱗の一つ一つ、そのさらには年輪のような模様まではっきりと認識できた。
すぐにレールガンを放ち、操縦桿を右に倒し手前に引く。
〈まず一体。〉
[フェニックス3、撃墜!]
これで2体。
[我太刀風1番。たった今3体同時に撃墜した。]
どうやら友軍や僚機も次々と撃墜を記録しているらしい。
岩本中尉は同時に3体撃墜。僚機と俺で2体。残りは18体だ。
ふと上空を見ると、何かが高速で横切ったような気がした。
[我太刀風2番、只今戦線に復帰した。]
[フェニックス2。これより戦闘空域に突入する。]
[フェニックス4。2に続く。]
戦線を離脱していた友軍が、次々と空域に戻ってきた。
意識を目の前に集中させる。
[こちらケストレルリーダー。わが飛行隊は弾薬補充のため後退する。]
[こちらAWACSドラゴンアイ。ケストレルリーダーへ。撤退は交代の飛行隊到着後にしてほしい。燃料があれば、最大推力で敵の頭上すれすれを飛んでほしい。チャフとフレアもばら撒いておけ。]
[こちらケストレルリーダー。了解した。全機、俺の後に続け!]
[よし、やるぞ皆!]
味方飛行隊も、相当頑張っているらしい。
こうしているうちにも、龍たちは次々と地面に叩きつけられていく。
残り4体になったところで、龍を含む魔物たちは、一斉に北へと退却を開始。
[こちらAWACSドラゴンアイ。敵の増援を含む敵航空戦力の北上を確認。
地上部隊からも、同様の通信が入っている。…現在、地上部隊のうち一部は避難民のさらなる回収の為、北上を開始している。
味方飛行隊は、地上部隊を掩護。回収終了後、全部隊は本部へ帰投せよ。]
[こちらアルファリーダー了解。]
[こちらブラヴォーリーダー了解。]
[こちらウィザードリーダー了解。]
こうして自由の盾作戦は終了。
避難民の数は最終的に100万人規模に膨れ上がったが、全員を回航した空母に収容。道中不気味なほどに敵勢力との会敵はなく、本部への避難は無事に終了した。
乾坤一擲の作戦が開始するまで、あと1週間の出来事だった。
改あさひ型護衛艦、武装に127mmレールガンを搭載したモデル。
改まや型護衛艦、同上。
改いずも型護衛艦、小型空母としての能力を付与したモデル。
改しらね型護衛艦、武装に127mmレールガン、VLSなどを搭載したモデル。




