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侵攻の角笛

 いよいよ、侵攻開始です。

  飛行訓練などを繰り返し、およそ6か月ほど続いたある日。

彼らは北の地からやってきた。大地を覆い、全てを飲み込まんと南下してきた彼らは、魔物の大群だった。

2036年1月10日 1900

 今日の飛行訓練も大変だった。

迎撃訓練だったが、とにかく数が多く、友軍機含め10機程度ではさすがに厳しいものがあった。

前年の9月から、アサギリとヴェールヌイはF15Cに機種転換しており、機数は4に増えていた。

 くたくたになって自室に戻る。

ベッドにその身を投げ出すと、後ろからは苦笑が聞こえた。

「隊長、流石にその格好で寝るのはまずいのでは。」

「」

「確かに疲れたのは分かりますが、起きてください。」

 もう眠らせてくれ。指一本動かすのもできないくらい疲れているのだ。

意識を落とそうとしたその時。

部屋に備えられていたスピーカーから、突如としてけたたましいサイレンが鳴り響いた。

『本部より緊急入電。現在、偵察衛星より北部偵察不能区域の映像が入りました。現段階をもって、大陸に存在する友軍部隊含む全部隊は直ちに本部存在諸島に撤退してください。繰り返します。…』

俺ははじかれたようにベッドから起き上がり、すぐに駐機スペースに走った。

『現在、大陸に展開中の部隊は直ちに撤退してください。

大陸北部より、魔物の大群が現在南下中です。その数は現在計測中ですが、10万を優に超えると思われます。繰り返します。…』

廊下では多くの人が走り回り、撤退の準備を進めている。

「鋪野曹長、機体は。」

「完璧だ。だが戦闘機隊の離陸はかなり後になるぞ。」

「わかっています。」

「隊長、これを。」

鋪野総長と話し終えたとき、俺はミライからタブレットを受け取った。

 そこには、各軍の最高司令官がいた。

「ミライ、どういうことだ。」

「部隊の指揮官に向けて、メッセージだそうです。」

再生ボタンが押されると、音声が流れ始めた。

 現在、この世界の人類は絶滅にひんしていること。

その原因の一つが魔物の大量発生であること。また、ほかの世界への魔力流出も原因であること。最後に、この世界に元居た人々を本部の存在する島嶼部に移送する作戦も。

「君たち航空隊は、敵支配地域への空爆任務や、味方艦隊の航空支援などに当たることになると思う。君たちの活躍が、人類の明日に繋がるのだ。すまないが、頼んだ。」

 メッセージが終わると、ミライが言った。

「隊長、本部から我々に任務が言い渡されました。敵支配地域の偵察です。」

「了解した。鋪野曹長。カメラポッドの搭載をしてほしいが、できるか。」

「いや、その必要はない。搭載済みだからな。一昨日あたりに有馬大尉から緊急で連絡が入った。だから搭載しただけさ。」

「ありがとう。フェニックス隊各員、我々はこれより、敵支配地域偵察作戦を行う。今回の任務は、根回しなしで行われるが、緊急性の高い任務だ。」

「隊長、いくつかいいですか。」

 質問をしたのはアサギリだった。

「今回の作戦において、私たちは何をすればいいですか。」

「基本的には偵察を行う機の援護だ。」

「偵察は誰が。」

「私だ。」

「隊長自らですか。判りました。」

 数分後、フェニックス隊は方位350に機首を向け飛行を開始した。

〈こちらフェニックスリーダー。今から高度9000フィートまで降下する。2は我に続け。3、4は警戒のため高度そのまま。〉

現在高度は30000フィート。バレルロールし高度9000まで急降下。

「カメラ起動。録画開始。」

 機体のソフトウェアが、片翼に吊り下げられたカメラポッドを起動させる。

だが、地面を埋め尽くす赤い炎が、彼らの行軍の規模を示していた。

〈なんだこれは、夢でも見ているのか。〉

[こちらAWACSドラゴンアイ。敵航空戦力の接近を確認。偵察中の友軍機は高度35000フィートまで上昇し退避せよ。」

〈フェニックスリーダー了解。高度35000フィートまで上昇する。〉

[おい、今爆発したぞ!]

[レーベン1のシグナルロスト!]

[隊長!]

[こちらレーベン2、これより部隊の指揮は俺が取る。3、4は我に続け。]

[…4、了解。]

 どうやら友軍機が撃墜されたらしい。下には多くの魔物がうごめいている。

しかし、彼らであれば無事に救い出すだろう。

[こちらカゾドォイ1。これより脱出した友軍を回収する。]

[こちら2、了解。パラシュートを視認。]

[…、回収完了。RTB。]

[2、コピー。]

 回収部隊所属のC130機体後部から、パラシュートが伸びている。

回収に成功したらしい。速度を上げ南下していく。

[こちらAWACSドラゴンアイ。全機撤退せよ。緊急指令が入った。

 これより我々は、大陸より撤退する友軍の航空支援を行う。敵地上部隊、航空部隊の両戦力をなるべく多く撃破せよ。繰り返す。これより我々は、大陸より撤退する友軍の航空支援を行う。敵地上部隊、航空部隊の両戦力をなるべく多く撃破せよ。敵総戦力の解析は、撤退完了後に伝える。]

AWACSの声は震えていた。味方からの通信では、混乱の声が響いている。

[おいAWACS、それは本当なんだろうな!]

[落ち着け!…ヴィスコル隊各機へ、火器管制用レーダーを。対地攻撃を行う。2、3は上空警戒を。]

[2了解。]

[3了解。]

 自軍編隊の一部が地上付近まで降下しているのを見ていると、友軍編隊からの通信が入った。その声の主は、つい昨日ブリーフィングを行った隊長の声だ。

 [こちら太刀風隊一番機、岩本だ。本編隊はこれより、貴軍らの制空補佐を行う。空の守りは任せておいてほしい。]

飛来した4機編隊の友軍機は、我々よりも高度をとっているようだ。

 機体はレシプロ機であることは間違いない。

だが、零式艦戦にしては機体がやや大きく、更には翼下にアンテナらしきものもついていた。

[我々の機材は、紫電改夜戦対応型だ。AWACSドラゴンアイ。敵編隊への誘導を頼む。細かな索敵はこちらで行うから大丈夫だ。]

[なんだと!]

〈落ち着けドラゴンアイ。こちらフェニックス1了解。こちらは太刀風隊の援護に入る。危機的状況になったら教えてくれ。〉

[我太刀風1番了解した。…本当は零戦で出たかったがな。]

 そうしているうちにも、敵編隊をドラゴンアイが補足したらしい。

[こちらドラゴンアイ、方位344より敵機出現。数15。迎撃せよ。]

[我太刀風1番了解した。全機我に続け。フェニックス隊は北東に注意を向けてほしい。連中は2手に分かれて挟撃するつもりだ。]

〈了解した。〉

 岩本中尉の声が電気信号に変えられ、それがスピーカーを揺らし、鼓膜を叩いた。暗闇に支配された空を切り裂くように飛ぶ紫電改の4機編隊は、空に浮かぶ何かと交戦した。

 [AWACSドラゴンアイ、方位045より敵編隊接近。高度3000フィート。数40以上。…だめだ、多すぎてレーダーが処理しきれない。]

 俺はその通信を聴いて、顔を青ざめさせた。

AWACSは種類にもよるが、最大探知可能目標は200以上あるが、300以上は電子機器がフリーズしてしまう。

最悪は、電子機器のソフトウェアが強制終了されることも考えられるのだ。

 [こちらドラゴンアイ。情報が処理しきれない。各自の判断で迎撃を継続してくれ。]

 俺は覚悟を決めると、無線を通じて僚機たちに知らせる。

〈こちらフェニックスリーダー。各機へ。全機突撃の用意を。〉

[了解。ひと暴れしますか。]

らせんを描くようにロール機動。360度回って水平になった時、スロットルレバーをリヒーターを使用しない最大出力まで叩き込む。

 徐々に降下しつつ接近し、敵編隊に対し機関銃のトリガーを引いた。

機首を左右に振り、弾丸をばらまく。

 瞬く間に10機以上が落ちた。僚機のうちミライは後ろを守るようについてきている。ヴェールヌイとアサギリは高度4000フィートで警戒をしているようだ。

上方から急降下してきた敵機に対し、短距離空対空ミサイルを用い叩き落す。

真下から食らいつかんとする敵機は、ミライによって落とされた。

 だが、たった4機で100倍以上の戦力差を覆せる訳がなく。

弾薬が底をついた。光学兵器はレンズ部分が致命的な損傷が発生したため使用不可である。

〈フェニックスリーダーより各機へ。撤退だ。進路を190に。〉

[2、了解。][3了解。][4了解]

[こちらドラゴンアイ。迎撃のためさらに2個飛行隊が方位190より接近中。ぶつかるな。]

 [こちらヘイ隊。ただいま救援に到着した。これより反撃に移る。]

友軍編隊はどうやらヘイ隊らしい。

[こちらヘイリーダー。全機、大槍を放て。]

[2了解。][3了解。][4了解。]

正面から飛来し、すれ違った後に編隊が放ったのは、空対空大型ミサイルだった。

原形のミサイルはハープーン対艦ミサイル。しかし、その弾頭は多弾頭式のサーモバリック弾頭である。その名はヘーパス(破壊)だ。

元々は雲霞が如く迫りくる自爆無人機の迎撃のために開発された代物であり、目標の100手前で弾頭が拡散。到達後にその空間をアルミニウムの粉塵爆発で制圧する。

 これが敵機群に向けて放たれたのだ。

[現在順調に飛行中。弾着まで残り1分。]

1分後、後方でオレンジ色の火球が空の一部を一瞬だが占領した。

[こちらドラゴンアイ、敵編隊軍の一部がレーダーから消失。]

[了解、2の槍を放て。]

 その後、複数にわたってオレンジの火球が空に現れた。

そのたびに敵機が減っていく。

3度目の攻撃により、敵の航空戦力は文字通り全滅した。

♢ 

 夜が明け、航空隊が本部基地に次々と着陸していく。

俺はそれを地上から見ていた。太陽が顔をのぞかせる前に、我々は基地で待機命令を出された。

 今現在、大陸の組織が民兵組織に類似したものを組織して必死に抵抗している。昨日だけで地上では多くの死者行方不明者が出た。

その多くが無抵抗な民間人だったという。村落だけでも100以上が魔物の海の中に消えたらしい。

 現地には有馬大尉をはじめとした多くの人員が偵察活動を行っている。

だが、彼らにも引き上げ命令が出された。これ以上留まれば無用な死者を出すことになると。

 また、現地の住民が張っている防衛線のさらに後方に、我々の構築した防衛線が存在する。避難民はここを経由し、南部の海岸に接岸中の空母などに乗り込んで避難する手はずとなっている。

 そして、今回の戦闘では死者5名。負傷者10名が出た。

死者は全員が陸上部隊の歩兵。負傷者も同じだった。

篠田栄一、志摩陽介、海山仙蔵、多田野幸三、江田健三の5名。

仮山一郎、八重島啓介、日野賢哉、舞山久三、友永悠人、アーサー・ルマン、

伊吹洋介、久佐賀順三、美島国勝の10名。

まず死亡した5名は加山一郎率いる分隊の斥候として村落を巡回していた。

村落に侵入した後、物陰に隠れていたゴブリンの攻撃を受け篠田、志摩が刺殺される。

 これに対し残る海山、多田野、江田が反撃を開始したが、背後から迫っていたオークの強襲を受け、頭を強く打ち死亡。

直後に仮山隊長率いる20名の分隊が突入。オーク3体とゴブリン10体を射殺。

しかし、ゴブリン、オークの反撃を受け、先に述べた十名が負傷した。

けがの程度で最も重かったのは仮山隊長で、オークの打撃を受け肋骨を複数本複雑骨折。その他はゴブリンの矢を受けるなどしての刺傷である。

 俺たちは、この世界の出来事をただの漫画の様に見ていた節があった。

だが、今回の件で思い知ったのだ。今までが異常であっただけで、これが正常な戦争の形なのだと。もうもはや、他人ごとではないと。

 それから数か月にも及ぶ、魔物との苛烈な戦争状態に突入した。

それは大陸各所に屍山血河を築き、人々に癒えぬ傷跡を残した。

 融合前大戦。そう後の世で語られる戦争の幕開けだった。

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