表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/27

転移前夜

1,西暦2035年1月3日午後6時

日本国和歌山県串本町


 その場に1つ、古民家が建っていた。恐らく築100年以上のものだろう。

古民家の縁側に1人の少年が座布団の上に腰を下ろしていた。少年の容姿は背が中ぐらい(168㎝)で烏羽色の髪を刈り上げにしている。体自体はがっちりとしており、よく鍛え上げられている。その瞳の色は灰色がかった鳶色である。しかし、その眼には何も映っていないように見える。顔は御世辞にも格好いいとは言い難い童顔であった。着ている服は上下ともにジャージ(両方とも長袖)でその上に、青のロングコートを羽織っている。「おい、鷹坊。家に入れ。風邪ひくぞ。」鷹坊と呼ばれた少年は声のした方を見る。なにも見えていない様、感情のない少年の瞳がとらえたのは、1人の男だった。

 その男、田中弘治はまさにおっさんであった。顎に生えた無精髭、ぼさっとした髪。そして、気だるそうな目。だが、その眼の奥には鋭い光があった。この男の過去は誰にも分からない、なにか恐ろしい事にでも巻き込まれたのだろうか。着ている服はシワシワだが、不自然にパリッとした箇所がある。アイロンか何かが掛けられていたのだろう。

「今行く、おやっさん。」「なんでおやっさんなんだよ。」「なんとなく。」

この様やり取りをした後、鷹坊…八重島鷹は家の中に入って行った。

俺―八重島鷹―は未だに、過去に囚われている。

彼女―白波瀬文の笑顔を忘れられない。

 自分が嫌いだ。過去の人間にばかりしがみつく。

俺は失ってから気が付いた、彼女に惚れこんでしまったのだと。だが、時は戻せない。幾ら悔やんだ所で、何も起きないのだ。

 そして、何も感じなくなった。

食事はまるで泥を食べているかのように。

視覚はセピア一色に。

匂いは無くなった。

感情も殆ど無くなった。

だが、彼女の事に関しては怒りを覚える。

 だからだろうか、今、目の前にいる養父…田中弘治(俺はおやっさんと呼んでいる。その呼び方がしっくりくるのだ。)を信頼できるのは。

 彼はこちらに対しては基本的には不干渉だ。

それが何よりもありがたかった。

 だが、思考は打ち切られる。

「鷹坊、お前はもう寝ろ。明日は早いのだろう。」「え?」

俺はそれにうまく反応することができず、間抜けな返事をしてしまった。

確かに夕飯は食べたし風呂にも入り歯磨きもしたが、まだ早いのではないか?その疑問を口出そうとしたが、あれよあれよという間に布団の上に寝かされてしまった。当然掛け布団を被せられた状態で、だ。もうこうなっては寝る他ない、目を閉じそのまま寝た。

その後に待っている結果を知らずに。

だが、俺たちは知らなかった。もうすでに自分たちがとある異変に巻き込まれているのを。

そして、その当事者になるとは。この家にいる人間全員が誰も思っていなかった。


かくして、始まったこの物語は。奇妙な冒険でもあり、世界を本格的に混乱へと導く始まりの角笛の音でもあった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ