ある日の日常 岩本中尉の場合
某日 大陸拠点
空気を切り裂く起床ラッパの音で、私は目を覚ました。
ベッドから跳ね起き、19年式飛行服(夏服)に袖を通す。
グランドに向かって走っていくと、今日は非番の日だったとある人物の指摘で思い出した。
「岩本中尉、貴官は本日非番の筈では。」
「それは貴方もだろう八重島大尉。」
つい先日私たちは友軍と合流、一部施設を借りて生活している。
彼らは私たちの生きた1945年から約90年後の日本人だというが、今のところさしたる問題は発生していない。
私に声をかけてきたのは八重島鷹大尉、一個飛行隊を任されている人物だ。
彼の実力は、その年齢相応の者だが、天才の片鱗がうかがえた。
共に朝のラジオ体操を済ませた後、食堂で朝食をとり、待機室に向かう。
ここ数日は飛行訓練等もなく、所謂骨休めの期間であった。
しかし、機体の状態はやはり気になるのだ。
10時ごろ、同室のルーデルと菅野大尉が機体の様子を見てくると言ってハンガーに向かった。
そして昼前、八重島大尉が部屋を訪ねてきた。
彼が持っていたのは一冊の本。その名前は”零戦の真実”だった。
私はそれを読みふけった。
♢
その後の数週間は、まるで平穏な日常だった。
しかしそれは、嵐の前の静けさだったのだろう。
あの戦場がよみがえるまで、あと僅か。