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友軍の合流と有馬大尉の報告

 筆者の都合により、長らく執筆の方が停止していました。

この場をお借りして、お詫び申し上げます。

今後数話程度で完結予定です。

 同年(2035年)6月2日 0900 大陸拠点”ライター”


 その日、朝早くから基地は騒がしかった。

「スクランブルか。」

アラームの種類で、それが分かった。

俺は、”アイアンブリザード”の後2日間の休暇を言い渡された。

これは作戦参加部隊全員に通達されたのだが、アラームによってのんびりとした雰囲気は無い。

 しかし、それもすぐに収まった。

だが、何か面白そうな事が起きる様な気がした。急いで飯を食いきる。

直ぐに外に出て、滑走路の見える位置に移動した。

そして、それが見え始める。

 双発の機体だったが、その機体には日の丸が描かれていた。

「馬鹿な。百式司令部偵察機だと。」

隣に居た鋪野曹長は驚いている。

そのまま滑る様に基地滑走路に着陸した百式偵は、誘導路をタキシングした。

 そして、キャノピーが開く。

中から出てきたのは、まだ若い男性だった。

彼は近くに居た兵士たちに囲まれているが、一切動揺を見せていない。

風に乗って聞こえてくる会話は、分からない。

 しかし、兵士の内の1人が無線室に入って行ったのを見て、なにか重要な情報を持っている存在である事が分かった。

 数十分後、ラファールがハンガーから引き出された。

コックピットの形状から見て、複座である事は間違いない。カラーリングは、濃い灰色が全体を覆っている。

 それはエンジン音を響かせ、蒼弩の空へと舞い上がった。

俺は急いで自室に戻ると、僚機達を集めた。

あの話は直ぐに広まったらしく、全員が直ぐに集まった。

「非番の時に集めてすまないが、気に成る事が有った。

この基地に百式司令部偵察機が着陸した。パイロットはラファールに乗り換えた後、恐らく本部に向かった。皆の意見を聞きたい。」

そう言うと、まずミライが反応した。

「それに就いてだけど。彼は敵では無いよ。多分だけど、私たちと同盟を結ぶためにここに来た。」

そう言って、虚空に目を向けるミライ。

「…彼の名前は吉良幸助。2029年に亡くなっている。

その後、人類存続派の神の手によりこの世界に転生した。

 その時に、時代を超えた人員の確保に奔走した。

菅野直、ハンス・U・ルーデルを始めとした複数の大戦期の軍人も複数確認できている。」

ミライのその情報は、俺の手に負えない物だった。

「ミライ、その情報は本当なのか。」

代わりに答えたのがヴェールヌイだった。

「俺の方でも確認したが、間違いない。実際にそれが映っているからな。

若しかしたら、今後彼らと共に行動する事に成るかも知れない。」

そう言いった後、彼はコーヒーを啜った。

 同日 1500 大陸拠点”ライター”


 午前中に起こったそれの意見交換の後、部屋でゆっくりと過ごしていた。

俺は本を読みながら、ぼんやりと考え続けていた。

(やはり、この世界は分からない事だらけだ。時を超えて軍人が現れるのは、想像しにくいが。やはり。)

俺は前々から教えられていた視界の端に浮かぶそれ、を見る。

それはまるで、航空機のヘッドマウントディスプレイの様でもあった。

四六時中視界に映り込み、飛行中も消える事は無い。

(確か、鋪野曹長はそれに意識を集中させればいいと言っていた。)

 俺は覚悟を決めた。

数秒意識を集中させると、視界全体に文字が映し出された。

ネット掲示板の見出しが羅列されているかのようだった。

 視線を泳がせると、ある文字列を見つけた。

それに再び意識を集中させる。

 数秒後には、高速で流れていく文字列が視界を支配した。

識別するためのIDが、名前が次々と流れていく。

スレッドを立てた人物のみが、赤い字で記されていた。

’成るほど、つまりイッチさんは兵站面から見て彼らと協力関係を結びたい訳か。’

’そういう事だ。これで漸く、一安心といった具合か。こっちに来て6年。漸く安定した補給が確保できた。’

 それはどうやら、転生者同士の会話らしい。

他にも幾つか見たが、どれも似たような内容だった。

 さて、他に面白そうな記事が無いかを探していると、ある文字が目に映った。

”世界融合まであと僅か。どうすれば人類滅亡は回避可能か。”

そう題されたスレッドには、もう既に多くの転生達が書き込みを始めている様だ。

高速で流れていく文字は、不安に満ちた物が多い。

’今回のは、最も大規模かつ未曾有のそれと成る。地震や津波が発生するだろう。’

’それに、魔物の大量発生も予想される。キュラームの対策は。’

’取り敢えず、今は備蓄を最優先にしている。それから、先に転生した人達との協力も緊密にしているよ。’

’そうか。後は地球だが、本当に大丈夫なのか。’

’ああ、付喪神と協力して避難民を運ぶための大型船を複数建造中だ。

魔物に対しては、術師達が何とかしてくれるよ。それに、異世界出身の魔術師も居る。’

 明日に備え、意識をそれから別の物に向ける。

すると、視界を覆っていた文字が掻き消えた。

少し驚いたが、明日以降は波乱に満ちた時間を過ごす事に成るだろう。

瞼を落とすと、一瞬にして意識が落ちた。

同月3日 0600

 起床ラッパと共に、レシプロエンジンの咆哮が鼓膜を叩いた。

慌ててベッドから飛び降り、フライトスーツに着替えてハンガーに向う。

その途中、ミライから走り書きを渡された。内容を走りながら理解し、覚える。

「鋪野曹長、このエンジン音は。」「坊主、外見ろ外ッ。」

鋪野曹長に開け放たれたハンガーの扉から外を見るように言われて、見る。

 そこに見えた景色は、その焦りを十分に証明するものだった。零式艦上戦闘機(ゼロ戦)や紫電改が、そのエンジンを咆哮させていたのだから。紫電改は1機、ゼロ戦は3機も存在している。(型式は不明だが、64型?)

更に言えば、その隣にFw190G8が見えた。

 エンジンの唸りが収まり、キャノピーが開く。そして、それぞれの機体から、搭乗員がおりてきた。総勢5名のパイロットが、我々に対し敬礼をしてきた。俺もそれに答礼する。そして、1人が目の前に歩いて来た。

「お出迎え感謝します。私は岩本徹三中尉。戦闘機乗りです。これからお世話になります。」

「私は八重島鷹大尉。貴殿らの案内を受けたものだ。割り当てられた部屋に案内する。」

メモに書かれていたのは、増援が到着するため、彼らの部屋を案内しろと言う内容だった。

彼らに割り当てられた部屋は、最高の環境となっている。

後に分かったのだが、紫電改に搭乗していたのは菅野直中佐、ゼロ戦に乗っていたのは先に述べた岩本徹三特務中尉のほか、坂井三郎中尉、西沢広義中尉だった。Fw190に搭乗していたのは、”ソ連人民最大の敵”と言われたハンス=ウルリッヒ・ルーデル大佐だった。

また、本部においても同様に友軍戦力として福本繁夫、上坊良太郎、檜與平、加藤健夫、竹内正吾、南郷茂章、南郷茂男、武藤金義他100名が到着している。

 空母飛龍乗組員などを含めると、総勢4000名以上の旧日本軍の軍人が異世界に転生した事に成る。

 その後、彼らは第一遊撃飛行隊としてこの基地に駐在する事に成る。

また、後に部隊の愛称も決定された。

その名は”太刀風”である。

 「そうか、有難う。…君も、戦闘機乗りか。」

部屋の前に着いた時、岩本氏がそう話しかけてきた。

俺は肯定した。

「そうだ。貴方の乗っている機体とは違うが。」

岩本氏は、俺にこう言ってきた。

「その機体、見せてくれるか。」

 俺は快諾したが、基地司令との交渉で時間がかかる旨を伝えた。その上で、彼らの事情なども考慮し、1時間後に迎えに来ることを伝えた。

 1時間後、基地司令から許可をもらった後、俺は岩本氏を迎えに部屋の前に来た。

部屋をノックすると、その人物はひょいと顔を出した。

見ると、彼は飛行服から綿のシャツとズボンに着替えている。

「少し歩くが、大丈夫か。」

「ああ、それから、他の連中も見たいと言っているが。」

「大丈夫だと思う。取り合えず、道中で色々話そう。」

 それから、駐機スペースに向う。

道すがら、俺がこの世界に来た出来事や、空母飛龍、二航戦指揮官である山口多聞と邂逅した事。そして、この世界で再会したある少女の事も。

「君はただの一般人で、この世界に来た時に当たり前の様に戦闘機に乗っていた。以前の世界ではゲームしかしていなかったが、そのゲーム内と同様以上の動きを現実でもできるようになった。という事か。」

「そういうことになる。私自身、俄には信じがたいことだが。」

俺がそう言った直後、目的地に着いたらしい。

「この機体が、そうなのか。」

岩本氏と菅野氏は、その機体を見て驚いている。

それはそうだろう、プロペラがなく、武装らしい武装も見当たらないのだから。

YF23グレイゴースト。米国の試作第5世代機だ。しかも、俺個人用にカスタマイズされた代物である。

「俺が普段乗っている機体が、これだ。」

「…、コックピットを見ていたいのだが。」

俺は近くにある梯子をコックピットの縁にかける。

「ここから登ってくれ。計器類の説明をするから。」

岩本氏は早速梯子を上り、コックピットに座った。

「この機体、計器は存在するのか。」

「少し待ってほしい。APUを起動して電力を確保する。」

スロットルレバー近くにあるAPU起動レバーを操作した。

すると、低い唸りが機体後部から聞こえてくる。

 岩本氏の目の前にある、黒いデジタルパネルに光がともり始めた。

「これで、計器の類が見れる。武装の確認もできるぞ。」

そう言うと、岩本氏はこちらを見てこう言った。

「詳しく頼む。」

 それから一時間、機体各所のセンサーや部隊章の由来なども事細かに説明した。

武装で特に驚かれたのがレールガンで、大和型戦艦の一部装甲を貫徹可能であると伝えると、ルーデル大佐含め皆目を丸くして驚いていたのだった。

 そして夕食時、部隊全員で食堂に向う途中。

「さっきぶりだな、八重島大尉。」

「岩本中尉。」

後ろから声を掛けられ、俺は振り向いて声を漏らす。

岩本氏の後ろには菅野直中佐、坂井三郎中尉、西沢広義中尉、ハンス=ウルリッヒ・ルーデル大佐の姿があった。

「なあ、彼らは。」ヴェールヌイが耳打ちする。

「今朝到着した友軍だ。総撃墜数は200前後。」

俺は小声で返した。ヴェールヌイは驚いて、彼らをまじまじと見た。

 ヴェールヌイの様子を見て、菅野中佐がすっと目を細める。

「なあ、あいつはケンカを売っているのか。」菅野中佐が西沢中尉にぼそりといった。

「やめろ菅野。ここで下手な事は止せ。」制止する西沢中尉。

 俺はすぐに謝罪した。ヴェールヌイの頭も同時に下げる。

「部下が失礼をした。申し訳ない。」

その後に、今まで一度も声を発さなかった人物が声を上げた。

「いや、こちらこそ申し訳ない。それに、これから共同戦線を張る仲間なのだから、こちらこそすまなかった。」

一歩前に出てそう言ったのは、意外なことに坂井中尉だった。

 数分もすれば、緊張状態も収まった。さらには、夕食後に談話室に行って話をしようという約束も取り付けることに成功した。

 夕食後、談話室にて。少し、いやかなり気まずい雰囲気となっていた。

各々がここに来るまでの経歴などを話したのだが、暗い雰囲気になりだしたのがヴェールヌイのそれからだった。

 ただし、それだけの経歴ではあったが。

まず、ヴェールヌイは元空自アグレッサー所属のパイロットだった。

だが、ある日の訓練中、ミサイルを誤射してしまう。

そのミサイルは吸い込まれるようにコックピットに命中。

パイロットは緊急脱出できず、墜落。

またパイロットの身元を示すものは一切見つからなかった。

そして、その相手のパイロットが、現TACネーム”アサギリ”こと柿沢政教3等空曹であることも。

 彼は刑事告発され、獄中で6年以上を過ごした。

出所後も、”人殺し”の汚名は付いてきた為、身分を隠して生活するしかなかった。

そんな中で出会ったある一台のゲームで、彼は仮初とはいえ再び空に戻ってきたのだ。

 そして、今に至る。

 それに引き続いて、今後は”ミライ”が話し始めた。

学校での壮絶ないじめ。俺との出会い。そして、自殺に見せかけた他殺。

この世界に転生し、はじめのうちは冒険者たちと共に行動したこと。

そして、”ソオコル・ラリエリ”に合流したことも。

 「…苦労していらしているのですね、皆さん。」

穏やかな口調でそう言ったのは、菅野直中佐だった。

それ以外の岩本中尉らは、真っ赤に目をはらしてすすり泣いている。

しかし、ふと時計を見た坂井中尉が表情を一変させた。

「まずい。消灯時間です。」

時計を見ると時刻は1900だった。俺たちはすぐに自室に向かって走った。

部屋に到着した直後、すぐに明日の予定を確認。

「4日後0000より、迎撃訓練だと。しかも友軍部隊と共同で。」

急いでパイロットスーツの点検を行い、すぐに布団にもぐった。

♢ 

 4日後0000

 ハンガー内に駐機してある機体に乗り込み、迎撃のためいつでも離陸できるように待機した。

まだ目覚めてから2分程度であり、眠気が未だに食らいついている。

[こちら管制塔。訓練開始。]

 しかし、今回は恐らく日の出とともに敵機が飛来するはずだ。

そして、待機から7時間後。

[現在本基地より方位004、距離500000の位置に、機影6を確認した。これをアルファと呼称する。直ちに迎撃に入れ。繰り返す、…]

その声で一気に眠気を吹き飛ばし、エンジンを起動した。

『こちらフェニックス1、管制塔へ、離陸の許可を。』

[フェニックス隊の離陸を許可する。友軍部隊はフェニックス隊の後に離陸されたし。]

[こちら第一遊撃飛行隊、了解した。]

無線機の奥から英語が聞こえた、声から察するに菅野中佐だろうか。

そんなことを思っていると、機体はすでに滑走路の端にいた。

後方には寮機たちもズラリと見える。

[フェニックス隊、これより離陸する。]

〈各機、レーダーで目標は探知できているな。〉

レーダースコープ上には、今回訓練をする的が表示されている。

今回は実弾訓練だ。

[フェニックス2、レーダーロック完了。FOX1]

[フェニックス3、FOX1。]

そして、それぞれがミサイルなどを発射した。

 しかし。

[ミサイルロスト。迎撃された模様です。]

[命中したのは、隊長のレールガンだけですね。どうします。]

〈了解。上空から一撃離脱だ。機関砲と短距離空対空ミサイルで仕留める。〉

[こちら02了解。]

[03了解。]

はるか下に見える目標に対し、機体をひっくり返し一気に降下する。

25ミリ機銃用の照準に変更し、確実に当たる距離まで近づく。

 そして、照準一杯に目標が入ると同時に発射ボタンを押した。

火を噴いて落ちていく標的。後続の僚機たちもすべて撃墜したようだ。

 しかし、これで訓練終了ではない。

[こちら管制塔、基地より方位197より接近する目標を探知。数は6。パープルと呼称する。高度3000。直ちに迎撃せよ。]

〈フェニックスリーダー了解。地上警戒レーダーからの探知情報を基に迎撃する。〉

一気に機体を翻し、方位197へ。上昇しながら接近する。

火器管制用レーダーが目標をとらえたのはたった数秒後のことだった。

〈フェニックス1、ガンファイア。〉

[フェニックス2、FOX1。]

[3FOX1。]

 しかし、再びレーダー上のミサイルが消失。

[隊長。やはり近接戦しかないようです。]

ミライの覚悟を決めた声に、俺は肯定した。

〈各機、格闘戦用意。ガンキルでやるぞ。〉

[こちら管制塔、新たな目標を探知。方位355より接近する19の目標を探知。以降はブラボーと呼称する。迎撃せよ。]

[こちら友軍編隊、こちらがブラボーを迎撃する。]

[管制塔了解。]

 新たに出現した目標に対しては、友軍機が対応した。

〈フェニックスリーダー、ガンファイア。〉

急降下しつつレールガンを放つ。撃墜。僚機たちも次々と撃墜していく。

全機撃墜した直後、管制塔より通信。

[こちら管制塔。さらに目標を探知。方位111、高度2万6千フィート。方位099、高度6000フィート

111をスペクトル、099をガッドと呼称する。フェニックスはスペクトル、友軍部隊はガッドの迎撃に移れ。また、両目標は非常に強いジャミングを伴って接近している。警戒してほしい。]

[こちら友軍編隊、了解。]

〈こちらフェニックス1了解。〉

データリンクからの誘導に従い、目標地点まで上昇しつつ接近。

 しかし、目標に接近するにつれレーダーでの探知が困難になっていった。

〈フェニックスリーダーより各機へ、FOX1。〉

コールしてAIM120D6を放つ。

AIM120D6はAIM120Dのさらなる改良型であり、主に威力が向上している。

撃ちっ放し能力を備え、またジャミング源を優先的に狙う様にプログラムされていた。

数秒後、正確にジャミング源を打ち抜き、ジャミングは沈静化。

火器管制用レーダーを用いて残る目標をロックオン。レールガンの最後の一発を放ち、残りはレーザーで焼き切った。

 それから数時間後、会議室にてデブリーフィング。

友軍機搭乗員も交えた反省会。

 ようやく終わったのが、空が夕焼けに染まるころだった。

 友軍の合流以降、休暇が合った場合などは映画の鑑賞などをするなど積極的に交流。また、訓練でも連携の取れた動きをこなせるようになっていった。

 しかし、不穏な雰囲気は大陸各所において観測され続けている。

同年(2035年)8月2日 0900 大陸拠点”ライター” 

 友軍が合流して2か月。

副官としてヴェールヌイを連れ、俺は本部にいた。

定期的に行われる情報部隊の報告会に参加するためである。

「お久しぶりです、山口少将。」

「…久しぶりだな。」

転移した直後、お世話になった山口多聞海軍少将と再会。

報告会が行われる部屋の中で、俺は山口少将と近状の報告をした。

 山口少将は、最近は飛行隊の練度向上のために訓練を行っているという。

だが、最近は海洋に生息する魔物との戦闘が多発しているらしく、その対応に相当苦労しているようだった。

 そうして、こちらの近状なども言ったのだが、相当驚いていた。

「あの岩本君か。そうか。」

そう言った山口少将は、こういった。

「彼らにこう伝えてほしい。帝国海軍未だ滅びず。と」

俺はそれにはっきりと肯定した。

 そして、報告会の始まる時間となった。

 「では、これより定期報告会を始めます。有馬大尉。前へ。」

壇上に上がった有馬大尉は、一つ大きく息を吸い込んだ。

「我々の最新報告書が、あなた方の手元にもあると思う。また、その他の情報から多角的に分析した結果。魔物の大量発生は来年1月ごろに発生すると結論が出た。これは衛星写真からも間違いない事実だ。

さらに、現地協力者の中で未来予知が出来る者に依頼したところ、火の海となる街並みが見えたと言っていた。」

 部屋の中は静まり返っている。

「避難民受け入れの準備も進めている。現状、我々が取れる手段はたったそれだけだ。魔物たちの支配地域は、現在は我々が進出できない場所に存在する。

 今後、情勢の変化が起こる可能性は十分ある。この為、現在関係各所で様々な作戦のシュミュレーションを行っている。」

 そう言った後、有馬大尉はぐるりと見まわしていった。

「これで、報告会を終わる。何か質問は。」

 真っ先に手を挙げたのが山口少将だった。

「ではまず、最近になって魔物の活動が活発化しているのはそれが近いのが原因か。」

「はい。”アイアンブリザード”決行の原因もあれは予兆の一つなのではないかと。」

「ありがとう。」

「では、私からも質問よろしいか。」

そう言ったのは、護衛艦”わかば”だった。

彼女の服の下からは相変わらず包帯が見える。

「最近、海棲の魔物と戦闘になることが多くなった。これも予兆なのか。」

「はい。すいませんが、後で交戦記録の提出をお願いできますか。もしかしたら我々の予想を超える事態になる可能性もありますし。」

「わかりました。」

 その後、航空偵察部隊による赤外線解析などの結果報告なども行われた。

その結果明らかになったのは、魔物の大群は大陸北端から侵攻を開始する可能性が非常に高い事。

現状、安全地帯はここ本部がある島嶼部であることだった。

 総帥など首脳陣は、各国との交渉に移ることとなる。

交渉内容は、避難民の受け入れ、及び魔物の大規模侵攻が起こった際、滑走路などを領土に建設させる許可などである。

 本部から大陸にある拠点に帰還後、僚機たちと情報を共有した。

「共有したい情報がある、今話そうと思うが大丈夫か。」

夕飯までの自由時間、丁度全員が部屋にいたため、すぐに話す事が出来た。

「有馬大尉の報告書を見てくれたら分かると思うが、現状、我々のみでは魔物の大軍勢を撃破することは難しい。

この為、合流した友軍との連携を密にして今後行動する必要がある。」

そう言うと、ミライが口を開いた。

「しかし、友軍部隊は二次大戦期の航空機のみを装備した部隊がほとんどです。言い方は悪いですが、連携は絶望的です。」

「いや、低空より接近する目標は彼らに任せよう。我々はおおむね高度1万9千フィート(高度6000m)以上の目標をつぶせばいいと思う。これは以前の訓練でも証明されたことだ。

連携に関してはAWACSとの通信で何とかなるだろう。

彼らの飛行技術があれば、敵航空戦力を低空に誘い込む事が出来る。

そして、一か所に固まったところに空対空ミサイルを放てばいい。当然、彼らが離脱した後にな。」

ミライの見解に反対したのは、ヴェールヌイだった。

彼の意見は、確かにそうだという説得力があった。

「だが、上手くいくのか。下手をすれば彼らの怒りを買うことになるぞ。」

俺がそう言うと、ヴェールヌイが痛いところを突かれたという風な表情をした。

 「どうするかは、彼らと相談するしかないな。」

そう言ったアサギリは、コップの中に入れたコーヒーを飲んだ。

 その日は特に何事もなく、夜を迎えた。

 数日後。

再び戦闘飛行訓練を共に友軍部隊と行った。

結果としては、やはりある程度の分担が出来ていた。低空の目標は基本的に友軍部隊が、高高度に関しては我々が、という風に。

 また、彼らの練度自体が非常に高いため、同数の編隊であれば5分以内に全機撃墜という事も珍しい事ではなかった。

訓練終了後、俺は岩本中尉に聞いてみることにした。

「岩本中尉、少しよろしいですか。」

「なんだい、八重島大尉。」

「レーダーのデータとかはどうやって共有しているのですか。」

「ああ、それはこれを使っているからだよ。」

そういって見せてきたのは、ただのタブレットだった。

それは軍のデータリンクに接続され、レーダーサイトからの情報を確認できるようになっていた。

友軍(自軍)の配置も一目でわかるようになっている。

「これは…。」

「これがなければ、我々が君たちと肩を並べて戦うこともできなかっただろう。」

そう言った後、彼は俺の目を見ていった。

「低空の目標は我々に任せてほしい。君たちは高高度の目標を撃破してくれ。」

俺はその言葉に肯定した。

「岩本中尉、それは大変心強い言葉だ。ありがとう。

…、そうだ、あなたに伝言がある。帝国海軍未だ滅びず。とのことだ。」

それに驚いた岩本中尉。その言葉の主を教えてほしいと頼まれたが、俺はあえて濁した。

「誰なんだ。その言葉を言ったのは。」

「彼は猛将と言われた人だな。」

俺がそう言って、空を見上げる。空は、雲一つ存在しない晴天だった。

北に連なる山脈を見れば、時折竜が飛び立つのが見えた。

 隣の岩本中尉を見ると、何かに気が付いたような表情をしていた。

「なあ、八重島大尉。」

「何でしょうか、岩本中尉。」

「まさか、山口多聞少将ではないのか。その人は。」

「正解です。」

そういうと、岩本中尉はすぐに菅野大尉らを大声で呼び寄せた。

「邪魔になるので、自分はこれで。」

「…、ありがとう。」

 俺はその後、僚機たちと合流。全体の動きの最適化などを話し合った。

「ヴェールヌイの援護がなければ、やはり全体の動きが悪いな。特に格闘戦中の援護指示が課題だ。」

「いや、ヴェールヌイが上手すぎるだけだ。君も十分すごいぞ。」

 空戦中の、特に格闘戦に入った際は管制がうまくできない。

理由は体に大きな加速度が加えられるためだ。

頭を上に、足を下にして航空機には登場する。結果として、血液が足側に集中し、脳に血液が行き届きにくくなる。

そうなると、脳は活動を制限せざる負えなくなる。

 このために、格闘戦中の指揮は殆どできない。

 しかし、僚機であるヴェールヌイはそのような状況下でも淡々と指示を出している。

このため聞いてみたのだが。

「ヴェールヌイ、格闘戦中の指示を行う上で留意すべき点はあるか。」

「慣れだ。サガミはまだ飛行時間が短いだろう。」

「そうか。」

 翌日以降、俺は空戦訓練を週に5回実施するようにスケジュールを変更した。ヴェールヌイたちはげんなりした顔でそれを受け入れたが、俺の指揮能力は大幅に向上したのだった。

 また、岩本大尉らは数日後に山口中将と面会。

山口中将らは吉良幸助と協力関係を結び、それぞれの情報交換などを行った。

 そして、2036年。ついに魔物の大侵攻が始まる。

 




 

















 この後は数話ほど日常回を挟んだのち、本格的な戦闘に入ります。

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