大規模作戦
新規キャラクター登場します。
そして、あの人も登場です。(魔王)
同年5月29日 2000 大陸拠点”ライター”
その日、鋼の凶鳥は飛び立った。
高らかにその咆哮を響かせ、その翼に死を侍らせ飛翔した。
目指す先は山々のすそ野。そこにある魔物たちを焼き尽くし、その腹を赤く染める為に。
♢
俺は、切り裂かんばかりの冷気に充てられていた。
ジャケットを着込み、鋪野曹長と話していた。
「八重島中尉、機体の武装はこれで大丈夫か。」
「問題ない。主翼下に250㎏誘導爆弾4つに、57㎜レールガン、500mwレーザー2基。
サイドワインダー4発にセミアクティブ誘導方式のミサイル4発。
機銃弾は満載状態だろう。完璧だ。有難う。」
「よせやい。俺の戦場はハンガーだからな。この位で来て当然だ。」
そう言うと、鋪野曹長はばしばしと背を叩いた。
まるで、確りやって来いと言わんばかりに。
「サガミ、こっちの武装は大丈夫だ。何時でも離陸可能だぞ。」
そう言ってきたのは、ヴェールヌイだった。
彼の後ろには、アサギリがその青い髪を風に靡かせ立っていた。
「私の方も、武装と機体は万全の状態だよ。それと、先行部隊はもう既に行動を開始している。」
そう報告してきたのは、ミライだった。
俺はそれに一つ、頷いて返すと言った。周りのエンジン音に負けない様に。
「それでは、フェニックス隊もこれより離陸する。総員搭乗ッ。」
たったそれだけで、全員が機体へと走り出す。俺も自分の機体に乗り込んだ。
エンジンを起動し、管制塔に無線を繋いだ。
〈こちらフェニックス隊。管制塔へ。こちらは離陸準備が完了した。指示をこう。〉
[フェニックス隊はすぐにでも滑走路A1より離陸せよ。ローリングテイクオフを許可する。]
〈了解。フェニックス隊はA1よりローリングテイクオフを行う。各機よろし。〉
[[了解。]]
エンジン推力を上げ、誘導路を滑走する。
滑走路の端に着いた時、全機が編隊を組んだ様に成っていた。
〈フェニックス隊、これより離陸する。〉
エンジン推力を最大まで上げると、機体はみるみる加速した。
だが、中々機体は離陸しない。
水メタノール機を起動し、エンジン推力を更に上げる。
滑走路の端ぎりぎりで、機体は舞いあがった。僚機たちはも同様に舞い上がる。
[フェニックス隊の高度制限を解除する。グッドラック。]
管制塔の無線に、翼端を振って答えた。
機体を引き起こし、エンジン推力を下げる。
高度32000フィートまで、じりじりと機体を上昇させていく。
高度32000フィートに達した時、無線機が反応した。
[こちらタンカー3、フェニックス隊へ。貴編隊に対し、空中給油を実施したい。]
まだ若い男性が、無線機越しに話しかけてきた。
〈了解した。貴編隊の位置を。〉
[レーダーで確認できないか。周りに6機護衛が付いている。]
〈確認した。フェニックス隊全機。これよりタンカー3から空中給油を受ける。良いな。〉
俺は無線に言うと、僚機からは了承の声が帰ってきた。
〈アサギリから、サガミ、ミライの順で良いか。
[了解した。では、フェニックス2から行きます。次はサガミ、ミライの順で。]
〈了解。〉
燃料計を見ると、殆ど燃料が無い。後飛行可能なのは僅か4分程度だろう。
[こちらタンカー1、燃料残量が心もとない機はこちらに来てほしい。直ぐに給油を開始できる。]
その無線に、俺は直ぐに応答した。
〈こちらフェニックス1、燃料残量が少ないため、タンカー1に給油をお願いしたい。大丈夫か。〉
[了解した。フェニックス1、こちらは準備完了した。急いでくれ。]
〈了解。〉
俺はそう言うと、タンカー1へと機首を向けた。
見えた機体は、KC767輸送機だった。日本の採用している輸送機兼空中給油機だ。
原型が彼の767である為、機動性も高く、更に居住性にも優れていた。
機体上部にある給油口を開け、タンカー1の下に着く。
機体下部から鋼管が伸び、給油口に差しこまれる。
数分後、機体の燃料タンクは満タンに成った。
〈こちらフェニックス1。給油完了。これより編隊を組み、作戦行動を開始する。〉
無線に話しかけ、僚機達と合流した。
そして、その光景に圧倒される。
見渡す限り、無数の機体がうごめいていた。
機種は様々だが、それぞれに共通しているのは、殆どの機体が爆装しているのだ。
B52の様な骨董品から、B21の様な機体まで。
[こちらAWACSドラゴンアイ。作戦待機中の全機に次ぐ、空爆を開始せよ。]
〈了解。〉
その途端、ほぼ全ての機体が爆弾を投下した。
数分ほどして、眼下の平野は瞬く爆炎で埋め尽くされた。
しかし、我々の隊は絨毯爆撃後の急降下爆撃を敢行する部隊だ。
その為、ここからが本番である。
〈フェニックス1、これより急降下爆撃を開始する。2、3は援護を頼む。〉
俺はそういうと、機体をロールさせ操縦桿を引き寄せる。
地面に向けて急降下を開始した機体は、音速を容易く超えた。
それに追随する2機の僚機は、どんどんと距離が離れている。
コックピット前面のモニターに、赤外線カメラの映像を映し出す。
とは言っても、この機体に装備されているセンサー類では探知不可能な目標も存在する。
この為、高度2万m付近に待機している大型無人機と、空域に展開している無人機隊からのデータリンクで、詳細なデータを表示させていた。
そして、自機に搭載されていた赤外線カメラが何かをとらえた。
それは地面から出てきたオオカミのようなシルエットのそれ。
〈目標発見。フェニックス1、爆弾投下、今。〉
4つの爆弾の内の2つを投下。バレルロールを行い、高度を回復。
後方の爆炎の中に、オオカミみたいな奴が消えた。
[こちらアサギリ、目標を発見しました。方位270に居ます。]
〈了解した。攻撃はアサギリに任せる。俺とミライは援護位置に。〉
[了解しました。ミライ、アサギリの援護位置に着きます。]
僚機達と交信し、目標の近くまで移動。
今度は緩降下爆撃で仕留める。
[爆弾投下、今。]
フェニックス2の無線で、爆弾が投下された。目標は洞穴。
爆弾は吸い込まれる様に洞窟に入り、内に滑り込んでいく。
数秒後、地面に空いた穴から爆炎が噴き出した。
それと一緒に飛び出たのは、何かの肉片だった。
なるべく見ない様に、上昇して次の攻撃に備える。
上昇している最中に、赤外線カメラがそれをとらえた。
それの背丈は子供と同じ位で、手に槍の様な何かを持っている。
そいつは間抜けに欠伸をしている。近くに洞穴が有る所でだった。
〈こちらフェニックス1、地上に緑色の人型を発見した。攻撃をしても大丈夫か。〉
[やれ。]
怒りに呑まれたミライの声を聞き、俺は直ぐにそいつの上空を飛んだ。
それと同時に爆弾を投下する。
上昇しながら後ろを見る。そこには、土ぼこりが立つだけだった。
恐らく洞穴もボロボロに成っているのだろう。
〈恐らく、撃破出来た。〉
俺はそういうと、編隊と合流した。
1度上昇し、高度を回復する。
今は新月。それ故に、彼らは松明を使わざる負えない。
上空から見ると、それは格好の的だった。
俺は身軽に成った機体から、その様子を高度1万5千mから見下ろしていた。
[こちら紀伊。砲撃地点に到着した。これより射撃に入る。
トマホーク、攻撃始め!トマホーク発射後、30秒後に砲撃一斉射、弾種三式弾よーい!」
次々と着弾する巡航ミサイル。弾頭はアルミニウム粉末を用いたサーモバリック弾頭だ。
着弾した所から、何かが吹き飛ばされていく。
[こちらイスパニーチャ隊。これより砲撃を開始する。砲撃諸元よし。砲撃始め。]
地上部隊からの榴弾砲が、艦砲射撃が、次々と敵を粉砕していく。
[諸元そのまま、砲撃を継続しろ。効かぬなら、効くまで撃とう、弾は有る。]
段々と発射間隔が短くなっていく。丘越しの射撃は、彼らの目視圏外で有る為、効果が有るか分からないのだ。
上空から見ると、榴弾砲の砲身が真っ赤に焼け始めていた。
[総員、射撃中止。砲身を休ませろ。]
[了解しました、大隊長。次はいかがしますか。]
[戦車部隊、装甲車両は前進せよ。ヘリコ部隊はその援護を。]
[了解。こちらヤンマ1、これより地上部隊と共に進撃する。]
地上では、多くの車両がうごめいていた。
エイブラムスがそのキャタピラを軋ませ前進し、その上空をヘリコが飛び交っていた。
[こちらAWACSドラゴンアイ。飛龍の巣をサーモグラフィーで発見した。航空隊は飛龍を襲撃せよ。]
レーダースクリーンには、山の中腹に新たなマーカーが追加されていた。
そこが、追加された作戦目標なのだろう。
〈よし、攻撃地点に急行するぞ。我に続け。〉
[フェニックス2了解。]
[フェニックス3、了解。]
そう言って、3機そろってバンクを取って旋回。北山脈の西に、それは存在していた。
57㎜レールガンを放つべく、機体を降下させる。
そして、射程圏内に入った時。
〈フェニックス1、ガン、ファイア。〉
無慈悲にトリガーを引いた。真っ直ぐに伸びた紫電は、一瞬龍の姿を浮かび上がらせる。
[フェニックス2、ガンファイア。]
[フェニックス3、ガンファイア。]
一切の反撃を許さず、次々と命を奪い去る弾丸。
俺は何の感情も抱かずに、トリガーを引き続けた。
〈こちらフェニックス1、目標の沈黙を確認。残っているのは死体だけだ。〉
[こちらドラゴンアイ、了解。引き続き、警戒飛行を行ってくれ。]
AWACSとの無線もあっさりと終わり、暇な哨戒飛行と成った。
[こちらラプラス1。現在作戦行動中の各機に次ぐ。方位000より不明飛行物体が接近中。
攻撃は禁止。こちらで通信を試みる。]
コールサイン、ラプラス。確か電子戦専門の部隊だった筈だ。
1から5までが大型の電子戦機(EP1)。6から10までが小型機(E/A18)だった筈である。
恐らくEP1が交信を試みているのだろう。オープンチャンネルでの通信らしい。
[こちらはソオコルラリエリ所属機である。貴機は我々の作戦空域に侵入しようとしている。今すぐ反転せよ。さもなくば撃墜する。
繰り返す、すぐに反転せよ。]
データリンクで共有されたデータから不明機の挙動が分かる。
[こちらはソオコルラリエリ所属機である。貴機は我々の作戦空域に侵入しようとしている。今すぐ反転しろ。さもなくば撃墜する。
繰り返す、反転し、当空域より離脱せよ。]
その無線で、不明機は反転した。
その時、不明機の機種解析が終了し、レーダーに反映される。
機種はモスキート。飛行可能な機体が有る方が珍しい物だった。
今から100年近く前に起こった戦争の時に現役だったのである。
♢
その後、”アイアンブリザード”は無事の成功をおさめた。
こちらに被害は発生せず。平野部は榴弾により耕され、生きている存在は確認できない。
爆撃の後戦車大隊と歩兵部隊がローラー作戦を行った為、あそこに生きている存在などありはしないだろう。
作戦終盤に姿を見せた不明機が懸念材料ではあるものの、情報部はこれから1ヵ月かけ詳細な解析を進めるらしい。
♢
同年5月30日 0700 大陸拠点”ライター”
俺達が漸く床に入ったのは、日付が変わり太陽が顔を出した頃だった。
まず始めに寝たのがヴェールヌイだった。
どうやら彼の様な老骨には、深夜の作戦は堪えたらしい。
次はアサギリ、更にミライも眠った。
だが、如何言う訳か俺は未だに意識が覚醒したままだ。
(最後のモスキート。あれは本当に何も目的なく接近してきたのか。
…分からない。世界を超えて俺達が来た真の目的は何だ。)
しかし、疲労にはあらがえずに意識を落とした。
♢
同日 0900 地点不明
「戻ったぞ。」
「お疲れ様。彼らの反応は。」
ここは大陸よりもさらに北に位置する孤島。そこに有る建物の1室だ。
デスクに座って、黙々と書類を捌いていた20ぐらいの日本人青年が、顔を上げて言った。
「やはり、警戒心が強い。前にも無人機が撃墜されたから、あれはもう駄目だ。」
そう言ったのは、報告したドイツ人の男性である。歳の頃は同じ位だろう。
「そうか、俺が直接行っても、駄目かもしれないな。ルーデル、俺は暫く留守にするから、その間頼んだよ。」
座っている方の男は、細縁の黒いやや丸い眼鏡を押し上げて言った。
ルーデルと呼ばれた男は、ため息を1つ吐き言う。
「分かった。所で、連中が信頼できるのは確かなのか。」
「ああ、彼らのトップは、恐らく俺の知り合いだ。…ソオコル・ラリエリ。懐かしい名だ。
取り敢えず、俺が1人で行って帰って来る。下手に人を同行させる訳には行かん。」
そう言って、日本人は椅子から立ち上がる。
「キラ、無理はするなよ。」
「それは貴方にだけは言われたくない。ハンス・ウルリッヒ・ルーデル。」
ルーデルーすなわち”ハンス・U・ルーデル”は、吉良幸助の背を見送った。
彼がソオコル・ラリエリ本部に到着したのは、その数日後のことだった。
EP1…日本の哨戒機P1を電子戦闘に特化させた機体。
スペックは殆ど同一である。