飛行訓練、作戦会議
読者のみなさん。
遅れながらですが、あけましておめでとうございます。
どうか本年も本小説をよろしくお願いします。
同年5月25日 0900 大陸拠点”ライター” 医務室
俺こと八重島鷹はその日医務室に居た。
俺のすぐ傍に居るのはヴェールヌイだった。
正面に居る意思は坂木榛名、あの時の医者だった。
彼女はカルテと俺の顔を交互に見て、言った。
「今日から、飛行訓練に参加しても大丈夫だよ。」
そう坂木医師に言われ、俺は全身で喜びを表した。
「八重島中尉、押さえて。」
「どんだけ嬉しいんだよサガミ。ガッツポーズまでとって垂直飛びとか。」
そう言われたが、もう耳に入らなかった。
「やっと本物の空を飛べる。あの紛い物では無い、本物の空を。」
「さて、早速飛行訓練開始だな。今回はヴィスコル隊にも協力してもらうぞ。」
そうヴェールヌイが言ってきた。俺は色々と聞いた。
「何時からだ。今からか。それとどのような状況を想定しての訓練だ。」
「焦るなサガミ。午後からだから今はゆっくりしておけ。」
「了解。…久しぶりの空か、感覚を忘れていなければいいが。」
「大丈夫だ。慣らしていけばいい。」
現在時刻は0900、まだたっぷり時間が有る。
俺は上機嫌で部屋に戻ると、すぐに訓練内容を確認する。
そこに書いてあったのは、編隊飛行訓練だった。
どうやら直ぐに実戦訓練と言う訳にはいかないらしい。
当然のことではあったが、僅かに気分が落ち込んだ。
それでも、実機に乗っての操縦は久しぶりだった。
1200に成って、俺は駐機スペースに向かった。
もう既にヴィスコル隊は上がっているらしく、上空には3機のラファールが編隊を組んで待機していた。
「八重島中尉、機体は何時でも離陸可能です。」
そう言ってきたのはこの基地に異動した鋪野曹長だった。
彼と2、3言交わした後、機体に乗り込む。
エンジンを始動し、各動翼の確認をする。
フラップ、尾翼、エルロン、カナード。
無線機に向かって英語で話す。内容はなるべく簡潔に。
〈こちらフェニックス1、離陸準備。各機、準備出来次第応答せよ。〉
[こちらフェニックス2、離陸準備よし。]
[こちらフェニックス3、離陸準備よし。]
僚機たちのはきはきとした返事に、俺は何所か誇らしい物を覚えた。
再び無線機に向かって話す、ただし、相手は管制塔に居る管制官だ。
〈こちらフェニックス隊、離陸準備完了。管制塔へ、指示を乞う。〉
[こちら管制塔、フェニックス隊は滑走路T1よりローリングテイクオフを許可する。]
〈了解、フェニックス隊はT1よりローリングテイクオフを行う。各機遅れるな。〉
[[[了解。]]]
誘導路を移動し、滑走路の端に着く。
スロットルレバーを最大推力位置に移動させると、機体はぐんぐんと加速した。
地上から見れば、機体後部からは青白い炎が噴き出し、轟音を響かせながら加速している様子が見るだろう。
時速700㎞を超えた所で、機体が空へと舞い上がった。
後ろに続く僚機達も、次々と蒼弩の空へと舞い上がっている。
ギアを格納し、エンジンスロットルを通常位置に戻す。
オーグメンターは大量の燃料を消費するため、多用しない方が良いのだ。
[こちら管制塔、フェニックス隊の高度制限を解除。幸運を。]
〈こちらフェニックス1、了解。そちらにも幸運の女神のキスが有らん事を。〉
管制塔からの無線に返しながら、上空を見回す。
[こちらヴィスコル隊、フェニックス隊をレーダーで認識した。これよりそちらに向かう。
我々は方位000より接近している。機種はラファールだ。応答願う。]
無線機から声が聞こえた。その主はヴィスコル隊の隊長であるイオン大尉で間違いない。
AIであるモルガンが無線の周波数を合わせ、俺は直ぐに返答した。
〈こちらフェニックス1、貴編隊をレーダーで認識した。機種はラファール、3機編隊で間違いないな。〉
[貴編隊を目視で確認した。…機種を言って欲しい。]
恐らく機種が統一されていないからだろう。無線越しに聞こえたイオン大尉の声は困惑に満ちていた。
〈機種はYF23、F4、1.44の3機編隊だ。驚かれるのも無理はないが、そこまでとは。〉
[当り前だろう。2世代違う機体だぞ。なのに何故平然と編隊を組めている。]
[慣れだ。]
俺とイオン大尉の問答に、ヴェールヌイは簡潔に答えた。
[これより、合同飛行訓練を開始する。1度編隊を組み直したい。6機デルタ。散開。]
イオン大尉が号令を掛けると、ヴィスコル隊の編隊がばらけ、フェニックス隊と合流した。
数10秒後、見事に編隊は組み直された。
フェニックス2、3のそれぞれ右、左後方にラファールが着き、自機の後方にも1機付いた。真上から見たら、後ろ一列に横並びの格好に成っているだろう。
[フェニックス1。次はどのフォーメーションに変更する。]
無線越しにイオン大尉の声がした。
〈ヴィスコル1、次の編隊は貴機を先頭に梯形編隊でどうだろう。〉
[フェニックス1、了解した。この空軍随一の腕前を見せてくれ。]
〈了解した。ヴィスコル1を先頭に梯形編隊。掛れ。〉
機体を上昇させ、上下を反転。
自分から見て真上、つまり地上の方向に先ほどまでいた編隊が確認できた。
次々と梯形に成って行く編隊。
俺はその左端目掛けて降下した。その数秒後には僚機達も自分の左後方に着く。
[完璧だな。フェニックス1へ、実戦形式の空戦訓練を行ってもいいか。君たちの錬度を確認したい。]
編隊が組みあがって1分後、ヴィスコル1からそう無線が有った。
〈了解した。フェニックス2、3は大丈夫か。〉
[フェニックス2、了解した。久しぶりに機体を動かせる。]
[フェニックス3。了解。]
その返事を聞き、俺は無線をヴィスコル1に入れた。
〈こちらは準備万全だ。状況の想定は。〉
[君たちが迎撃側。こちら側が侵入側。撃墜判定は火器管制用レーダーに5秒以上捕捉さてた場合。
また敗北条件はこちらが陸上を1分以上飛行。君たちの勝利条件は我々の全機撃墜判定。]
〈了解した。準備が出来たら言ってくれ。〉
[これより降下し、準備でき次第無線を入れる。君たちの本気を見せてくれ。]
数分後、無線機がイオン大尉の声を流した。
[状況開始。]
[了解。]
底冷えするほどに低い声を発したのは、フェニックス3。つまりミライだった。
編隊を崩さず、レーダーで目標を捜索する。
数秒後、レーダーでは無く目視で目標を発見したのはフェニックス2、ヴェールヌイだった。
[目標を発見。方位030。これより降下して仕留める。サガミは先頭の機体を喰え。]
[容赦はいらん。喰い尽せ。]
アサギリまで普段とは違う雰囲気に呑まれている。
俺は機首を方位030に向け、降下を始めた。
途中でエアブレーキを展開しながら、目標に近づく。
そして、距離が僅か900mに近付いた時、俺たちは速度を上げ相手に迫った。
殆ど自由落下に近い急降下を行い、接近。
それに気が付いたヴィスコル隊は、散開し引き剝そうと鋭い旋回を行った。
[ヴィスコル2、撃墜判定。]
[ヴィスコル3、撃墜判定。]
しかし、敢え無く撃墜判定が下される。残るは隊長機のみだった。
俺は操縦桿を引き起こし、55度前後まで降下角を緩める。
相手は高度75mを飛行。対してこちらは高度1000メートル近い上空、高度差は900m以上ある。
だが、相手は一気に上昇を行い2機の攻撃を逃れた。
俺はその直後に出来た隙を見計らい、火器管制用レーダーでロックオンした。
彼はそれを僅か1秒未満で知ると局所的な気流の変化を利用し、急激なロールを行った。
右主翼が跳ね上がり、機首が上を向く。その状態で落下していく機体。
自機がオーバーシュートし、相手の真上に移動。
相手機は俺の下腹に機首を向けていた。
クルビット軌道を行い、機首を僅かに地上に向ける。
しかし、そこにヴィスコル1の機体は存在しなかった。
海面に向けて一気に降下し、振り返る。
真後ろには、酸化したジュラルミンの様な色合いのラファールが居た。
フットペダルを蹴り、機体を横滑りさせる。
だが、それでもレーダー警報装置は鳴り響いていた。
エンジン推力を最大にし、急降下を開始した。相手も負けじと喰い付く。
だが、それを俺は狙っていた。
一気にエンジンスロットルと操縦桿を同時に引き起こす。
主翼に追加されたエアブレーキが開き、カナード翼と尾翼が機首を一気に上方へと向けた。
そのままレドームの先端をかすめるように降下したラファール。
この間にも、火器管制用レーダーはヴィスコル1の機体を捉え続けていた。
そのまま自機は殆ど高度を変えず1回転する。
[ヴィスコル1、撃墜判定。フェニックス隊の勝利です。お疲れさまでした。]
機体に搭載されていたAIが、淡々と結果を音声に変えた。
[こちらフェニックス3、飛行訓練はもうこの辺りで切り上げた方がよろしいかと。]
無線機からミライの声が発せられる。俺はその具申をヴィスコル1に提案した。
〈こちらフェニックス1、ヴィスコル1へ。飛行訓練はこれで完了にした方が良いかと。
燃料的にも不味いのではないか。〉
[…こちらヴィスコル1、了解。ヴィスコル隊各機へ。これより基地に帰還する。
帰還後、すぐにデブリーフィングをフェニックス隊と交え行う。以上。]
[了解。]
無線機越しの会話をした後、基地に機首を向けた。
地上に帰還後、俺たちは会議室を貸し切ってデブリーフィングを行っていた。
「八重島中尉。俺の記憶の限りではあの機体ではストールマニューバは行えなかったのでは。」
イオン大尉がそう問いかけてきたのは、空戦機動に関する振り返りを行っている時だった。
今回は2部隊での飛行訓練だった為、ヴィスコル隊の面々も交えての物だった。
「それに着いてだが、こいつの機体はある改造が施されている。
まず、外からでも見えるのは大型カナード翼。次に推力偏向ノズルだ。
この2つが有るから、あの様な軌道が出来る。」
そう言ったのはアサギリだった。
元々俺の機体を整備していたから、そう言った所は詳しいのだろう。
なるほどとこの部屋に居る全員が納得して頷いた。
「まず、今回は個別に動いたのがいけなかった。」
そう言ってヴェールヌイが矢印を先に付けた棒を使い、当時の空戦を再現し始めた。
その後、様々な面での反省を行った。纏めが始まったのは、1900を回った頃だった。
「今回の全体の振り返りだが、まずサガミは隊の攻撃指示を確りと行う事。そうでなければ今回の様にあっさりと全滅する。」
年長者でもあり、特に空戦知識にも精通しているヴェールヌイが総括を行っている。
そうなるな、と俺は思いながら話を聞く。
今回は確かに俺は指示が出来ていなかった。
明日からは勉強会だなと思いながら、大学ノートにペンを走らせる。
1930に成り、全員が食堂に向かう。
俺はその間もずっと考え続けた。
(やはり、もう少し考えた方が良いな。このままでは実戦に成った時に全滅する。取り敢えず、ヴェールヌイに色々教えてもらおう。)
食堂で夕飯を受け取り、席に着く。
今回もヴィスコル隊と一緒の様だった。
「なあヴェールヌイ。食事が終わった後に、空戦指揮を教えてくれないか。」
俺がそう言うと、ヴェールヌイは口にしていた麦飯を食いながら肯首した。
俺は手早く飯を食い終えると、自室に戻った。
「さて、空戦指揮に着いてだったな。もう遅いから明日の朝一番にするぞ。」
戻って開口一番、そうヴェールヌイに言われたので大人しく寝る事にした。
しかし、現在時刻は2100。
普段はこの後制服のアイロンがけなどが有るが、明日は非番で有る為にその様な事をしなくてもいい。
だが、もう既に全員ベッドに入って眠っていた。
俺もそれに倣い寝転ぶと、あっさりと夢の世界に落ちた。
♢
同年5月26日 0900 大陸拠点”ライター”
その日、フェニックス隊待機室は朝から勉強会が行われていた。
「…とここまでは良いなサガミ。」
俺はヴェールヌイの説明に耳を傾けていた。
彼は元空自アグレッサーなので、空戦における様々な条件を理解していた。
気象、機体の性能、用いる武器の性能。そして、パイロットの錬度と指揮の熟練度。
「ヴェールヌイ、質問だが。いいか。」
俺はそう言うと、彼はその瞳を輝かせて言った。
「なんでも質問してくれ。」
「逆にこちらが低高度だった場合、どう立ちまわればいい。」
「それに着いてだが、まず無理に上昇しない。そんな事をすればただの的に成る。
だから、AWACSから送られてくるデータに注意して高度をなるべく落とさずに空戦を行う必要がある。今現在では視界外戦闘が基本だが、若しかしたら昔ながらの視界内戦闘が起こる可能性も十分にありうる話だ。
それがもし低空で行われ、高度が回復しきっていない状態での戦闘突入も十分ありうる話だ。」
なるほどと思いながらノートにペンを走らせる。
1時間ほど前から始まった講習は、多くの事が学べた。
まず、交戦時は2機1組に成りお互いをカバーできるようにする。
次に、散開しても離れすぎない事。
そして、成るべく高度は落とさずに、遠距離戦で仕留める事。
次の飛行訓練からはこれらを徹底しようと肝に銘じる。
「次に近接戦に着いてだが、正直に言うと2機1組の原則はここでも崩さずにやれ。
1機で敵をなぎ倒すのは相当運が無いと出来ない。だから、まずサガミが突っ込むと仮定して、その後の援護は俺とミライがやる。
その時の立ちまわりをどうすべきだが、分かるか。」
「俺が錯乱して、適切なタイミングで攻撃を指示する。」
「ではどの瞬間でする。」
「敵がこちらにのみ注視している場合です。」
「攻撃したらばれるぞ。」
「自分が攻撃するタイミングで、味方に攻撃の合図を送ります。」
「成るほど、それで誤魔化すと言う事か。」
「はい。」
俺の回答に、ヴェールヌイは満足げに頷いた。
「アグレッサーの中では、その考えは甘い。だが、君が17歳と考えると妥当な回答だな。」
その発言に、俺は何所かこそばゆい物を覚えた。ヴェールヌイは続けて言った。
「単騎で無双は出来ないからな。機体を扱うのは整備士と、それからミサイルなどの消耗品を輸送する部隊。そして僚機の存在。彼らが居なければ、我々はただの木偶の坊に成る。」
俺はその発言を確りと聞き、心の中で同意した。
しかし、朝起きてから食事らしい事をしていなかった為、何所からか腹が鳴る音がした。
それは殆ど同時に、部屋のあちこちから響いていた。
「取り敢えず、食堂に行こうか。ミライもアサギリも起きているのは分かっているぞ。」
「空自から変わらないね、それは。」
「2人だけでそれは、ちょっと妬むかな。次からは小隊全員でして欲しいかな。」
ベッドから降りてきた2人は、そう言って歩いて来た。
2人は何時でも機体に乗れるよう、パイロットスーツを着込んでいた。
それは俺とヴェールヌイも同じだったが、上にはジャケットを羽織っていた。
いざ食堂に行こうと腰を上げた時、扉がノックされた。
「はい、どうされました。」
「八重島中尉、明日作戦会議があります。0900からです。場所は地下会議室です。」
「分かりました。明日の0900から地下会議室ですね。了解しました。」
俺は伝令の兵士とそう話し、1度扉を閉める。
「ヴェールヌイ、午後からは機体のメンテナンス行うぞ。4日以内に作戦行動開始だ。」
俺はそう言って扉を開けた。食堂に向かうと、中には大勢の兵士たちが居た。
彼らはざわつきながら食事をしているらしく、話声が満ちていた。
「お、八重島中尉。久しぶりだな。」
そう声を掛けてきたのは、有馬大尉だった。
彼は部下と共に食事をとっているらしく、周りには大勢の兵士たちが居た。
俺は食膳を取り、有馬大尉の近くに座る。
「有馬大尉、お久しぶりです。あれからはどうですか。」
「今も、大陸を駆けずり回っているよ。ちょっと不味い情報を本部に打電した所、こっちに呼び戻された。悪い情報、聞くか。」
俺は1度、船場汁の入った椀から口を離し、答える。
「いや、それは止めておく。
魔物の大量発生があちこちで起こっているとか、その発生規模が100年に1度に有るか無いかぐらいのそれであるぐらいしか思いつかん。」
「まんまそれだが。現に一部の村は消えてる。冒険者たちの犠牲も増える一方だ。
特に、北の大山脈に被害が集中している。その為に、今回の作戦”アイアンブリザード”が計画、発令された。
今回は全戦力を持って魔物たちの巣窟であるダンジョンを破壊し、恒久的に魔物たちの発生を抑える。海軍戦艦部隊も全力出撃を命じたそうだ。紀伊型(超大和型)3隻と加賀型戦艦4隻も参加するぞ。」
俺は有馬大尉の発言に驚いていた。
「海軍部隊が戦艦を持っているとは思わなかった。それにあの紀伊型戦艦とは。」
「ああ、51㎝連装砲を3基装備した戦艦だ。しかもミサイルまで装備しているから、湾岸戦争時のミズーリ以上の化け物らしい。3式弾も装備しているから、対地砲撃は恐ろしい物に成る。しかも、トマホークによる先制対地攻撃支援を行うからな。」
俺はその発言を、驚きながら聞いていた。
湾岸戦争時、戦艦ミズーリはトマホークを装備していたと覚えている。
それを、ペーパープランの紀伊型戦艦に実施したのだからその技術は驚く所だった。
更に、戦艦を保有しそれを戦力化で来ている時点で驚くを通り越してあきれてしまった。
3式弾とは、日本海軍が開発した対空砲弾である。
対空焼夷弾とも呼称されるそれは、飛行基地に対する戦艦部隊の砲撃ににも用いられた。
しかも、51㎝砲と言う46㎝を5センチ上回る口径である。
そこから撃ち出される3式弾の威力はいかほどの物なのか。
正直、予想が出来ない。21世紀では20㎝でも大口径だと言うのに。
「それに、今回は帝国海軍との合同作戦でもある。陸戦隊も派遣してくれるらしい。」
「そうなのか。」
俺はもう驚かなくなっていた。
彼らの船は相当経年劣化が進んでいる為、乗員は陸戦隊に転属する事もあり得る話なのだ。
俺は有馬大尉と話ながら飯を食い終え、彼らは一足先に北の大山脈へと移動した。
その日は特に何も無く、1日を過ごした。
同年5月27日 0900 大陸拠点”ライター” 地下会議室
「総員傾注!、総帥に敬礼!」
俺たちはその日、地下会議室に集められていた。
今回は総帥から直に作戦説明が行われる為、皆緊張した面持ちでこの場に居る。
俺もその一人だった。
「楽にして良い。では、203505300000より開始される作戦名”アイアンブリザード”の作戦大綱を説明する。」
スクリーンに映し出された地図は、ここから北西に位置する大山脈の麓だった。
所々に黒々とした大穴が空いており、そこがダンジョンの出入り口であると推測される。
「今作戦目標は、地下構成物”ダンジョン”の制圧。及び周辺の安全確保だ。
目的は実戦を通しての錬度の維持、向上である。また新装備に慣れてもらうためでもある。」
総帥の説明は熱が入っている。今回はかなり気合の入った物に成る様だった。
「また、今回は大日本帝国海軍陸戦隊が参加する。五十嵐隊長、前へ。」
そう言った後、カーキー色の服を着たがっちりとした人物が前に歩み出てきた。
歳は50代だろうか、年老いた人物特有の頬の垂れた顔が目に映った。
「今回、君たちと共に作戦行動をとる第7陸戦隊隊長の五十嵐恵だ。よろしく。」
五十嵐恵。1927年に起こった美保関事件で殉職した人物と同じ名前だ。しかも着た服は第3種軍装である。
「察している人もいるかもしれないが、彼は駆逐艦蕨”艦長”だ。決して失礼のない様に。」
この時、全員の心境は一致した。
やはりか、と。
この世界に来てから、始めて邂逅したのが空母飛龍とそれに随伴する護衛艦だった。
そして、昨年には戦艦霧島も戦列に加わった。
彼らはあっさりと現実を受け入れた。この世界には死んだ人間や退役した船が転生や転移してくる事をこの数年で学んだのである。
どう言う理由であれ、この世界では地球の常識は通用しない。
「我々は基本的に、遠距離からの砲撃支援、及び狙撃支援を行う。我々なりの全力を持って、君たちと任務に当りたい。装備品は12.7㎝自走砲5門、25㎜自走連装機銃5基、99式軽機関銃50丁、38年式歩兵銃91丁。他拳銃類91丁だ。」
そう五十嵐隊長が言うと、再び総帥が説明を始める。
「さて、今回陸上部隊は本格的な機甲部隊を投入する事に成る。近接航空支援はヘリコ、及びUAVによって行われる。砲兵部隊も投入した大規模な物に成るだろう。この為、安全対策をまとめた紙を用意した。それぞれで活用してほしい。何か質問は。」
俺はすっと手を上げる。
「八重島大尉、何か質問か。」
「はい、地下目標に対しての航空攻撃は実施予定ですか。」
「それについてだが、実施する。この為、各飛行隊は地中貫通爆弾を携行した状態で作戦に参加。万が一の為に、爆撃機隊2個大隊をスタンバイさせている。機種はB52とB21の混成飛行隊だ。他に質問のある人は。」
静まり返った部屋の中で、総帥は満足げに笑みを浮かべた。
「それでは、解散!」
♢
部屋に戻った後、俺は3日後に作戦が実行される事を全員に伝えた。
「成るほど。そうなると、戦艦による砲撃支援は不可能と言う事か。」
ヴェールヌイの発言に、ミライが不満そうに言った。
「戦艦は浪漫あふれる代物だからね。それの一斉射撃が見れないのは残念だよ。」
俺はその発言に切り返した。
「いや、それについてだが嬉しい知らせだ。戦艦部隊の砲撃は行われる。
北側の沿岸から、最大仰角で砲弾を送り届けてくれるらしい。」
「北側は氷が存在するのでは。」
そう言ったのはアサギリだった。
彼女はそう言いながら、銃の手入れをしていた。
銃の種類は、恐らくM16だろう。米国製の自動小銃の中では傑作とも評される物だった。
傍らには、拳銃が1丁ある。M1911拳銃だろう、WW1から用いられた傑作拳銃だ。
俺は、つい先日入手したある情報を言った。
「それがだな、大陸の北端が北緯60度ぐらいらしく、氷が存在しないのだ。
と言うかそもそも、北緯60度以北に行こうとしても途中で機体が反転するらしい。」
「へ。」
「それは本当か。」
「いやいや。それは有りえないでしょ。」
口々に否定の言葉を出す僚機たち。しかし、俺は机に仕舞っていた偵察機隊の証言を突き出した。
「これを見ても、まだ否定するか。」
そこには、北緯60度以北に行こうとしても、途中で機体が反転する等と言った事が書かれていた。しかも、南緯30度以南にも行けない旨が記されていた。
「宇宙空間から見ても、一切の地形データが収集できない。この為に、南緯30度以北、北緯60度以南の地形データしか収集できない。しかも、東西1000㎞前後しか飛行可能ではない。つまり、この星は地球と同等の大きさであると考えられている。」
そう言うと、皆信じられないと口をそろえていった。
「それよりも、作戦だ。我々航空隊は敵航空戦力が現れた場合、それをすぐにでも排除すると言う役目だ。更に、余裕が有れば空爆支援を行う。」
空爆、と聞いて全員の顔が暗く成った。
「俺対地攻撃だけは苦手だったからな。」
ヴェールヌイがそう言うと、アサギリは懐かしむ様に言った。
「確かに、貴方は空対空では随一だったのに、対地では最下位だったからね。」
ミライも同意する様に言った。
「私も、成るべくならやりたくないけど。」
俺は不安をなくすため、使用する爆弾を伝えた。
「今回使用するのは、GPS誘導滑空爆弾だから精度は問題ない。」
「それでも、無誘導爆弾を使いたい。やはり、自分の手で命中させたい。
何より、こいつに馬鹿にされるのは癪に障る。」
そう言ったのは、ヴェールヌイだった。指差した先に居たのは、アサギリだった。
「なんでさ。」
「何時も何時も馬鹿にしてくるからだ。お前だってやらかした癖に。」
「それは時効でしょ。そもそも、何故その話をほじくり返す。」
そう言い合っている2人を尻目に、俺はミライと1対1で話していた。
「取り敢えず、今回の作戦は対空目標を優先的に叩き落とせばいい。
この認識で良いかい。」
「間違いない。だが、対地攻撃も成るべく行えとのことだ。」
「機銃掃射か。」
「その前に、爆弾だ。」
「クラスター爆弾を使ってもいいかい。」
「問題ない。この世界には戦争条約なんてものは無いからな。」
「分かったわ。奴らを血祭りに上げる。」
「それでいい。」
作戦の為、この数日間は全員休養とした。
”アイアンブリザード”まで、後3日。




