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訓練と会話

同年5月16日 0900 大陸拠点”ライター” VRルーム

 [こちら管制塔、フェニックス隊の離陸を許可する。]

〈フェニックス1、了解。これより離陸する。〉

仮想現実の、電子演算で造られた空を見る。俺はVRで飛行訓練を行っていた。

ドクターストップも在ってか、暫くは空に上がれそうにない。

医師から実機での飛行訓練は控え、暫くは様子見だと言われた。

 それでも、仮初とは言え空に上がれることに安堵している。

今回は対地攻撃の訓練だった。実際に爆弾などを使用しない分、秘匿性に優れる。

だが、その分殺しへのハードルが下がるのではないかと懸念してしまう。

〈フェニックス1、ガンファイア。〉

無線機にそう告げ、実機そっくりのコントローラーを操作する。

実際にパイロットスーツを着て、その上でヘルメットなども装備する。

 だが、それでも実機のそれとは程遠かった。燃料の臭い、搭載兵器の使用時の反動などが無いのだ。だから、この訓練に殆ど意味を見いだせなかった。

今頃僚機たちは本物の空を自由に飛び交っているのだろう。

そう思うと、自分の間抜けな所を恨めしく思った。

 漸く訓練が終わった時には、時計は1200を指していた。

食堂に向かい、昼食を頼む。

適当な空いている席に座った時、出入り口にヴェールヌイの姿が見えた。

俺は手を大きく振り、こちらに来るよう身振り手振りで主張した。

すると相手も気が付き、数分後にはフェニックス隊の面子がそろっていた。

「そっちの飛行訓練はどうだ。何か問題とかは起きなかったのか。」

俺がそう問いかけると、ヴェールヌイが苦笑しながら話してくれた。

「いや、ミライの空戦能力が思ったよりも低くてな。これから勉強会だ。」

そう言った後に、ミライの方を見た。確かに酷くどんよりした眼をしている。

「なんであの攻撃を避けれるのよ。可笑しいよ。」

ぶつくさと言っているのは今回の愚痴だった。

「ファントムⅡが失速軌道を連発出来る時点で人間やめてるし、その上で急に視界から消えたと思ったら真後ろに居てキル判定受けるし、何なのよ本当に…。」

俺はそれらを聞いて仮説を立てた。

(まず、ファントムの失速軌道は殆ど不可能に近い。恐らく似通った軌道でそれを行っている。次に急に視界から消えるのは、急激な気流の変化を味方にしたからだろう。片方の主翼に急激な下降気流何かを当てるとか、そう言った事をして動翼類を一切動かさずに視界から消える。そして後ろを取り判定を与えた。元アグレッサーだからできる芸当か。)

そう思っていると、アサギリが話しかけてきた。

「サガミ、今回の反省会、お前も参加するか。」

俺は参加すると返し、冷えた飯をかき込んだ。

実戦の時に連携が取れていないと、マリアナの七面鳥に成ってしまう。

それだけは部隊を預かる身としては避けたかった。

 部屋に戻った後、ホワイトボード等を出して反省会が始まった。

「さて。今回だが、まず1対1の勝負しかできなかった為、実戦経験は殆ど積めていない。」

ヴェールヌイの開口一番がこの厳しい意見だった。

「その為、次の飛行訓練からはスワロー隊と行う事にする。良いな?」

有無を言わさぬ口調に、皆押し黙るしかなかった。

 そして、5時間後。漸く反省会が終わったのだった。

 ぞろぞろと食堂に向かい、歩く。俺は一番後ろで考えながら歩いていた。

(まさか、本当に失速軌道を使っていたとは思わなかった。何か特別な改修がしてあるわけでもなさそうだし、本当に実力だけでやっているとは。ミライがえらく落ち込んでいるが、食後にでも話せば問題ないだろう。)

そう考えながら歩く。少し前に受け取った総帥直々の命令も、今となってはよく分かる。

恐らく、こうなることを見越してのそれだったのだろう。

 「おい、サガミ。A型、B型のどちらにする。」

ヴェールヌイの声に、俺は意識を眼前に戻した。

もう既に食堂に着いていたらしく、目の前には心配そうな僚機たちの顔が有った。

「A型にするが、皆はもう決めたのか。」

俺がそう言うと、皆決まっていると異口同音に言ったのだった。

 食事中も、口と手を動かしながら思考の海に浸る。

何故アサギリがあの姿になったのか、この世界に来る異世界人には何か一定の条件が有るのか等だ。

そもそも、生きていた時代の違う人間が同じ時間軸に居る事も可笑しいのだ。

 俺は思い切って聞いてみる事にした。まずはミライから聞かなければならない。

「ミライ、食事が終わってからで良いから話をしないか。」

そう問いかけると、ミライは首を縦に振って答えた。

 それからは夕飯を食べ終え、部屋に戻った。風呂を浴び終え、翌日の準備を済ませた後、俺とミライはテーブルを挟んで向かい合って座った。

「何を話せばいいの、サガミ。」

そう問われたので、この世界に来る経緯を教えてほしいと言った。

「分かったわ。まず、何所から話すべきかしら。」

そう言って、顎に手を当てて考えるミライ。

 数秒した後に語りだしたそれは、世にも奇妙な物だった。

「まず、私が死んだ直後の事から話すよ。

学校の屋上から墜落したと思ったら、花畑の中に居たの。」

 賽の河原を渡った後の事からだった。

「服装も変わっていたから驚いたわ。確か、白地に浅葱の矢絣と紺の袴だったと思う。

寝転んでいた状態だったから、身体を起こして人が居そうな場所を探して暫く歩いたら、喫茶店の様な場所に着いたの。

そこにいた死者の世界の管理者からこう言われた。今から49日間は生者の世界に留まり、生前にやり残したことをして来いとね。気が付いたら、自分が死んだ場所に居たの。

 始めの5日は君の夢に入り込んだりして色々していたわ。残りの44日間はいじめっ子達の家を荒らしまくったけど。」

そうだったのかと話を聞きながら思った。

確かに49日は聞いた事は有るが、まさか実在するとは。

「それで、49日を過ごした後は。」

そう問いかけると、彼女は難しい顔をした。

「いや、それなんだけどさ。…ものすごく焦った顔をした管理者が、唐突に転生云々の話をし始めて、流れでそのままこの世界に転生させられた。しかも人間関係まで聞かれて大変だったから。まあ、そんな難しい事では無かったけど。身の回りに勘の鋭い人間が居たかとか、後は私自身の事も聞かれた。」

 俺はそれを疑問に思った、なぜその様な事を聞く必要があるのか。

「冥界の主曰く、転生者たちの意見をなるべく汲んで転生させる必要があるかららしい。」

俺の考えを見透かしたように言ったミライ。

「転生した直後は、死亡当時と同じ体にさせてくれた。なんでも時間が無いそうでこうなったらしいわ。恐らく、神々の中でも人類を滅ぼすか、このまま繁栄させるかで対立している。」

ミライの証言は、この世界に迫る危機を予感させる物だった。

「後は、恐らく彼がこの世界に送り出す前に言った言葉が妙に耳に残っている。」

―君は、必ず生き延びろ。そして、また彼に会って欲しい。その為に力を5つ授けたのだから。

 「この世界に転生して始めの1週間は人に会えなかった。」

そう言ったのは、ミライがコップに入ったココアを飲み干した後の事だった。

「こっちに来てからの服装は、カーキー色のズボンとシャツ、同色の帽子に脚絆だったから。更に日よけの布を顔に巻いていたから、目元しか見えなかったと思う。

持っていた武器は古典的なボルトアクションライフル(44式騎兵銃)だったけど、この世界にはオーパーツだった。」

いつの間にか、アサギリやヴェールヌイもその話を聞いている。

ベッドの上と畳敷きの場所から、それぞれ布団の上から聞き入っていた。

「そして、8日目に冒険者たちを見つけたの。とは言っても魔獣に襲われている状態だったから、まずそれらを撃ち殺してからコンタクトを取った。これが、貴方達がこの世界に来る3カ月ほど前の話。あの日から、私は助けた冒険者たちと行動を共にするようになった。」

 俺は温めた麦茶をミライに差し出す。

「有難う。」

彼女はそれを一口含んだ後、再び話し始めた。

「そして、2か月が過ぎた頃にアサギリと出会った。」

 俺とヴェールヌイはアサギリを見る。

「ええ、確かにミライの言う通り、私もこの世界では元々冒険者をやっていたの。始めの内はかなり苦労したわ。」

そうはにかみながら言っているが、その苦労は並の物では無かったのだろう。

アサギリの目には、その当時の光景が映っている様だった。

 ミライが語ったその後の足跡は、御伽話その物だった。

「あの後、大陸中を歩いたかな。沿岸部では海産物を食べてそのおいしさに涙したし、荒涼とした高原地帯では大きな鷲が空から骨を落として中の肉を食べていた。

盗賊の類は勘弁してほしい物だったけど、それでも珍しい光景を見る事が出来た。」

そこでもう一度、麦茶を口に含む。

「そして、ある噂話を耳にした。

 時折海に大きな灰色の船が現れる、と言う荒唐無稽な話。だけど分かってしまった。

それが地球から来た軍艦である事に。それを聞いてから直ぐにパーティーから離脱して、単独で調査を開始したのだけど、途中で魔獣の群れに襲われた。

間一髪で逃げ切ったけど、酷い怪我を負ってその場から動けなかった。

もうここまでかと諦めたけど、2日後に有馬大尉の部隊が偶然通りがかって助けてくれた。

後はもう説明しなくても分かるよね。皆知っての通り。

 ちなみにだけど、アサギリは私が調査を始める1週間前に有馬大尉とコンタクトをとり合流したのよ。」

「私の場合だと、郊外でヘリコに乗って本部まで連れて行かれたわ。そして、書類にサインして正式な隊員となったの。」

知られざる真実に驚いていると、アサギリが言った。

「私の話もしたいのだけど、もう時間が無いから明日にしましょう。御休みなさい。」

 時計を見ると、2212だった。大急ぎでベッドに入り、毛布を被る。

(今日だけでも驚きの連続だったな。だが、やはり謎は尽きない。ここに居る人間は殆どが死んだ後にこの世界に来ている。なのにもかかわらず、例外は存在する。無作為に選ばれたからか、はたまた法則性があるのか。)

ずっと考えが頭から離れなかったが、それでも睡魔には勝てなかったらしい。

 深く沈むように、意識をゆっくりと落としていった。



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