迎撃
冬期休業中は執筆ペースが上がります。
この為、1月の頭ごろまではかなりの頻度で投稿可能です。
また、分かりにくい所などが有れば、感想欄までお願いします。
地球換算2035年4月5日 1700 大陸前進基地”ライター”医務室前
「大変申し訳ありませんが、面会は出来ません。御引き取りください。」
俺は目の前に居る衛生兵にそう言われた。
「そこを何とか、お願いする。」
隣に立つヴェールヌイが頭を下げたが、それでも譲ろうとはしない。
俺たちがここに来たのは、僚機である白波瀬少尉のメンタルケアを行うためだった。
しかし、結果は余り良くない。だが当然の話だろう。相手からすれば、信じていた相手に殺されかけたのだから。
「八重島中尉、ここは一旦引いた方が良い。…すまん、世話を掛けたな、桂樹2曹。」
数分後、その場に現れた有馬大尉が俺の肩に手を置き、言った。
「…、分かった。厚かましいと思うが、面会できる状態になったら伝えてほしい。」
俺はそう言って踵を返すと、スワロー隊に割り当てられた休憩室に入った。
壁際の椅子を取り、テーブルの近くにおいた。そこにゆっくりと腰をおろし、突っ伏する。
(まあ、当り前か。…自分の厚顔無恥にも呆れる。)
その様な下らない事を考えていると、突然、耳をつんざく鐘の音が鳴った。
[本拠点にバンデッド接近中。航空部隊は迎撃せよ。繰り返す、本基地にバンデッド接近。迎撃せよ。]
部屋に備え付けられたスピーカーから出たその言葉に、俺たちは走り出していた。
外に出る頃には、滑走路から迎撃機(機影からMIG29?)が3機離陸しようとしていた。
「サガミ、急ぐぞ。」
ヴェールヌイに言われたが、その様な事は百も承知で有る。
自分の搭乗機であるYF23が駐機している場所まで走った。
「中尉、機体は万全です。早く!」
柿沢3曹に言われ、タラップを駆けあがる。コックピットのベルトを閉め、キャノピーを閉める時には、エンジンは両方とも起動していた。
前方に立つ3曹の手には、武装安全ピンとピトー管保護の為の布が握られていた。
武装は57mmレールガン1門とサイドワインダー4発。更に500mwレーザー照射機2基が装備されている。機首固定武装は25㎜機銃1門のみだが、現代戦においてそうそうガンレンジでの戦闘は発生しない為、問題ないだろう。
[こちら管制塔、フェニックス隊の離陸を許可する。バンデッドは拠点より方位320から飛来。数20。…いやそれ以上だ、現在でも増え続けている。]
[こちらフェニックス2、武装の換装をしたい。この為離陸を取りやめてほしい。]
[こちら管制塔、離陸取り消しは受け付けられない。現有武装で対応せよ。]
「フェニックス2、管制塔の意見はもっともだ。こちらフェニックス1、これより離陸する。」
[正気かサガミ!]
〈交代が来てからにした方が良い。それに、ここを火の海にされては溜まった物では無い。〉
俺はそう言ってエンジンスロットルを最も奥のレッドゾーンに叩き込む。
未だにランディングギアはフルブレーキだが、じわじわと機体は前進していた。
前進を開始してから数秒後、ギアのブレーキを解除。
対気速度は一気に時速400kmを指した。操縦桿を僅かに手前に引き、ギアを格納する。
後ろを見ると、ヴェールヌイの駆るF4がその重鈍な機体を空に舞いあがらせようとしていた。
俺は、操縦桿とスロットルレバーを同時に引いた。途端に視界が赤く染まる。
視界が回復し、機首が丁度上空を向いた瞬間、エンジン推力を再び最大にした。
この軌道は俗に言うコブラ軌道を応用した物だ。
通常、コブラを行った後は機首を水平に戻す。
だが、俺は機首が丁度真上を向いた時にエンジン推力を最大にし、そのまま垂直上昇に入ったのだ。
[な、何だあの機動は?]
[化け物…。]
[ブラッド・ブリザードの渾名も頷ける。流石は雪の番の片割れか。]
久しぶりに聞いたあだ名は、何所か恥ずかしい物が有った。
〈全て聞こえているぞ。それから、その渾名は止めてくれ。〉
[[すみませんでした!]]
無線機の奥から聞こえてきた謝罪の声は幾重にも重なっていた。
高度10,000mまで達した時、燃料は残り3分の1ほどを示していた。
[サガミ、バンデッドをレーダーで捉えた。高度約1000m付近を時速200㎞で飛行している。
数は…、すまない、こちらのレーダーでは捕捉しきれない。だが、10以上は確定だぞ。]
無線から聞こえてきたヴェールヌイの声は焦りが有った。
「了解した。俺が先頭に突っ込む。ヴェールヌイはサイドワインダーで援護を。」
俺はそう言ってレーダーで目標をロックオンした。
機体をロールさせずに、緩降下に入る。降下率は毎分65m。
〈フェニックス1、レーザーファイア!〉
その直後、レーダーからバンデッドが2つ消失した。
[フェニックス2、フォックス1。…スプラッシュ2。]
後方から追い越したスパローミサイルも次々と着弾する。
改めてレーダースクリーンを見ると、敵機は湧きあがる様にその数を増やしていた。
[こちらヴィスコル1、敵機に囲まれた!救援を!]
〈フェニックス1了解。ヴィスコル1、現在位置は。〉
[青い翼龍が複数集まっている中に居る!クソッ、また攻撃がかすめた。]
眼下を見て見ると、確かに青い鱗を持つ翼竜に囲まれた機体が見えた。
酸化したジュラルミンの様な塗装をした機体(機種はフランスのラファールだろう。)は、尾翼に”吹雪”と漢字で書かれている。
囲んでいる数は12匹前後だが、全て3秒以内に落とさなければならない。味方機は満身創痍だったからだ。
最初の1秒にも満たない時間で、レーザーを使い敵機の翼に穴を開けた。
ふらふらと落ちていく翼竜の数は3匹。残りはレールガンで処理する。
〈ガン、ファイア!〉
その宣言と共に放たれた紫電は、4匹の龍の翼を射抜いた。
残りは5匹だが、ヴェールヌイが2匹に猛然と襲い掛かる。
[フェニックス2、フォックス2。ガン、ファイア。」
そして、3秒きっかり。最後の翼竜に、25㎜機銃を浴びせた。
[すまない、助かった。]
〈礼は生き残ってからだ。ヴィスコル1。〉
[この恩は必ず返す。不死鳥。]
そう無線機から聞こえると、ラファールはバンクを振って離れていった。
[サガミ、バンデッドは未だに空域に存在している。気を抜くな。]
〈了解。一度高度を取って俯瞰する。〉
そう無線機に言い、操縦桿を手前に引く。高度5000mまで回復した時、燃料が無く成りかけている事に気が付いた。後数十分が関の山だろう。
〈ヴェールヌイ、こちらは燃料が心もとない。そっちは?〉
[こっちもかなり厳しい。戦闘行動は持って5分だろう。]
たった5分で出来る事は非常に限られている。この為、一度基地に戻り補給を済ませるのが良いだろうと見た。
〈管制塔、こちらフェニックス1、残存燃料がフェニックス2と同じく少ないため、一度基地に戻ります。〉
[こちら管制塔了解。スワロー隊は迎撃の為離陸せよ。]
[こちらスワロー1、了解。これより離陸する。]
スワロー隊は恐らく、地上滑走路から発進したのだろう。確か地下格納庫に直通する大型エレベーターが存在していた筈だ。恐らく予備エレベーターが存在し、そこから発進したのだろう。
滑走路には、誘導灯のお陰で無事に着陸した。
駐機スペースに機体を運び、武装と燃料補給を済ませる。
この時にヴェールヌイ(フェニックス2)は大型のミサイルを2発、翼下に懸架していた。
管制塔からの指示で離陸準備に入った。
[こちら管制塔、フェニックス隊の離陸を許可する。現在、天候が急変し本空域は分厚い積乱雲に覆われている。高度に注意されたし。]
「フェニックス1了解。これより離陸する。」
スロットルレバーを押しこむと、機体はどんどんと加速していく。
そして、ついにギアが地面を離れた。緩やかに操縦桿を引き、ギアを仕舞う。
低く垂れこめた雲の下は、思いのほか気流は安定していた。
そして、迎撃目標がロックオン距離に入る。
まずは76㎜レールガンを放つ。やはり37㎜では心もとない為だ。
「フェニックス1、ガンファイア。」
紫電が空を走り、射線に居た目標がバラバラになって落ちて行った。
[フェニックス2、フォックス1。]
またも後ろからスパローが飛来、名前の由来である雀の可愛さは欠片も無く、目標に向けて直進した。向かれた牙は目標の撃墜と言う結果のみをもたらした。
漸く、翼竜たちは反転し始める。
「こちらフェニックス1、翼竜反転を開始。遠ざかります。」
[こちら管制塔、了解。迎撃行動終了。総員帰還せよ。]
俺は逃げていく翼竜たちを尻目に、基地に機首を向けた。
もう既に日は暮れ、黒々とした闇が空を支配している。
[こちら管制塔、フェニックス隊の着陸を許可する。]
管制官からの指示を聞きながら、ランディングギアを下ろす。2機編隊を保ったまま、滑走路に着地した。
「八重島中尉、動けますか。」
機体を所定の位置に止めた後、柿沢3曹から言われたのがこれである。確かに以前、戦闘機動をした後に指一本動かせなかったが。
「今度こそは大丈夫だ。」
そう言って立ち上り、タラップを降りる。
ヘルメットと酸素マスクを小脇に抱え、宿舎に向かって歩く。
「サガミ、戻ったら今回のブリーフィングを行おう。先日の上陸作戦の時も出来ていなかったから、それも併せて。」
「分かった。ホワイトボードとペンも用意しよう。後は模型とそれから無線記録か。」
「…4時間ほどかかるぞ。大丈夫か。」
「大丈夫だ。それに、先延ばしには出来ん。」
そう言って自室に入り、電灯を点ける。
そこから、長いブリーフィングが始まった。
♢
同日2300。 拠点”ライター”
「以上だな。…もうこんな時間か。サガミ、先に風呂入ってくれ。」
ブリーフィングが終了したのは、もうすぐ日付が変わろうと言う時だった。
俺は鉛の様に重たくなった身体を引き摺り、シャワー室に入る。
フライトスーツを脱ぎ、頭から程よい温度の湯を被った。
全身の汚れを流した後、新しい服に着替える。
入れ替わりでヴェールヌイがシャワー室に入った。
それを見届けると、俺は3段ベッドの最上段に上がる。
(そう言えば、夕飯まだだったか…な…。)
疲れがたまっていたからか、毛布を被った数秒後には意識を落としていた。




