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大陸拠点にて

地球換算2035年4月5日 0500 大陸前進基地”ライター”

 

 カーテンの隙間からの陽光が、意識を覚醒させる。

俺は布団から上体を起こそうとした。だが、時刻を確認した後再び横に成る。

(時刻は0500、起床まであと30分か。…そう言えば、まだ風呂に入れていなかった様な気がする。)

そう考えだすと、急に全身がむず痒く感じた。

 再び起き、靴を履いて医務室を出る。

着替えの類は機体の中に置いた鞄の中に入っていた筈だった。しかし、足元には着替えなどが入ったカバンが有った。それを手に取り、風呂に向かった。


 朝風呂と朝食を済ませた後、俺は駐機スペースに向かっていた。

後ろを歩いているのは、ヴェールヌイと整備士たちだった。彼らは何かを話している様だが、距離が有る為聞き取れない。

 昨日ぶりに見る機体は、確りと整備がなされていた。

前部のランディングギアの前には、柿沢3曹がバインダーと機体を交互に眺めている。

「柿沢3曹、機体の状態は。」

そう言って声を掛けると、彼女は振り返り答えた。

「完全な状態だ。キャノピーも確りと磨いたから、空もよく見える。だが、第6軍の基地は整備の為離着陸が不可能なのだろう?どうするつもりだ。」

 そう問いかけてきた。

「地上滑走路には地下駐機場に繋がる大型エレベーターもあった筈だ。その予備エレベーターを使えば良い。」

そう答えると、3曹はこう言った。

「大変申し訳ないのだけど、君達フェニックス隊はここを拠点に活動する事に成っている。

これが命令書だ。」

そう言って、手に持った茶封筒から出された、三つ折りにされたA4用紙を手渡される。

そこには、3曹が言っていた事と同じ事が書かれていた。

「そうだ、八重島中尉にはもう一つ。」

そう言って手渡されたもう一つの茶封筒は、表面に大きな赤い字で”極秘”と書かれていた。

「そっちは関係者以外閲覧禁止らしい。とは言っても、見ても良いのは君だけらしいよ。」

手早く封を切ると、中にはA4サイズのコピー用紙が入っていた。

”発、本部総帥執務室 宛、第6軍第1飛行隊第3小隊隊長 八重島鷹

貴官は本日より、大陸拠点”ライター”にて味方地上部隊の援護、及び周辺地域の制空権を掌握せよ。また、僚機である白波瀬文少尉のメンタルケアも行う事。”

 俺は直ぐに命令書をびりびりに破こうとした。しかし、それを止める人物が居た。

「…離してください。ヴェールヌイ。」

「だめだ。そこに書いている事を実行しなければ、君は一生後悔する。」

「離せ!」

「それは出来ん!」

そう言った後に、彼は右手を振りぬいた。その直後に、視界が急激に右を向く。

彼に平手打ちを喰らわされたのだと分かったのは、その数秒後の事だった。

「いいか、人生の先輩として教えてやろう。死んだ人間とはもう言葉の綾を交わす事は無い。だがな、死んだ後に後悔する事がたくさんある。俺もその一人だ。

 だがお前は違う。

如何言う訳か死んだはずの人間と再会し、再び面と向かって話せる。焼かれて骨だけに成った存在が、再び肉体を持ち現れたのは気味が悪いだろう。しかしだな、中にはその身すら見つからずに死んだと言われた奴も居る。それが俺の同僚だ。俺はな、今でも後悔している事が有る。それはあいつとの最後の会話が、口論だったことだ。」

そこで一つ、気持ちを落ち着けるために息を吸い込んだ。

「だから、君にはあの子と話をしてほしい。俺みたいに後悔をし続ける人生を歩んでほしくないからだ。サガミ、お前はある意味でやり直せる可能性が有る。だから。」

そう言った後に、ヴェールヌイは俯いて肩をふるわせ始めた。

 「…、分かった。やれるだけの事はする。」自然と口が動いた。手に持った紙を折り畳み、フライトスーツの胸ポケットに入れる。コンクリート造りの棟に足を向けると、ヴェールヌイも追従した。

 建物の中に入り、部屋の出入り口近くに掲げられたステンレス製のプレートを見ていく。

そして、明らかに急ごしらえなそれを見つけた。

そこには白い髪に黒い字で”フェニックス隊休憩室”と書かれている。

扉を開けると、右壁側に3段ベッドが備え付けられており、中央に大きめのテーブルが置いてあった。窓際には椅子が積まれており、恐らく会議の時はそれを使う事に成るだろう。

個人装備を置いておくためのロッカーは、扉の直ぐ右側に有った。

3段ベッドは分厚いカーテンが有り、余り光りを通さない様にしている。

 一番上の段はそれが閉まっていた。

恐らく、僚機である白波瀬少尉が寝ているからだろう。

若しかしたら、誰も居ないかもしれないが。

早く覚悟を決め、当人と認めるべきだろう。もう迷えない。

 だが、今は。

「なあ、ヴェールヌイ。ベッドは上が良いか?」

まずは部屋の何所を使うか。これを決めることが先決だ。

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