第一話 守護メイド
なかなか書き始められなくてすいません。気長にお付き合いくださいm(_ _)m
2021.02.07改稿
2021.02.23改稿
いわゆるお偉いさんが使用する会議室の中央にある大きめの丸テーブルを囲むように座っているのは四人のメイドだった。
いやメイド服を着ているだけの別のものだと言う認識のほうが正しいだろう。
「またあの連中ですか。凝りませんね」
銀色のロングヘアーをかき上げてため息を付いたのは、モミジ・金剛である。身にまとうメイド服は、屋敷の使用人というよりその主人が着るべき豪華なドレスに近いデザインだ。貴族出身の彼女は、会社役員が座るような高級な椅子に姿勢良く座っているが、独裁国家であるカラフ王国の支配者である女王陛下に仕える王宮メイドの一人である。特に女王専属の四人のメイドは公式には守護メイド四姉妹と呼ばれているが、彼女はその四姉妹の長女だった。もちろん本当の姉妹ではない。ただそう呼ばれ、そういう立場にいるだけだ。
守護メイドは、清掃、洗濯、炊事などメイドとしての一般的な能力はもとより、秘書的は仕事も難なくこなすが、特に戦闘においてその能力を発揮する。基本的な業務は女王陛下の護衛と国内の治安維持だ。モミジは特に戦略面に優れているが、女王陛下の側近としてその側を離れる事は殆どない。このような会議に出て来る事自体、珍しいことだった。
「それってサツキの担当案件だよね。今更だけれど」
次女役は綺麗な青い髪をサイドテールにまとめているサクラコ・榛名である。背が高くスタイルもよい。もともと孤児院出身で、一応メイドとしての基本的な業務も応用的な礼儀作法もマスターしてはいるが、普段の態度は庶民に近い。着ているメイド服は、四人の中では国が定めるスタンダードのデザインに近いけれど、少しばかりファンシーな装飾が施されている。
ステータスをDEFに極振りしたような防御特化型の戦闘隊形であり、少なくとも国内で彼女の本気の防御を突破できるものは居ないと言われている。
「うちがサクッと行ってこよっか」
真っ赤な三編みを揺らしながら前のめりに体を乗り出して発言したのは、末っ子担当のヒイラギ・霧島。地方なまりが抜けないが、もともと他国の諜報機関の出身という変わった経歴の持ち主で、その能力は極めて高い。彼女はサクラコと対象的にATKに秀でた攻撃タイプであり、かつ超攻撃的な性格だ。他の王宮メイドからは戦闘狂としての認知が高い。軍服に寄せたデザインのメイド服はそれ故だ。背も低く童顔であるため未成年と見られる事も多いが、本人にとって、それはとても不満らしい。ちなみに正確な年齢は殆ど知られていない。
「サツキはいま長期休暇なのよねぇ」
テーブに頬杖をつきだるそうにしているのは三女扱いのアンズ・比叡だ。基本的には引きこもりである。もともと国の基幹システム開発した研究所に所属するシステムエンジニアであり、凄腕のクラッカーでありハッカーでもあった。現在は国の基幹システム運営管理責任者として、普段は電算室にこもっている。そのため殆ど外には出てこない。メイド服も作業着かよと思うようなアレンジだった。
ヒイラギと対象的に、戦闘に関してほとんど興味を示さないが、戦術のプロであり、戦闘力も四人の中では最も高いと言われている。髪はややくすんだ黄色のショートカットであり、普段はメイド服の上に白衣を羽織るという凝り性だった。もちろん伊達メガネも装備済みだ。
「ところで、そんな事だけのために呼び出されたのですかね」
部屋の入口付近に控えているメイドにモミジが声を掛ける。
控えめながら怒りのオーラを纏っていた。
王宮には、この場にいる四人の守護メイドの他に、メイド長が一名、副メイド長が十二名、一般メイドが二百四十名の合計二百五十六名が在籍している。
副メイド長にはその能力に従い第六席から第十六席までの序列があり、それぞれの適性に従い王宮運営の業務が割り当てられていた。ちなみにメイド長は第五席である。
「規則ですから」
第十一席のミチは、渉外部第一課の課長を任されている副メイド長だ。
副メイド長は、全て同じデザインのメイド服である。目立たず動きやすいのが特徴である。ちなみに防御力も、通常の刃物程度では傷をつけることは出来ない程度には協力だった。そして守護メイド以外のメイド服に関しては、カスタマイズは許可されていない。この国のメイド服は国の厳重な管理下にあり、複製も不可能だった。
「どうせメイド長の指示やろ」
「はい、おっしゃるとおりです」
「コトリはあいかわらず硬苦しいなぁ」
呆れた口調でヒイラギはそう言うが、メイド長のコトリが組織としての規律をしっかりと遵守しているので、王宮は問題なく業務が執り行われているのである。守護メイドの四人を始め、副メイド長はすべて癖のある人物ばかりだから、放っておくととんでもない事をやらかしたりする。それらを管理しているコトリの能力は半端なかった。その点はミチも尊敬している。正直半端ない。
その癖のあるメイドの中では、ミチ自身は常識的なメイドだと自負している。
故にこう言う場に放り込まれるのである。損な役回りだと思う。守護メイドの相手から来る精神的なストレスは相当なものだった。マジで禿げそうだ。
現地防衛の責任者であるサツキが、長期休暇で不在のため、この問題について国内の治安維持を担う守護メイドに、最終的な判断が求められるのは仕方ない。それはわかっているけれど、モミジたちにとっては面倒なことに違いないのだろう。国外の問題は本来は担当外だ。
「ランはなんだって」
「王宮で対応してほしいとのことです」
サツキの上司であるランが本来なら対応すべき案件ではあるが、今回は何故だか王宮に押し付けれれたことになる。王都の防衛を担うランは、メイドとは命令系統が違うため、守護メイドとは対等の関係だった。むしろ戦力的にはランやサツキのお方が比較にならないほど強いのだ。文句を言うことはできるけれど、言うことを聞かせることは不可能だ。
だから面白くない事なのはミチにも十分理解できる。
「うちがサクッと行ってこよっか」
ヒイラギがまた声を上げる。だいぶん乗り気だった。
「それはだめだろう」
「だめですね」
「やめときなさい」
戦闘狂であるヒイラギが現地に行けば、余計な問題を起こす可能性は否定できない。いや、ほぼ確定事項である。ストッパー役のサクラコが居ないとやばいのだけれど、ふたりとも王宮を離れるのは問題だ。本来の業務である女王陛下の護衛が薄くなってしまう。
ヒイラギはとってもやる気になっていたが、他の三人は認めなかった。
「ぐぬぬ」
不満げに椅子に自分の体を投げ出すヒイラギに、モミジは冷たい視線を送る。
「いつもどおり、アイカのところに任せましょう」
第十四席のアイカは警備部第二課の課長職にある副メイド長だ。彼女の部下には戦闘力に秀でたメイドが沢山いるし、彼女自体とても強い。ミナミが管理する第一課に比べて超過激な戦闘メイドは少ないから、国境の小競り合い程度なら確かに適任だろう。過去にも何度か派遣されたことがあり、そういう意味では実績もある。
北西にある連邦との国境付近では、連邦軍が気まぐれに侵攻してくる。いつもならその地域の防衛を任されているサツキがすぐに追い返すのだ。けれど、今サツキは長期休暇で不在だから、今回はアイカの部署にその代行をお願いすると言うことになり会議は終了した。
「これさ、集まる必要があったのかな。オンラインでよくねない?」
アンズがだるそうに席を立つ。
「規則ですから」
同じような感想を持っては居るけれど、ミチに答えられるのはそれだけだ。規則は規則だし、メイド長の命令は絶対だ。
「あんたも大変ねぇ」
そう言ってアンズが一番先に退席する。
「お疲れ様。後は頼みましたよ」
「よろしくね」
モミジとサクラコもそれぞれの執務室に戻っていく。
最後に残ったヒイラギは、ミチの目の前で思い出したように声をかける。
「そう言えば、サツキの屋敷に期待の新人が入ったって聞いたんやけど」
「そうなんですか、詳しくは存じません」
その噂は聞いていた。
「なんでも王宮のメイド候補だって聞いとるで。すごい高スペックらしいやん。自分もうかうかしとられへんな。現地に行ったら用見といてや」
からかうように笑いながらヒイラギは会議室を後にした。
登場人物
モミジ・金剛 (守護メイド、長女)
サクラコ・榛名(守護メイド、次女)
アンズ・比叡 (守護メイド、三女)
ヒイラギ・霧島(守護メイド、四女)
ミチ(王宮メイド 第十一席 副メイド長)