楓夕の手作りお弁当
さて、今日も今日とてレッツ楓夕を落とそうの時間である。
とはいえまだこれといった完璧な作戦は思いついていないので、雨夜先生のアドバイスに従って楓夕を感謝し褒め称えるだけなのだが。
「しかし前回はあんまり上手く行かなかったからなぁ……」
だが大事なのは積み重ねである。何でもいきなり成功するほど甘い話じゃあないのだ、一目惚れされている訳じゃあないんだし。
「さて……そろそろだな」
俺は机の上に散らばっている教科書をしまい込むと視線をちらりと楓夕に向ける。
すると丁度彼女も椅子から立ち上がり俺の方に向かって来る所だった。
「飯だ、食え」
「そんな囚人みたいに言わんでも……」
そんな相変わらずの澄まし顔でずいっと手渡してきたのは弁当である。
これもまた許嫁としての、という奴なのだと思うが、彼女は高校2年になってから休日以外は毎日のように弁当を作ってきてくれている。
あまりにも当然の如くそれを渡すものだから当時は周囲にいじられてしまい、それ以来俺はこっ恥ずかしくてぶっきらぼうな態度を取っていたのだが――
それでも毎日作ってきてくれる彼女にぞんざいな態度を取り続けるのは決して良くないことだ。こういう所からだぞ、俺よ。
「楓夕、ありがとないつもお弁当作ってきてくれて」
「…………」
「いや、その……ちゃんと感謝とか告げたことなかったからこういうのはちゃんと言わないといけないと思っただけで……他意とかそんなのは無いからな?」
「……今日は釘が締まっているので止めておいた方が懸命かと」
「いやパチンコの軍資金の話はしてねえわ」
そんなダメ男みたいな口ぶりだったかね俺……そこまで裏がある言い方をしていると思われているのだとおもうと少しショックではあるが……。
でも何で釘の情報を知っているんですかね……。
「――まあどうでもいいですが。食事が済んだら空箱はいつも通り机の上に置いておいて下さい、では」
「ああちょっと待ってくれ」
「? 貴様と話すようなことはもうないのですが」
「あー、いや、その……たまには一緒に昼飯に食わないか? と思って……」
「…………」
そう口にした瞬間――楓夕の背後からどす黒いオーラのようなものが浮かび上がり、ギロリと鋭い視線が俺を見下す。
まずい……これは踏み込み過ぎだったか……? 如何にもな罵詈雑言を覚悟し、俺は思わず身構えてしまう。
――のだが、ややあって楓夕は溜息をついてこう言うのだった。
「貴様と机を合わせて食事など生産性がありませんが、いいでしょう」
「おお……! そ、その、サンキューな楓夕」
「で、私は何をすればいいですか、咀嚼して口移しですか」
「赤ちゃんではないんですよ……」
いや赤ちゃんでもせんわ、ただの変態プレイじゃねえか。
ふっ……だがこれで弁当を口実に楓夕褒めるチャンスを得た……悪いがここから怒涛の攻めを見せてやるぜ!
「お、今日も美味しそうな弁当だな、流石楓夕の手作り――」
「全部冷凍食品ですが何か」
「――じゃなくたっていい。朝は忙しいからな、余計な手間は省くべきだ」
「は?」
そうだろう? 時を戻そう。――――じゃなくて。
おいおい……楓夕が丹精を込めて作ってくれた手作り弁当を一品一品褒め倒す予定だったのに、まさかの全部冷凍食品だと……?
こうなると最早米しかないのだが、米に褒める点なんてねえよ……。
「ぐうう……なんてこったい……」
「頭を抱えながら食事をしないでくれませんか、食うかそのきしょい顔のまま死ぬかはっきりして下さい」
「イートオアデッド……」
……仕方あるまい、ここは二人で昼食を取れているだけ進歩したと思おう。
第一このまま会話をしていれば自ずとチャンスとなる時はまだあるかもしれない、一つの作戦が失敗したぐらいで挫けているようでは到底――
「……ん? そういえば冷凍食品という割には随分と種類も豊富だし、一品一品が結構拘った感じになっているんだな」
「貴様は弁当など作ったことがないでしょうからどうしようもありませんが、最近の冷凍食品は昔より種類も多く豪華なものが多いので」
「へえ、そうなのか――――……ほんとだ美味い、冷凍とは思えん味だな」
「………………そうか」
「それに野菜や魚もしっかり入って、栄養バランスも良いし、冷凍でもちゃんと考えてくれているんだな、有り難いなぁ――……って、楓夕?」
「…………」
別に何か変なことをいった覚えはない(というより思っていたことを口にした)だけなのだが、何故か楓夕は俯き箸を震わせているではないか。
え? ま、まさか今ので怒らせてしまったのか……?
「あ、あのー……」
「おい」
「はい」
「食事の時は黙って食えと親から習わなかったのですか」
「……ごめんなさい、今後は口を凧糸で結ってから食べます」
いやそれだと飯が食えんけどね。
だが明らかに楓夕が不機嫌になってしまったので、これ以上下手なことは言うべきではない、第一会話も封殺されてしまったし……。
「……はぁ」
どうやら今回もまた失敗である。分かってはいたが、彼女に好きになって貰うというのは一朝一夕で行くほど甘くない……。
しかしまさか耳が赤くなるほど怒ってしまうとは……ううむ……気持ちを伝えるっていうのは意外に難しいもんだな……。
「ふふ…………」