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俺の許嫁は今日も可愛い

「まあ、分かりきっていた結果だわな」


 雨夜先生はそう呟くと依存している相棒を口につけ煙を吐いた。


 今俺がいるのは学校ではなく自宅なのだが、雨夜先生が喫煙者である為ベランダに出て貰ったら何故か俺も出る羽目に。


「まさか楓夕ふゆが好意を持っているのを分かっていたんですか?」


「逆に何故分からなかったのか疑問でしかないんだがなぁ……まあ湯朝には取り分け本心を隠していただろうから仕方ない気もするが」


「ですけど楓夕ふゆは誰にでもああいう態度じゃないですか」


「お前、楓夕ふゆは優しい奴だと言っただろ」


「? ええまあ……ですがそれは――」


 楓夕ふゆは一連の行為は許嫁だからではないと言ってくれたが、優しいという点だけで言えば単純に皆が分かってないだけだと思っている。


 だが雨夜先生は小さく溜息をつくとこう言うのだった。


「あんなに優しいのはお前に対してだけだ。はっきり言って自分の親に対しても楓夕ふゆはあそこまでしてないからな」


「え――そんなの……最高過ぎるにも程がありませんか」


「相変わらず正直な奴め……」


 俺は楓夕ふゆに好意を持って貰う為にあれこれ手を尽くしたものだったが、実際自分が同じ好意を受けると堪らなく嬉しいに決まっている。


 しかも自分だけに――それが楓夕ふゆともなれば嬉しく思わない奴がいるだろうか、いやいない。


「ま――何にせよ、テストは合格と言っていいんじゃないか」


楓夕ふゆのご両親も帰ってきましたしね。正直ホッとはしてます」


「ま、審査項目もお前らが自覚さえすれば最初から済んでいた話だしな」


「導いてくれたのは雨夜先生ですよ、そこは本当に感謝してます」


「……私は何もしてないよ、ただまどろっこしいのは嫌いなだけでね」


「いつまでも俺と楓夕ふゆを審査しているのは面倒だったと?」


「――……さて、何の話やら」


 雨夜先生はそう言うと吸い殻を携帯灰皿に捨て部屋の中へと戻る、俺もその後ろを付いて行くのだが、ふと疑問に思ったことを伝えてみた。


「そういえば――なんですけど」


「ん? どうした?」


楓夕ふゆのご両親は帰って来ましたけど、俺の親はまだ帰ってきてないんですよね、まさか本当に一年かけて世界一周旅行でもしているんですか?」


「ああ……確かに旅行に行っているのは事実なんだが、実はな――」


       ○


「この度、湯朝安昼とお付き合いさせて頂くことになりました」


「まあ!」


 私が長期出張という体から帰宅した母にそう伝えると、ぱあっと明るい笑顔を見せてパタパタと近づいてきた。


「あらあら! まあまあ! あらまあまあ!」


「何ですかその反応は……」


「念の為確認しておくけれど、それは許嫁だから、じゃないわよね?」


「勿論安昼が好きだからです。あんなに好きになった人はいません」


 それこそ金輪際安昼以外の人間を好きになることはないと断言出来る程度には好きと言える、でなければ付き合う筈がない。


「う~ん素晴らしい! やっぱり愛っていいわねえ……私もね、パパとは深い愛に結ばれて結婚したものだったわ~」


「……? 母は許嫁として結婚をしたのではないのですか?」


「何言ってるのよ、私は雨夜とも湯朝とも全く関係ない元お嬢様よ」


「……なんですと?」


 唐突過ぎる衝撃発言に私はその場で固まってしまう。


 いや……しかし考えてもみれば、母が湯朝家の人間であれば苗字は雨夜ではなく湯朝になっている筈だ、ということは……。


「パパとは大学で出会ってねー、当時はとっても格好良かったのよ? 今はちょっとおじさんになっちゃったけど」


「成程……なら、元お嬢様というのは」


「実は私にも許嫁とまでは行かないけど資産家の方と縁談があったのよ、でもパパが好きだったから絶縁して今に至るワケ、ロマンチックでしょう?」


「はあ……」


 中々ハードな過去をこうも楽しそうに語る母がいるのかと言いたくなるが、確かに母方の実家に行った記憶がないので恐らく嘘ではない。


「ですが……そのような経験をしておきながら、何故許嫁というしきたりに肯定的だったのですか? 普通なら反対しそうな気もしますが――」


「何言っているのよ~、そんなの簡単じゃない」


 私は何故か嬉々とする母の態度が理解出来ず呆けた顔になるが、彼女は私の頭をぽんと叩くとこう言うのであった。


「両想いな癖にもどかしい関係を続けているからよ」


「……そういうことですか」


 見透かされた物言いが少し腹立たしくないこともないが、そんなに私達の関係というのは傍から見ると分かりやすかったのだろうか……?


「ま、でもそういうことなら一安心ね、もしかしたら結婚もそう遠くない未来かも……――さて……と」


「? 何処か出掛けられるのですか」


「実はパパがまた色々立て込みそうでね~、すぐ行かなきゃいけないのよ」


 …………ん?


「あの……それはまさか――」


       ○


「おはよう、楓夕ふゆ


「おはよう、安昼」


 俺は目を覚まし一つあくびをすると、ベッドを降りてリビングへと向かう。


 夏休みだからダラダラ寝たい気持ちがあるかと言えば嘘になるが、楓夕ふゆが朝食を作って待っているのに寝る理由はないだろう。


「今日はいつもより寝癖が酷いな」


「暑いとドライヤーで乾かすのが億劫でさ、扇風機で乾かして寝たからかも」


「お前は気を抜くとすぐズボラに……後で直してやるから洗面所に来い」


「お、ありがとう。じゃあ――いただきます」


「いただきます」


 まあ本当は寝癖のままで楓夕ふゆの前に現れるとその寝癖をピコピコ触ってくれるのが可愛くて仕方ないからなんだけど、それは黙っておく。


 相変わらず豪勢な朝食に幸せを感じながらテレビの音を耳に挟んでいると、予報によれば今日も猛暑日とのことらしい。


「――なんかさ」


「なんだ?」


「こうも同居期間が長いと、カップルというより夫婦って感じだよな」


 その言葉に楓夕ふゆは少しだけ耳を赤くする。うむ、どうやら今の言葉は嬉しいと思ってくれているらしい。


「まあ……許嫁なのだから、それでもいいだろう」


「だなぁ。でも、やっぱり恋人らしくデートもしたいかなーって」


「ふむ――な、ならば、花火を一緒に観に行こう」


「お、てことは――楓夕ふゆの浴衣姿が見れると?」


「安昼は――それで喜ぶのか?」


「喜ばない男なんていませんよ、それが楓夕ふゆなら、尚更」


「そうか……なら楽しみにしておけ」


 楓夕ふゆはそう言うとふいと窓の方へと視線を向ける。


 外に広がる雲ひとつない青空は、予報通りにうだるような暑さになることを予見させていたが、それを鬱陶しく思うことはない。


 何故かって? そんなこと言うまでもないだろう。




「今日も、楽しい日になりそうだな」


「当たり前です、安昼がいるのですから」

これにて本編は終了となります。


少し駆け足になったことに関しては大きな反省点ではありますが、ここまで付き合って下さった読者の皆様には最大級の感謝を、本当にありがとうございます。


――とはいえ、彼らの恋仲になってからのお話を殆ど書かないというのは如何なものかと思いましたので、エクストラステージとして何話か、ただただカップルがイチャつくだけのお話を書く予定ですので、もう暫くお付き合い頂けますと幸いでございます。


追記

コメント書いて下さっていた読者の皆様、返信出来ずに大変申し訳ありませんでした。ちゃんと読ませて頂いていましたので、後ほど纏めてご返信させて頂きたいと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最新話まで追いついたと思ったらちょうど本編完結のタイミングでした。 何だか得した気分です。
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